For Me , For Tomorrow
     〜 After time passed 〜









「先日の検査結果はクラスT。異常なし、ですね。
 次はまた6ヵ月後に検査しましょう。」

早く伝えたい。 きっと今日も来てくれてるはず・・・
はやる心を抑えて病院の玄関を出ると
外には壁に寄りかかって本を読むカカシがいた。


「カカシ、今度も大丈夫だった!」
落ち着いて話そうと思っても、嬉しくて顔は緩み、声は弾んで。
「それは良かった〜」
パタンと本を閉じて、嬉しそうに目を細めたカカシが迎えてくれた。


足取りはいつかとは比べものにならないほど軽く、羽があったら飛んでしまいそうなほど。

「すごくドキドキしてね。”悪くなってたらどうしよう”って頭の中いっぱいになってたの。
 一度良くなっても何度目かの検査でって、そういう話も聞くから・・・でもね、”異常なし”って言われたら
 もうなんか力抜けちゃって〜。 あ〜良かった〜ほっとした〜〜」

-- オレもほっとしたーよ --

「はしゃぎすぎると転ぶヨ」
「大丈夫だって〜」


あの日から、もうすぐ1年と4ヶ月が過ぎる。

詳しい検査をして軽度の異常と診断されて。
『軽度の異常は正常に戻る人も多いです。でも、進んでしまう人もいますから
 検査と経過観察を続けていきましょう』と言われた。
3ヶ月後の検査で、クラスTに戻り、その半年後の検査でもクラスTと言われ
また半年後の検査結果が今日だった。

次も半年後。ここまでくればもう大丈夫かなと思うけれど、”油断大敵”だったよね。




「ちょっと休んでいかない?」
カカシが指したのは、小さな公園。
「・・・いいよ」
?と思いながら、カカシの後について行く。

風も無く晴れ渡った今日は、日付けのわりに暖かく
日だまりのベンチに座ると、カカシが細身の小箱を手渡した。

「憶えてる?もう随分前のことになるけど。」
急いで記憶の糸を探る。 何だろう。 何かあったかな・・・

「ご褒美。 約束してたでショ」

ご褒美・・・ 
「あっもしかしてあの時の? すっかり忘れてた。っていうか、本気にしてなかった」
「オレもね、あの時は本気じゃないっていうか、小さなお菓子か何か、その程度の気持ちだった」
 
カカシは膝に腕を乗せて、少し前かがみに掌を組み、視線を少し先に投げて話し始めた。

「今度、って思っているうちにあの迎えに行った日になって
 その後しばらくは、もうご褒美とかそういう気分じゃなかったでしょ、さんも。」
「私、いっぱい泣いたもんね・・・」
「で、去年の誕生日に何かって思ったけど、その頃忙しくて、
 結果聞く日に時間取るのがやっとだった」
「そうだったの?無理に時間作ってくれなくても良かったのに」
体勢はそのままに、こちらを向いて。 横顔を見ていた私と視線が絡む。

「オレが、迎えに来たかったの」

「あの日から、結果の日はいつも来てくれたよね・・・今日も来てくれた」
カカシは、視線を少し離れた遊具に移して、ぼやかして。

「だって、良くない結果が出ちゃったら、きっと泣くから。
 ひとりで泣かせたくなかったのヨ・・・家族の前では我慢しちゃうだろうし。
 でね、そのうち日にちが経っちゃって。 そしたらもう、今更でしょ。
 何でもない時のことだったら、オレも忘れちゃうんだろうけど
 忘れられなくってね・・・あの日からさんが頑張ってるの、知ってるから。」
「頑張ってなんか、いないよ」
「・・・頑張ってたヨ。 ときどき身体のこと考えてたでしょ。」
カカシの言う通り。
口に出すのは控えていたけれど、頭から消えることは無かった。
「まぁね、やっぱりいろいろね・・・今でも・・・かな。それは」
「そういうとき寂しそうな不安そうな顔しててね・・・でも、声かけるとぱっと別人みたいに笑うんだよね」
「・・・」
「だから決めたんだ。 今回の結果と誕生日が近いから。
 結果良かったら、ご褒美渡そうって・・・」 


