家具の少ない簡素な室内に、パイプベッドの規則的な軋みが響く。
「ンッ…、ハッ…、ハ…、ハァ…、アッ」
そして、合間に聞こえる息づかいと喘ぎが、濃密な空気を作りあげていた。
「相変わらず…、熱いな…お前の中は」
激しく突き上げながら耳元で囁かれ、は無意識に自分の中をズルズルと出入りするソレを、締め付けた。
「ああっ!ダメ…っ、も…、いやぁっ…」
「もっと、鳴け」
前立腺を抉るように腰を回されると、の身体がビクリと跳ねる。そして、快感に耐えるようにシーツを握り締めると、身体を仰け反らせて小さく震えた。
「アア…ァッ!」
「いい声だ…」
庵の満足そうな呟きを、は霞んだ意識の中で聞いていた。
庵は行為の最中、いつもを鳴かせたがる。の声が好きなんだそうだ。
そういえば、庵がの居るバンドに入った時も、の声で決めたと言っていた。
は生まれながらの美声と、音高の声楽部で鍛えた高い技術を併せ持った、実力派のボーカリストだった。
自身、自分の歌声には自信があるし、庵がそれを好きだと言ってくれるのは、とても嬉しいのだが…。正直、こういった行為で甘い声をあげさせられる事には、いつまでたっても慣れる事ができない。
(自分の声じゃ…、ないみたいだ)
耳を塞ぎたいような羞恥を感じるのに、どこかでそんな自分を受け入れてしまっているのは…。庵が求めてくれるのを、素直に嬉しいと思う自分が居るからだろうか。
(結局、…惚れちゃってるんだよな。この男に)
庵はどうなんだろう…。
好きなのは、僕の声だけ?
僕を抱くのは、普段とは違う声を出させたいから…?
「考え事か?…随分と余裕だな」
汗に濡れたの前髪を撫で上げながら、庵は口の端を上げた。
「この程度では、足りないらしい…」
「ち…、違っ…!」
が否定する間もなく、更なる速さと激しさで突き上げられ、頭の中が真っ白になる。
「ヤッ…!ゆっく…り…っ!」
強い力で揺さぶられながら、は必死で言葉を紡いだ。
ハッキリ言って、庵の屹立の大きさは半端ではない。初めての時は、焼かれるような激痛を味わったし、今だって余裕で受け入れている訳ではない。
乱暴に動かれると、次の日が大変だという事を、は身をもって知っていた。
「ダ…メ、…待っ、て!庵の…、おっきい、から…ぁっ」
が途切れ途切れに訴えると、庵の目が鋭く細められた。
「誰と比べている」
「…え……?」
庵はの問いかけるような視線を無視すると、一旦、己の欲望を引き抜いた。そしての身体をうつ伏せにし、無言のまま一気に後ろから貫いた。
「ひっ…!ア…ァッ!」
容赦ない突き上げに、の喉から悲鳴が上がる。
なんとか逃げ出そうともがくが、その腰は庵の大きな手にしっかりと掴まれ、の手は虚しくシーツをかきむしった。
快感と苦痛に身を震わせながら、やがての意識は庵の灼熱の杭によって白く焼かれていった。
「庵…、今年も、出るの?あの大会…」
夜の静寂の中、激しい行為に消耗した身体を横たえ、は隣に横たわる庵に問いかけた。
「ああ」
「そっか………」
庵は、毎年夏に開かれる『The King of Fighters』という格闘技大会に’95から参加している。草薙京という、彼のライバルが参加している事を知って出始めたらしいが、家の事だの因縁だのという話を聞いても、にはいまいち、ピンとこなかった。
いつもはあまり感情を表に出さない庵が、草薙という男の事に関してだけは妙に感情的になるのが、何となく胸に引っかかってもいた。
庵は以前、大会の後姿をくらまし、約一年間行方不明だった事もある。
その間、バンド仲間の間では、新しいベースを入れた方が良いという話が何度も出たが、その度には反対し、結局、庵が居ない間はゲストのベーシストを入れる事で凌いだのだ。
しかし庵が戻り、行方知れずだった理由が草薙絡みだと知って、はとても虚しくなった。
庵の目には彼しか映っていない…。そう、思い知らされた。
(それでも………)
「ちゃんと、…帰ってくるよね?」
「多分な」
素っ気無い言葉に、胸が痛くなる。庵は天井を見上げたままで、こちらを見てもくれない。
「帰ってきてくれなきゃ…、嫌だっ…」
先程の行為の影響もあって、頭の中がぐちゃぐちゃで…、思わず泣き声のような声で縋ってしまう。
「そんなに心配なら、お前も一緒に来たらいい」
「え…?」
「来い。試合以外は俺もヒマなんだ。どうせお前も、俺がいなければ何もする事があるまい」
なんて勝手な男だろう。
「浮気なんてする気も起きないほど、抱いてやる」
庵が目線だけをよこして、口元を歪めた。
(浮気…?)
は庵以外の男は知らない。それどころか、庵と関係を持つようになってからというもの、女を相手にする気も起きないというのに…。
何を勘違いしているのかは知らないが、しかし…。
(僕が他の誰かとSEXする事は、庵にとって『浮気』になるんだ…)
なんだかくすぐったくって、クスリと笑った。
「なんだ。来るのか、来ないのか」
庵が、不機嫌そうにこちらを見る。
「うん、行く。もちろん」
行けば行ったで、庵と草薙京との関係を間近で見て、余計に落ち込む事になるかも知れない。
を連れて行く事は、庵にとって本当にただの暇つぶしなのかも知れない。
それでも…。
(それでも僕は、庵が好きなんだ………)
は、疲労でいう事をきかない身体をなんとか捩り、庵の広い胸板に抱きついた。
明日はきっと、ベッドから起きる事も出来ないだろうが…。
◇END◇
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次はKOF参加者な主人公でも書きたいです。ちょっと長めの連載で。
2008/7/21 レンブラント
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