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The Star Festival

『龍門学園シリーズ』の高梨響と高梨奏の場合


「ねぇねぇ、みんな短冊のお願い事、なんて書くの?」

橋元忍(ハシモトシノブ)が楽しげに口を開く。
試合後という事もあって空手部の練習が休みだった俺、
高梨響(タカナシヒビキ)とシノブは、
放課後珍しく2年C組の教室に遊びに来ていた。
俺とシノブは2年A組だが、C組には俺の双子の兄で大切な人である
高梨奏(タカナシカナデ)と、カナデの親友である大友暁(オオトモサトル)がいる。

「短冊に願い事書いたってどうせ叶うわけじゃあるまいし、
 成績をあげろ、とかそんなんでいいんじゃねーの?」

全く夢のないサトルの台詞だが、確かに俺もそう思う。
俺達の学校は7月7日にでっかい笹を学校が用意して、教師も生徒も
学院関係者全員の短冊を飾るという習慣がある。
去年初めてそれを知った時は、男ばかりの学校でそんな事をして
何が面白いんだ?と思いながら、確か試合に勝てるように、とか書いた気がする。
まぁ実際試合は勝てたものの、まだカナデと付き合う前だったし
はっきり言ってそういうイベント事には全く興味が無かった。

「相変わらずサトルは夢がないよな〜。俺は今年どうしようかな。
 ヒビキともっと一緒にいられますように、っていうのはどう?」

そう言って笑いかけてくるカナデに俺が苦笑すると、はぁ〜、と
大げさに溜息をついたサトルが口を開く。

「お前な〜、家では散々一緒にいるし学校も同じだし
 これ以上一緒にいてどうすんだよ?
 そんなにタカナシの顔が見たきゃ、鏡で自分の顔でも見てればいいだろ?」

「それは違うだろ?いくら顔が同じでも、俺とヒビキは全然違うんだからな!
 それに学校ではクラスも違うし、俺よりシノブの方が一緒にいる時間が長いし。」

「ちょっと〜、どうしてそこに僕が出てくるの?僕を巻き込まないでよ〜。」

そんな会話を繰り広げる3人を笑って見ながら、ふと窓の外を見た。
今はもう梅雨の時期で、連日雨が続いている。
この分ならきっと明後日の七夕も雨だろうから、彦星と織姫は会えないんだろうな。

「そういうシノブは何を書くんだよ?」

やっと話が元に戻ったらしく、サトルがシノブに聞く。

「ん〜、沢山あって書ききれないから、どれにしようか迷ってるんだよね〜。」

「もう少し背を高くしてくださいって?」

「サトル〜っ!僕にそういう事言っていいと思ってるのっ?!
 またこの前みたいに殴られたいわけっ?!」

「い、いや、それは遠慮しておきます……」

俺とカナデは二人の会話を聞きながら苦笑する。
この二人はいっつもこんな言い合いばかりしていて
ついこの前も言い過ぎたサトルをシノブが殴っていた。
175cmのサトルと160cmのシノブじゃ、見た目はどうやってもサトルの方が
強そうに見えるが、実際はシノブの方が断然強い。
その小さい体を充分に生かした動きをするシノブは、俺だって気を抜くと
やられそうになる事もある。
まぁどちらも本気で言い合っている訳じゃないから、いつも放って置いてるが。
でもどちらとも俺達双子の良き理解者であり、信用出来る
本当にいい友達だと思っている。


「まだ残ってたのか?もう皆帰ってるぞ。」

そう言って教室に入って来たのは、カナデとサトルの担任である
淀川雅史(ヨドカワマサシ)。
確かにいつの間にか教室にいるのは俺達4人だけになっていた。

大学卒業と同時にこの学校に教師として入ってきたヨドカワは、
授業はわかりやすいし、感覚が若いから俺達とも話が合うし
結構いい教師だと俺は思っている。
まぁ特にオンナっぽい訳ではないのだが、顔が綺麗だから、男ばかりのこの学校では
別の意味でも人気がある。

ヨドカワが俺達の方に近付いてきた。

「何だ、オオトモもいたのか。こんな所で油売ってないで早く帰って寝ろ。」

「……うるせーなー。俺がどうしようが先生に関係ないだろ?
 それに何でいつも俺だけに言うんだよ?」

「お前以外はみんな心配ないからな。俺の授業で寝るのはお前だけだろ?」

そんな会話をしている二人の間に入ったのはシノブだった。

「ねぇねぇ、先生は短冊になんて書くの?」

「短冊?あぁ七夕のか?」

ヨドカワはそう言った後、チラッとサトルの方を見た。
サトルはすっかり不貞腐れて、窓の外を眺めている。

「願い事、か……生徒が全員幸せになれますように、ぐらいだな。」

「そうなの?先生は自分のお願い事をしないの?」

カナデもヨドカワと同じ様に少しだけサトルを見た後に聞く。すると

「……それが本当に俺の願いだから。」

と言って微笑んだ。
それを見ながら、サトルは本当に鈍感だよな、と思う。
……まぁ俺もあまり人の事は言えないが。


七夕当日、珍しく梅雨の晴れ日になったので、グラウンドに笹が飾られた。
全員の願いを載せて風に揺れる笹は、全ての願いを彦星と織姫に
届けてくれるだろうか……


『もっと強くなってヒビキに勝てますように。
 背が伸びて、成績も上がって、可愛い彼女も出来ますように。  橋元忍』

『成績あげろー  大友暁』

『幸福  淀川雅史』

『いつまでも一緒にいられますように。  高梨奏』

『永久不変  高梨響』

− 完 −



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