上気する白い肌と、肌を滑る汗。
膝が彼女自身の膨らみを叩く程、細い身体を折り曲げさせて、カカシは荒々しく腰を叩き突けている。
愛しい人の名前を叫びながら。
笑顔の行方 前編
2008年カカシBD夢
「……ッ………んッ……」
「、っ」
行為の最中、彼女が喜びの混じった嬌声を上げ、もうダメと可愛らしく言ったのは、随分前の事。
何度精を放っても、猛りは静まらなく、ずり上がるの身体を押さえ付け、自らの凶器を何度も突き入れた。
息を詰まらせるから聞こえるのは、僅かな声と、カカシの肌がぶつかる音だけ。
小刻みに震え、締め付けるの箇所は、カカシに到達した事を知らせ、
その収縮に合わせてカカシも熱を解き放つが、は刺されたまま。
「ひあッッ!!」
再び最奥を貫かれ声を洩らすの身体は、もう力が入らなく、
糸の切れた人形のように肢体はだらりと横たわり、ベットに投げ出されている。
それでもカカシは突き上げる事を止められなかった。
早起きな鳥達のお喋りが、朝の訪れを知らせてから数時間後、はカカシの腕の中で目覚めた。
静かに眠るカカシに微笑みかけて、その寝顔を楽しんでいれば、すぐに時は過ぎるもの。
名残り惜しいけれど、そろそろ用意を始めなければ、夜間待機との引き継ぎに間に合わない。
このまま一緒に居たいという気持ちにケリを付け、は大きく息を吸い込んで吐き出した。
起こさないようにカカシの身体から離れて、床に散らばった夜着と下着を掴み浴室へと入る。
すると鏡に映った自分の身体には、昨夜愛された赤い証が散りばめられていた。
─── カカシが愛してくれた証拠
自分の体にカカシが刻み込まれているのが嬉しく、は胸に咲いた赤い花を一つ指先でなぞった。
重く力の入らない全身を引きずり、汗と欲望の残りを洗い流して、が身に付けたのは忍服。
ダイニングテーブルの上に残した書き置きは、朝の挨拶と自分の行先を伝えるもの。
ただカカシの部屋から待機所へ向かうだけであって、そこから先は何処へ行くのか、
それともその場所に居続けるのか、にもまだ判らないが。
真夏の太陽は眩しく照りつけ、の視界は白く霞む。
若干震える足に苦笑し、気合を入れようと太ももを両手で思い切り叩けば、体が忍モードに切り替わった。
体力はフル充電されたとは言えないけれど、気合は十分。
気力は十二分。
また当分頑張れる。
そんな気がした。
静まりかえる夜の里内に、点々と姿を現す暗部装束。
それは木の葉襲撃の人手不足から、標準ベストを脱いで、一時古巣に戻ったカカシだ。
月光に煌めく銀糸、白く光る胴宛てと手甲。
顔は動物の面により隠されており、素顔を捕える事は出来ない。
空を舞いながら視線を送った先は、最近まで通っていた上忍待機所だ。
二階の窓の奥をチラリと垣間見れば、夜間待機の者達の姿が見える。
カカシはその中に、恋人のを見つけた。
後ろ姿を見ただけで、自分は帰って来たと安堵するのだが、
最近では尖った神経を一方的に癒してもらうばかりだ。
任務の緊張と高ぶり、そして遣る瀬無さ。
依頼人には理由のある其れであっても、自分に理由は無い。
与えられた任務というだけで、無関係、無抵抗の人間を切る仕事には、未だに慣れなかった。
それでも若い頃は自分の心を凍らせ、感じないようにしてきたのだ。
だが今は。
繋がりや絆が深まり、後進を育て、愛する喜びと愛される喜びを知った今は───。
一段と激しい葛藤の中に居る。
任務だと、仕事だと、割り切れた子供時代の方が、忍らしいのかもしれない。
焼けた石のような心と体は、またもやを求めていた。
彼女の潤いをもって、己の熱を冷ます行為に、愛は十分含まれているけれど、
彼女を思いやれていない事は分かっている。
でもに甘えてしまう。
今度会う時はちゃんと話をしよう。
欲望のまま突き進むのではなくて。
そう思った時だった。
仲間達に囲まれ、嬉しそうに、楽しそうに笑う。
目を細めた笑顔はキラキラと。
そんなの大好きな笑顔を見て、身も心も凍り付いた。
のあんな笑顔を見たのは、何時以来だろうと。
仲間達の中心に居るのは二階にあるテレビで、
誰かがを笑顔にしたのではなく、仲間と笑い合っているだけだけれど。
最近ではそんな時間も二人で取る事なく、を疲れさせ、任務に向かわせていたのだ。
『 ねぇ、カカシ、見て、見て 』
『 見てるよ 』
冗談を言って、大声で笑わせるタイプの自分ではないけれど。
一緒にテレビを見て、楽しそうに笑うの方に、釘付けになるのはよく有る事だった。
今の自分と一緒に居て、彼女が楽しい筈が無い。
ゆったりと笑う時間さえ作ってやれず、求めるだけ求めているのだから。