膝の上の白い箱、カカシが用意してくれた、ご褒美・・・


「開けてみて」

そっとふたを開けると、小さなクロス。
「ダイヤじゃ無いけど、きれいでしょ。」
たぶん、ジルコニア。 でも日差しに輝いてまぶしいくらい。

「異国では十字が悪霊から身を守るっていうから、さんも守ってくれるようにってね。
 雪の結晶を思わせるデザインも、2月生まれのさんにぴったりでしょ。」

クロスの堅苦しさのない可愛らしいデザイン・・・手にとればキラキラ輝いて。

「もっと早くに渡そうと思えば、渡せてた。
 でもクリスマスとかそういうイベントには合わせたくなくてね」

「カカシ・・・」
「どう、気に入って貰えた?」
「また・・・泣かせるつもり?・・・」

ふたを開ける前から、もう視界は滲んでいた。 だから言葉が出せなかった。
何か話せば、涙声になるとわかっていたから。
滲んだ涙は溢れて・・・こぼれて・・・

「つけてあげるよ」
クロスを手にとり、後ろに回って。
上から首にかけ金具を止めると、肩にかかる髪を直して。
カカシはベンチの背に浅く腰掛けた。

「うん、似合ってる」

「・・・ありがとう・・・」
一言話すのが精一杯。胸が詰まって言葉がちゃんと続かない。

「本当なら・・・カカシにはね・・・いっぱい支えてもらったから・・・私からあげなくちゃ、いけないのに・・・」

「オレはもう貰ってるよ・・・さんの、本当の笑顔。
 さっき、すごく嬉しそうに玄関出てきたでしょ。 あの時久しぶりに本当の笑顔見せてくれた」

こんなこと言われちゃったら、もう・・・

「もう一つ言い忘れてた。 誕生日おめでとう。 まだちょっと早いか・・・」

涙で何も言えなくなった私を、カカシが笑顔で眺めてる。
でも、今日は嬉しい涙。
こんな日になるなんて、思っても見なかった。

「まるで水遁の術だね。 さんの眼って・」

-- 今日は泣かせるつもりでいたのヨ。
   口説く対象にはできないけれど。 たまにはいいでしょ・・・こういうのも --

「・・・もう泣かないって決めてたのに・・・」

「いいんじゃない、泣いても。 嬉し涙なら、多いほうがいい」

隣に戻ったカカシは空になった小箱をポーチにしまった。





波も次第に収まって。 ふと見れば、咲き始めた梅の花に目が止まる。

「次の検査が怖くてね・・・どうせ、自然に戻っちゃう人が多いなら
 あの時検査なんか受けなきゃ良かったって何度も思った。」
カカシの眼が少し曇る。
「でもね、そう思いながら、あの日検査しなかったら、きっと悪い方向に行ってたって思ったりね。
 今日はね、いろんなこと、今までの全部、良かったって思うの。
 何も無かったら、自分の身体のこと。 支えてくれる人がこんなにもいること。 考えることなんてきっと無かった・・・
 もしね、お医者さんが『もう大丈夫』って言ってくれるときがきても、もう検診サボったりしないよ。
 怖いし、嫌だけど・・・でも、自分を守るのはこれくらいしか出来ないもん」

「このまま先に進まず、終わるといーね。」
「まだ、わからないけどね・・・でもね・・・大丈夫って、そんな気がする。」

カカシは手を頭の後ろで組んで、背もたれに寄りかかって、空を仰いだ。

「まだ寒いけど、もうすぐ春が来るよ・・・」

「うん、そうだね・・・」
同じ空を見上げたら、青が目に染みた。











いつもカカシが消えるポイント。
今日もまた、ここで別れる。

「近いうちに少し長く里を離れる任務が入るから、しばらく顔見に来れないよ。
 次はまた半年後だよね。 日にちが決まったら、ゲンマが寄ったときにでも伝えておいて。」

「わかった。 任務、気をつけてね」

-- そうだ、言っておかなくちゃ --

「そういえば前から気になってることがあるの。 ゲンマ君、私たちのこと、勘違いしてない?」
「いーんじゃない、放っておけば」
「カカシはいいかもしれないけど、私は困るよ」

-- オレの我慢を知っていて、そーいうこと言ってるのかね〜 --

「まっ、ゲンマが思ってるようなことは、今のところないけどね」
ふっと消えたと思った次の瞬間、私の後ろに。
耳元に、息がかかるくらいに顔を近付けて・・・

「でも、想像くらいは、シテくれてるでショ v 」










これからたくさんの楽しいときを過ごしていこうヨ。




自分のために・・・

そして

誰かとともに・・・












<fin>






2008/1/20
written by kinpouge


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金鳳花さんより頂きました、続編ですv
良かった、良かった。
ヒロインさんもカカシも笑顔で元気になって。
(勿論、作者様も元気ですよv)
心が温かくなりましたね〜♪

さ、最後、「想像くらいは〜」って・・・・・・
うふふ・・・してますよ、してますよーカカシ!!毎日よっ(笑)

とても色々胸に刻まれたドリでした。
私も行かなきゃなぁ・・・怖いけど。
きっと何処かにいる貴女も、勇気を貰ったのではないでしょうか。

金鳳花さん、素敵なお話本当にありがとうございました。

そうそう今回は、背景も金鳳花様作ですv
ワラジをいっぱい履いてらっしゃいます(尊敬っ)

かえで