納得なんてできないんだから!
だって、認めてほしくて今まで頑張ってきたのに・・
《前編》
はぐっと力こぶしを作ると火影の執務室ドアを蹴破る勢いで開いた。
「騒々しいな、」
「綱手様、お話があります!」
の剣幕に驚きもせず、綱手は大きな机の上にドンと大きな胸を乗せて書類を読んでいる。
─あいからわずの迫力ボディ・・・
ちらりと自分の胸と比較してみる。
どんぶりとお猪口ぐらいの差がある。
「何をじろじろ見てんだい、お前は。」
「そのでかい胸・・じゃなくてですね!これはどういうことなんですか!」
は綱手の前にビッと一枚の紙を突き出した。
「見たまんまじゃないか。お前には諜報くの一としての素質はなし、引き続き後方任務として働くようにってことだ。」
「─っ、だから!何で諜報の素質がないなんて・・」
は諜報の最終訓練でも合格点を出したはずだ。
何とかギリギリではあったが。
「訓練では辛うじて合格してもね、お前を担当した教官全てが進言してきたよ。」
「え・・」
「『お前を諜報に就けないでやってくれ』ってな。」
の目の前が真っ暗になった。
教官たちはどの人も親切に教えてくれた、感情を抑えるコツ、相手を誘惑する仕草、触れられても冷静に対処する方法・・・
「あんなに熱心に教えてくれていたのに・・・」
こんな嫌がらせをされるほど嫌われていたのだろうか?
「お前、なんで奴らが口を揃えてそう言ったのか、わからないのかい?」
「・・・わかるわけないです。」
── いいわよね?アンタは体張らなくてもいいじゃない。
── アンタなんかと一緒にしないでよ。
── アンタにはわかんないわよ、アタシたちの気持ちなんて。
── 後ろで見ているだけの人が何言ってんのよ。
の頭の中に木霊するいくつもの声。
に向けられるあの蔑みの視線。
もう何年も耐えてきたのだ。
唇をかみ締め、悔しさに震える身体を自身の腕で抱きしめていなければ、暴れだしそうだった。
「──仕方ないね、じゃ・・お前に最後のチャンスをやろうじゃないか。」
その言葉にはパッと顔を上げた。
「・・よろしいのですか?綱手様、あのような・・・」
が勢いよく出て行ってからの火影の執務室。
それまで成り行きを見守っていたシズネが初めて口を開いた。
「ん?あぁ・・あの男なら上手くやってくれるだろうさ。」
綱手はふっと窓の外に視線を送り、一つ息を吐き出した。
「やってやろうじゃない!」
このまま引き下がってたまるもんですか。
はある場所目指して一目散に走っていた。
もう、出来損ないなんて言わせない。
あたしだって、その気になれば。
「ね、ゲンマいる?」
ドンと勢いよく開いた待機所のドアの目の前に目的の男はいた。
「あ?なんだ、。オレに用か?」
ゲンマはの方へ一歩近づくといつものようにの頭をよしよしと撫でる。
幼馴染ということもあってか、が20歳を越えるようになってもゲンマは『隣のお兄ちゃん』然を止めるつもりがないようだった。
ゲンマの掌はほんのり暖かくて、そうされることはのお気に入りでもあったが、今は状況が違う。
「うん、ちょっと今夜予定あけといてよ、任務がないんだったらだけど。」
こんなふうな誘いも周りからすれば、「兄に用件を伝える妹」としか見えないようで、誰もひやかすこともない。
「いいぜ。今日はもうすぐ上がりだ。先に俺ん家で待っとけよ。」
ゲンマ自身もの誘いにごく自然に応えている。
は思う。
もうちょっと、何かリアクション違ってもいいんじゃない?・・と。
だって、自分はもう立派な成人女性なのだ。
その自分が「夜に誘って」いるのに、ゲンマはほんの少しも表情を変えない。
── 少しぐらいドキッとしなさいよ、ゲンマのバカ・・
毎回のことだがゲンマの様子にちくんとの胸が痛んだ。
でも、今日はそんなことを気にしている場合ではないのだ。
「わかった。じゃ、また後でね。」
来た時と同じようにまた勢いよくドアを開けて出ていく。
「・・・ったく・・アイツは自覚ねーのがたまんねぇよ・・」
その去った後に楊枝を上下に揺らして頭を掻くゲンマがいることも知らずに。
は瞬身の術で自宅に帰り、急いで支度をする。
いつもは堅く結ってある髪を降ろし、軽く波打つその髪にふんわりとやわらかい香りのするスプレーをほんの少し吹きかけ、
忍服を脱ぎ、裾部分がレースで胸の部分がフリルを使ったキャミソールを着込む。
下は黒のAラインのスカート。
童顔のはこういった服装が一番よく似合っていると、教官に見立ててもらったものだ。
一見、お嬢様のような清楚な服装でありながら上半身の露出はわりと多めで、胸なんて少し屈んだら見えてしまいそうだ。
でも、その見えそうで見えないのが一番いいらしい。
「がんばるんだ、。この試練を乗り越えたら一人前なんだから。」
この服装は今日のの戦闘服。
気合も十分にはゲンマの家に向かった。
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「・・・なんだ?今日は何かあったのか?」
ゲンマが自宅に帰り着いて発した最初の一言がこれだった。
それもそうだろう。
いつもはラフな格好しかしないがお嬢様然とした可愛らしくまた肩を露出したゲンマ的にはかなり目のやり場に困る服装でにっこりと笑っているのだ。
「ううん。たまにはこんな服も着てみようかなって・・変かな・・?」
ぽっと頬を染めて上目遣いにゲンマを見上げる。
その様子はいつものお転婆で元気印のとはとても思えない。
「いや・・変じゃねぇけどな。」
──調子狂っちまうぜ・・とゲンマは口の中で一人ごちた。
「そう?よかった。ゲンマ、ご飯食べるでしょ?あたし作ったの。今温めてくるね。」
その間にお風呂でも入ってきたら?とゲンマに風呂を勧める。
そしてゲンマの忍服の上着を受け取り、側にあった衣文掛けに通し、持参したのかはこれまた可愛らしいエプロンをつけてキッチンへ小走りに駆けていく。
その様子はまるで新妻のようだ。
「・・っ・・どーなってやがる・・」
そうに問いただすこともできず、ゲンマはおとなしく風呂に向かう。
はその様子をちらりと横目で見ながら、しばらくしてから風呂場へと足を向けた。
風呂場の脱衣所に入るとは早速目的の物を探す。
ゲンマが脱ぎ捨てた忍服を注意深く探ってもそれはなかった。
「・・・ない・・・。」
「あ?、そこで何してんだ?」
風呂場の中からゲンマが声をかけてくる。
長居はできない。
「うん、洗濯もしようかと思って・・」
「──わりぃな。」
とっさに出た言葉でゲンマは誤魔化せたようだ。
はゲンマの衣服をその場から持ち出すと、洗濯機へ向かった。
一方風呂の中のゲンマというと・・・
「やべぇ・・・な・・」
一瞬が風呂に入ってくるのかと期待してしまった。
まさか、そんなことはあるはずもないとわかってはいるのに。
いつもとは調子の違うに、「もしかして・・」と考えてしまったのだ。
しかも男とは悲しいもので、期待したことが一瞬にして肉体に繋がってしまう。
「元気だもんだ、俺もまだまだってことか。」
その存在を無視し、考えを振り払うようにゲンマはごしごしと蛇口の下で手を動かした。
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