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第一印象

矢追森 視点

一緒に暮らし始めて1週間。
トモノリの家に住み込んだ僕は、様々な新しい発見に嬉々として 過ごしている。

一番の発見は、何と言ってもトモノリが第一印象と 全然違う人だったって事。
全く喋らず(まあそれはトモノリが決めてた事だったんだけど) ちょっと怖い人かな?と思ってたのに、実際は思ってたよりも 良く話をしてくれるし、いつも僕を優しい目で見てくれる。
前のクールな感じも好きだったけど、でもやっぱり今のトモノリが いい。
一緒にいればいるほどどんどん好きになって、もっともっとその声で 僕の名前を呼んで欲しくてたまらない。

トモノリは僕の事どう思ってるんだろう?
こうやって一緒に暮らし始めて、後悔なんかしてないだろうか?
だって僕は料理も出来ない、掃除も下手、 学校も途中で行かなくなっちゃったから頭も悪いし……

だけど、前みたいに誰かに買われたりなんて全然してないし、 これからもするつもりはない。
それはトモノリが絶対に許さないから、と言うより、 僕自身もトモノリ以外に触られるなんて嫌だし。

トモノリはどうなんだろう?
好きだと言葉で言われた事はまだないけれど……


だけど、僕がトモノリの事を好きな気持ちは本当だよ?
だからこのまま一緒にいて?
トモノリの為だったら何でも頑張るから。
だから捨てないで?


佐倉智紀 視点

同僚の野本(ノモト)から男娼にハマッタと聞いた時、 正直何て馬鹿な奴だと思った。
一緒に飲みに行ったバーのカウンターに突っ伏して、 プレゼントを買って行ったりしてるのに、全く振り向いてもらえないと 嘆いている。

22歳で入社してから6年、何かと気安い野本とは結構二人で 飲みに行ったりして、馬鹿な事もお互いしてきた。
でも、よりにもよって男にハマルなんて……
俺が軽く肩を竦めてバーボンを一口飲んだ時

「なぁ、どうせ抱かれるならキス位させてくれてもいいと
 思わないか〜?」

野本が俺を横目で見ながら問いかける。

「散々抱いておいて、キスもしてないのか?」

と俺が驚いて聞くと野本は、はぁ〜、と深い溜息をつく。

「それがさ〜、キスだけは本命の人としかしないって言うんだよ。
 まぁ今は本命はいないらしいけどね〜。」

と言ってまた溜息をつく。
その言葉に俺はちょっと興味を引かれた。
体はいいけどキスはダメって、何だか女みたいだな……

「……でもそこまで言われてるなら可能性はないだろ?
 きっと似たようなのは他にもいるから、他をあたれよ。」

俺がそう言うと野本はムッとして立ち上がる。

「じゃあ今から行って見せてやるよ。その辺にいるのとは
 全然違うんだからな。」

同僚をそこまでハメタ奴に興味がないと言えば嘘になる。
だから眉唾だとは思いつつ野本の後について行った。


その汚い路地裏には若い男が5、6人立っていた。
俺達が覗くと、手前の方にいた1人が近寄ってくる。

「お兄さん達、僕とイイコトしない?
 絶対楽しませるからさ〜。1対1でも3人でも構わないよ?」

高校生位だろうか。
今時の流行なのだろうが、だらしないその格好が嫌で俺は顔を 背けた。
その後も何人か声をかけて来たが、俺が返事もせずに突っ立って いるので、皆それぞれの持ち場(?)に戻っていく。

その間に野本は真っ直ぐ奥を目指し、一番奥で下を向いて 立っていた少年に声をかけていた。
ちょっと困ったような顔をして野本と話しているその少年は、 天然パーマなのだろうか、柔らかそうなくるくるした栗色の巻き毛で、 肌は透き通るほど白い。
背は隣に立っている野本との身長差を考えると、170はないだろう。
細身で華奢なその見た目と、人形のようにぱっちりと大きな目。
そのうち野本が金を渡し、その少年の肩を抱いて俺が立っているのと 反対側から路地裏を出て行った。
俺はいつの間にか詰めていた息を、ゆっくりとはいた。


何故あんな綺麗な子が体を売らなければならないのか。
それがシンの第一印象だった。