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The unexpected order(思いがけないオーダー)

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カラン

「お邪魔します。」

丁度生姜焼き定食とイチゴミルクを運ぼうとしていた時、カウベルを鳴らして店に入ってきたのはやはりハルカだった。

「いらっしゃい。久しぶりだね。
 サガミさんはもういらっしゃっているけど、今日もデートかい?」

声をかけると、ハルカは私が持っている生姜焼きとイチゴミルクを見て少し驚いた後、可笑しそうにクスクス笑いながら答える。

「いえ、今は仕事帰りなんですけど、病院のスタッフの間で
 ここの生姜焼き定食とイチゴミルクがおいしいって聞いたので、
 どうしても食べたいとリョウにお願いしたんですよ。
 だからここで待ち合わせしたんですけど……
 ……まさか注文してくれているとは思いませんでした。
 もう少し早ければリョウが生姜焼き定食とイチゴミルクを
 頼んでいる貴重な光景を見れたのに残念です。」

そう言いながら店の奥に進み、サガミさんの隣に座ったハルカは 『頼んでくれてありがとうございます。』 と微笑んだ。
するとサガミさんは溜息を吐きながら 『さっさと食って帰るぞ』 と言って、テーブルの上に料理を置くよう私を促す。
慌てて定食を乗せたお盆とイチゴミルクをハルカの前に置き、一度頭を下げてからカウンターの中に戻った。


「……マコト、あの二人は誰?」

洗い物をしながらユウ君が小声で尋ねてくる。
私もその隣に立ってグラスを片付けながら、同じく小声で返した。

「医者をしている私の古い友人と、そのパートナーである
 黒神の昇龍だよ。」

「黒神の……あの人が……」

さすがにユウ君も名前は知っているらしい。
けれど巷で聞こえてくる噂と、今ハルカと一緒のサガミさんでは、やはり少しイメージが違うので驚いているようだ。

確かに最初に一人で店に入って来た雰囲気だけを見れば、『一度その昇り龍を目にした者が二度と生きてその見事さを語る事が出来ない』 との黒神の昇龍の噂が本当なのかもしれないと感じさせられる。
けれど今ハルカに何事か囁かれ、生姜焼きの肉をハルカの手ずから渋々食べさせられているサガミさんはやはり少し違う。
とは言ってもさすがにそれを見て笑う勇気など私にはないけれど……


ハルカがサガミさんの口元についたタレを指で拭って自分の舌で舐め取った後、サガミさんはハルカの耳元に口を寄せて何かを話した。
そしてハルカが突然私に尋ねてくる。

「タクさん、この生姜焼きのタレ、醤油とか以外に
 何が入っているんですか?」

呆然とその光景を見ていた私は、慌ててコーヒーを淹れる振りをしながら答えた。

「りんごを摩り下ろしたのと蜂蜜だよ。」

「やっぱりそうなんですか〜?
 ……ありがとう」

ハルカは苦笑しながらサガミさんに向き直り、『リョウが予想した通りでしたね〜』 と話しかけた。
するとサガミさんがニヤリと笑って 『俺の勝ちだ。家に帰ったら早速約束を果たしてもらうぞ。』 と言っている。
それにハルカが 『お手柔らかに』 と返し、二人の間には何だか甘い空気が漂った。

黒神の昇龍が生姜焼きのタレの中身で賭けを……?
……別に悪くはない。悪くはないけど……


私もユウ君も、時々顔を見合わせながら呆気に取られて二人を見ていた。
けれど当の本人達は一向に私達を気にする事無く、完全に二人だけの世界に入ってしまっている。

生姜焼き定食を食べ終わり、イチゴミルクを飲んだハルカが 『これもおいしいですから飲んでみたらどうですか?』 とサガミさんにグラスを差し出した。
するとサガミさんはそれを見てニヤリと笑った後、上に乗っていたイチゴを指で摘み、自分の口に放り込む。
そしてそのままハルカの顔を引き寄せて唇を重ね、イチゴを口移しした。
ハルカは苦笑しながらも、モグモグとそれを食べている。

……い、いくら他にお客さんがいないとは言え、
ま、曲がりなりにも私もユウ君もいるわけで、その上
ここは喫茶店の中なんだけど……

見ている私の方が思わず真っ赤になってしまい、音を立てないようズルズルとカウンターの中でしゃがみこむ。
すると同じ様に唖然としていたユウ君が私の様子に気付き、一緒にしゃがみこんで苦笑しながら 『これからは生姜焼きとイチゴミルクを作る度に今日の事を思い出しそうだね』 と小声で囁いた。
私はどうしても震えてしまう息を小さく吐き出した。

……もう生姜焼きもイチゴミルクも作れないかも……


****************


その後何事もなかったかのように会計を終えたハルカは、ユウ君に一度微笑んだ後、私の耳元に 『彼は大学生だった方でしょう?戻って来てくれて良かったですね』 と囁いた。
『ありがとう』 と照れ笑いを返す私に 『今度は一人でゆっくり来ますね』 と苦笑しながら言って、既に店を出ているサガミさんの後を追った。

ハルカは、ユウ君がいなくなって一番辛かった時期の私を知っている。
これからは一番幸せな時期である私も知ってくれるだろう。
安心して何でもさらけ出せる友という存在は、本当にありがたい。
長い人生には紆余曲折が沢山ある。
けれど人生を終える時、この人生を歩いて来て良かったと、そう思いながら最後の幕を引きたいものだ。
友とパートナーを大切にしながら、残りの人生を精一杯自分らしく生きていこう……


「マコト」

ふいに名前を呼ばれて振り返ると、ユウ君が笑いながら近付いて来て、そのまま私を抱き締めた。
私とは違い、まだまだ張りを残すしなやかな体に抱き締められ、私はその胸に顔を埋める。
すると顔を上に向けさせられ、口に何かを放り込んだユウ君が顔を近付けてきた。
そしてその唇を受け止めた私の口に舌で何かを押し込んでくる。
『ん〜!ん〜!』 と言いながら必死で抵抗したものの、結局それを拒みきれないまま甘酸っぱい味が口中に広がった。
唇を離したユウ君は悪戯っぽく笑って、真っ赤になりながらモグモグとイチゴを食べる私の頬に軽くキスをした。

「……今日はこのままお店閉めちゃおうよ?
 マコトが色っぽすぎて、これ以上まともに仕事なんか
 続けられない……」

今度は少し激しくキスをしてくるユウ君に、まったく、と思いながらも甘酸っぱいキスを返し、『看板をCLOSEDに変えなくては』 と思ってしまう情けないマスターだけど、まぁこうやってユウ君に流されるのも私らしいと言えば私らしい。

サガミさんの思いがけないオーダーを機にとんでもない一日になってしまったものの、短い人生、たまにはこうやって楽しむのもいいかもしれない。
ユウ君を見失っていた期間を取り戻す事は出来ないけれど、その分これから先の日々を一緒に楽しんでいこう。

生姜焼きとイチゴミルクを作る役目をユウ君に任せながら……

− 完 −

2005/11/17 by KAZUKI



そらや様、51015HITに続き、キリ番GETしていただいて誠にありがとうございました!

『「rising...」の相模良哉&51015HITの河野悠太×明野卓』

良哉が生姜焼きを注文して食べる姿と悠太×卓のその後という事でリクエストを頂いたのに、
なんだかイチゴミルクがメインになってしまった上、ちっともコメディにならずにすいません!
おまけに良哉と遼はバカップルに成り下がってるし……
でも、実は書くのがとても楽しかったです♪(笑)
何卒何卒これからもよろしくお願い申し上げます!