TIME IS ON MY SIDE

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「俺は『秋刀魚の塩焼き定食』ね」
「八神君と矢吹君は?」
「『Tボーンステーキセット』と赤ワイン」
「あ、俺は『ハンバーグランチ』でお願いしますっ」
「じゃあ僕は、『チーズリゾット』と『ミックスサラダ』で」

 一通りの注文を済ませると、なんとも言えない沈黙が流れた。
 4人用のテーブルで奥に京、その隣に、向かいに八神で、その横に矢吹が座っている。京がの腕を掴んだまま席についたので、こういう席順になったのだ。
「矢吹君は、高校生だったよね」
 ここは年上の自分が話を回さなければ、とがとりあえず一番乗ってきてくれそうな矢吹に話を振った。
「はい!草薙さんの後輩っす」
「そっかー、テストとか大変だよねー、懐かしいなぁ。矢吹君は成績の方は大丈夫?」
「せ…成績………は、…あう………」
 「成績」という言葉を聞いた途端、矢吹の顔は見る々々曇り、ついには下を向いてしまった。
「え…と………」
(ヤバ………)
 聞いてはいけない事だったらしいと気付いても、ここで「ごめんね」と謝るのは余計に気まずいし…。
「や、八神君は成績良さそうだよね?」
 京の成績が悪いのは当然知っているし、ここは八神に賭けることにしただったが、それを聞いた八神はフンと鼻で笑った。
「…忘れた。俺には昔の事だからな」
「あ………」
 そう言えばそうだった。京の存在でマヒしていたが、20歳といえば普通はもう高校生ではない。京と同い年という事で、なんとなく八神も高校生のようなイメージがあっただったが、彼は留年していないのだ。

「………皆で、…しりとりしようか………?」
………、無理すんな。胃に穴開くぞ」
 苦し紛れの提案も、京にやんわりと却下された。



「『ミックスサラダ』のお客様は…」
「あ、僕です」
 一通りの料理が揃い、最後にのサラダがテーブルの上に置かれた。しかし、目の前に置かれたサラダを見た、の表情が固まる。
(うわ〜、生ハムがのってる………。これ苦手なんだよなぁ…)
 サラダの上には、真ん中に少量の生ハムがちょこんと居座っていた。
 はちらりと八神を見上げた。
(そういえば、八神君の好物って肉だったよね。…生ハムも一応、肉…?)
「あの、八神君…」
 名前を呼ばれて、八神が無言で視線を向けた。
「生ハムって…、食べられる?」
「………何だ、好き嫌いか?…そんなだから大きくなれないんだぞ」
 嫌味と共に、皮肉気な笑みを浮かべられる。
「うう…」
 図星なだけに言葉に詰まるに、八神はフンと鼻を鳴らすとTボーンステーキの皿をの近くに滑らせた。「はちっちゃくて良いんだよ、可愛いんだからよ」という京の言葉は無視した。
「よこせ。食ってやる」
「えっ、良いの?」
「早くしろ」
 急かされて慌ててフォークに全ての生ハムを刺し、八神の皿に移そうとするが、フォークから上手く生ハムがはずれない。
(あああ、どうしようっ、八神君待ってるのにっ)
 思い余ったは、生ハムが刺さったままのフォークを八神の口の前に差し出した。
「あ…、あ〜ん」
 一瞬、面食らった表情を見せた八神だったが、特に躊躇う事もなく目の前のフォークに噛み付いた。生ハムがフォークから引き抜かれていく感覚が、フォークを持つ手に伝わる。
 それに驚いたのは、むしろの方だった。
(…い………今僕、何した?…てゆーか、…え?………ええええー!?)
 はフォークを差し出したままの姿勢で、生ハムを咀嚼する八神を目をまん丸くして見つめた。京と矢吹も固まってしまっている。
(な…、なんか可愛い………)
 てゆーか、なんかエロイ。(またそれか)
 八神は、顔を赤くして自分を凝視するを一瞥すると、ニヤリと口角を上げた。
「イヤラシイ目で見るな」
「いっ…イヤラシイ…って………」
 見てました。ゴメンナサイ。
…おま…っ、何してんだ…」
 京にもしどろもどろなツッコミを受けるが、自分でももうよくわからない。
「う…、あの、…出来心で………」
さん…、チャレンジャーっすね…」
 矢吹の意味不明なようで妙にしっくりくる言葉が、4人の間を吹きぬけた。


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