その夜からカカシが自室で、そしての部屋でも寝る事は無く、
そればかりかの前に姿を現さなくなった。
暗部の任務は火影から直接伝えられ、秘密裏に行われるもの。
だから詳細を知る者など、当事者しかおらず、
カカシが帰って来ているのか、
それともまた次の任務へ出かけた後なのか、
には分からなかった。
ただカカシが居ない、会えない、という事実だけがそこに有る。
が一週間の任務を終え自宅に戻った後、休む場所として選んだのはカカシの部屋だった。
自室で忍具の補充をして、シャワーと着替えを済ませ、途中立ち寄った店で飲み物と簡単な食糧を買った。
カカシの部屋に付き、貰った合鍵で解錠する事にも慣れ、
手にした物を冷蔵庫の中へ入れようと、扉を開ければ。
そこにはの好きなドリンクとお酒、そしてお水。
冷凍庫にも、大好きなアイスが入っていた。
自分が任務で里を離れている間にカカシは帰還し、きっとまた次の任務へ出たのだろう。
疲れているだろうに、態々買い物までして。
それも恋人の好物ばかり。
は庫内の照明に照らされたペットボトルと缶を見つめて、嬉しそうに笑った。
その隣に、今日自分の買った、カカシの好きな飲み物を並べて。
すれ違いの日々は今に始まった事でなく、多くの同僚達が同じ思いをしているのだ。
一週間、二週間は当たり前。
一か月、二か月なんてのも珍しい事ではなく、年単位で会えない事も、無くはない。
自分の置かれている立場は十分 分かっているけれど、
好きな人に逢いたいと思うのは、自然と湧き上がって来る思いで、その感情を抑える芸当なんて持っていない。
寂しさと、身を案じる心と、心細さと。
早くカカシに逢いたい──
そんな想いが募る毎日だった。
昼に謡うは夏の虫。
夜に謡うは秋の虫。
昼間は大木で歌う蝉の声が聞こえ、陽が暮れれば地表から蟋蟀の歌が聞こえてくる長月の初め。
白露(九月八日)を過ぎ、民家の軒下に居た燕達が南に帰った頃、
カカシも暗部装束から通常の忍服へと衣を変え、上忍待機所へ帰って来た。
とは云っても暗殺一色だった任務形態に、通常が交るようになっただけで、激務には変わらない。
切り替えが難しい所だが、部下達が自分の元を離れ、Dランク任務に携わらない事が幸いだった。
「久しぶりだな」
一番先に声を掛けたのは戦友であるアスマだった。
「あー…まぁね」
詮索されたくないと、カカシの細めた瞳が語る。
暗部の任務を請負ってると、アスマは直接火影から聞いたわけではないが、
カカシ不在の理由を濁した言葉で察しろと、五代目の顔が言っていた。
だから居なかった時の事を、深く聞き出すなんて事は、するつもりが無い。
これはただの挨拶だった。
カカシにしてみれば、暗部の仕事に就いていたとしても、ベストに着替え此処に顔を出す事位は出来る。
暗部云々ではない。
来なかった理由は他にある。
それを悟られたくないのだ。
「もう落ち着いたのか? あっちは」
「んー……まぁ、そこそこ?」
首を傾げて軽く言うカカシに、アスマは疑問を浮かべた。
掴み所の無い態度はよくあるのだが、いつもはその奥に凛とした態度と自信がある。
かわした相手を楽しむ余裕すらあるのに、今のカカシにはそれが無かった。
アスマが溜息を隠すように、煙草の煙を吐き出していると、
二人の声を聞きつけたが、待機所の奥からこちらに向かって来る。
邪魔者は退散するべく、カカシの元からアスマが離れ、代わりにがカカシの前に立った。
「おかえり。カカシ」
「…ただいま」
目を細めて、少し猫背で笑う いつものカカシ。
でも少しいつもと違う。
「カカシ……少し痩せた?」
「………そう?」
「うん」
の顔を見て気が緩んだ時だった。
傾げて床を向いた頬に、の手が触れた。
咄嗟に避ける事も出来なく、そのままにしていれば、頬がじんわりと温かくなって、次第に体が熱くなってゆく。
「また兵糧丸ばっかりの生活してたの? ちゃんと寝れてる?」
「ああ。大丈ー夫」
頬に触れていたの手が、肩を通り、腕へと降りて行けば、体内の血液が駆け巡って熱い。
それを振り払うように、カカシは後ずさって、任務があるからと、作った笑顔を残して消えて行った。
「カカ……シ……?」
伸ばしたの腕が宙に浮かび降ろされる。
カカシは怒っている風でもなく、自分に対しての嫌悪感も感じられなかった。
愛は感じるのに、なぜか辛そうで。
彼の置かれている現状は想像が付くから、
はカカシを追いかける事なく、居なくなった空間を黙って見つめていた。
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2008/09/09 かえで
BGM 胡蝶の夢