昼休みに司からもらったメールを思い返しては、ウフウフと一人で思い出し笑いをしてしまう顔を教科書で隠しつつ午後の授業を終えた。
勉強なんて全く頭に入らなかったけど、こんなに嬉しい今日ぐらい許してもらおう。
のんびりとした三浦先生の声を遠くに聞きながら帰りのHRを終え、教科書類を乱雑に詰め込んだグリーンのバックパックを背負って、早速部活に行こうと響と一緒に張り切って教室を出た所で。
「忍ちゃんに聞きたい事があるんだけど、
ちょっとだけいい?」
僕に話しかけてるのか響に話しかけてるのか、イマイチわからない感じで声をかけて来たのは、D組で剣道部に所属している田町(タマチ)君。
とても明るくて気さくな良い人で、同じ武道系の部活というのもあって何回も話した事がある。
「うん、いいよ。
聞きたい事って何?」
「良かった。
でも個人的なことだから場所変えても良いかな?
俺も部活に行かなきゃいけないし、ホントに少し
だけだから。」
確かに周りからはまた野次みたいなのが飛び始めているので、ちゃんと話が出来そうもない。
司が学園にいない今、以前のような事がないように、呼び出しとかを受ける時は必ず響がついて来てくれる。
だから隣の響を見上げると黙ったまま頷いてくれたので、『僕達の道場の手前にある階段の踊り場でいい?』 と聞くと 『じゃあ今部活の準備をして行くから』 と言って教室に走って戻って行った。
「相変わらず忍も大変だね〜」
丁度その時、今の様子を見ていたらしい奏と暁が帰り支度を終えて近付いて来た。
なのでいつも通り道場に向かう廊下を奏と響が並んで歩き、その後ろに僕と暁が続く。
「田町君は聞きたい事って言ってたから、きっとそういうの
じゃないと思うよ?」
すると暁が響に話しかけた。
「アイツだろ?忍のファンクラブの会長。
だったらそんなに心配ないか。」
「???」
ファンクラブ?
初めて聞く言葉に驚いている僕をよそに、響は 『あぁ』 と答えているし奏まで 『じゃあ大丈夫かな』 とか言っている。
「ねぇねぇ、僕のファンクラブって何の話?」
3人とも背が高いので、文字通り頭の上で会話が交わされているのはちょっとだけ悔しい気がしないでもなかったけど、今はそんな事は置いておいて、話の内容がさっぱりわからない。
すると響にポンと頭を叩かれた。
「つい最近出来たらしい。
一人だけ抜け駆けしないという鉄則があって、忍本人にも
俺達にも迷惑かけないから、特別隊の公認にしてほしいと
言われたんだ。」
特別隊の公認って……
「皆瀬に話したら、その方がバカな真似をする奴が減るだろう
から、と頼まれたから黙って見過ごしている。
忍に隠していた訳じゃないが、わざわざ言うほどの事でも
ないからな。」
司と響は結構気が合うらしく、電話やメールで何かと直接連絡を取り合ったりしている。
二人とも普段はそんなに口数が多い方じゃないので、何を話しているのか興味はあったりするんだけど、何かあれば司も響も自分から話してくれる筈だから、と思って内容までは聞いていない。
だからまさかそんな話題が出てるなんて思ってもみなかった。
でもそう言われると、あの学祭以降驚くぐらい増えていた呼び出しや手紙が、確かに急に減って来た気がする。
知らないうちに、司も響達も僕を守ってくれてたんだ……
いつもホントにありがと、と頭を下げてお礼を言うと、俺達は別に何もしてないぜ、と暁が言って3人とも笑ってくれた。
「でもファンクラブって……
僕は芸能人じゃないから何もしてあげられないのに。」
腕を組みながら首を傾げると、暁がカバンを肩にかけ直しながら苦笑いをした。
「『みんなで忍ちゃんを応援しましょ〜』って、本人達の
自己満足なんだから別にいいんじゃねぇか〜?
それにその方が直接言い寄って来る奴らも減って、
必然的に皆瀬の心配も減るだろ?
モテる恋人を持つってのは結構苦労するんだぜ?」
すると 『それってよくわかる』 と奏が同じく苦笑した。
「忍は細かい事気にしないで、いつも通りでいれば
いいんだよ。
それが俺達の望みだしファンクラブの人達だって
そうだと思うから。」