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ようやく部活が終わり、これから皆瀬の家に行くと、満面の笑みで嬉しそうに話す忍に 『帰り道気をつけろ』 と声をかけて校門前で別れた。

既に辺りは暗いがまだまだ車通りも人通りも多く、俺と同様部活を終えたのだろう学園の奴らもぽつぽつと見える。
波乱含みのクリスマスも正月も終わり、世間のお祭り騒ぎが抜けた少し寂しい雰囲気の中、俺は冷たい空気に白息を漏らしながら足早に家へと向かった。

奏は今頃お袋と夕飯の支度をしながら俺の帰りを待っているだろう。
暁には 『同じ家に住んでる奴はいいよな〜』 とよく言われるが、それは確かにその通りだと思う。
さすがにお袋がいる平日は同じベッドで過ごす事はないが、それでも毎日それぞれの部屋で眠りにつく直前まで、そして起きた直後からずっと一緒にいられるし、クラスは違っても学園は同じだからその分多く過ごせる。

忍と皆瀬は毎日行き来していても、皆瀬の仕事が朝早い為に平日はそうそう遅くまで一緒にいる訳ではないらしいし、暁の場合はバイトもしているし淀川も帰りが遅いからよっぽどの事がない限り平日行き来はしないらしい。
淀川とは同じクラス内で過ごす時間があっても、それはあくまでも教師と生徒としてであって、バレないよう気を使わなければならないからそれもそれで結構大変なのだろう。
まぁそれでもなんだかんだ言い訳をしては、休み時間に時々英語準備室に消えていったりしているが。


今日の夕飯は何だろうかと思いながら人数が減って来た住宅街を歩いていると、ふと横手に奏の視線を感じた気がして足を止める。
何か買い忘れたものでもあったのだろうか。
だがこの辺はコンビニもない場所なのに、と思いながらそちらに視線を向け、同時に自分の間抜けさに思わず苦笑した。

そこにいたのは人家の窓に映った俺自身だったから。

一卵性の双子とはいっても俺と奏は髪の色も雰囲気も体格も違うから、パッと見で俺達を双子と気付く人間はそうそういない。
いいところ兄弟止まりだ。
だが目だけはやはり同じなのだと忍にも言われる。
そう言われればそうだな、と俺も奏も納得してはいるが、それにしてもまさか自分自身で間違うほど似ているとは思っていなかったが……


それから俺は何故だか足早に家に向かい、玄関で急いで靴を脱いだ。
すると奥からお袋の 『おかえりなさ〜い』 という声が聞こえ、私服に着替えた奏が 『おかえり。今晩はポトフだよ。』 と言って微笑みながらキッチンから出て来て迎えてくれる。

俺を見るのと同時に、嬉しそうに細められる奏の目。
俺の目もまた奏と同じ様に細められているのだろう。

俺は玄関のたたきに一歩上がって立ち止まったまま、奏が目の前まで近付いてくるのを今か今かと待った。
動かない俺を不思議そうに見ている奏が手の届く位置まで近付いたところで、少し強引に抱き寄せて両目蓋に唇を落とし、焦ったように抵抗する体を更に強く抱き締め直してそのまま何度も唇にキスをした。

俺達の様な双子でしか叶わない、同じ目、同じ遺伝子を持っているという、これ以上ないほどの贅沢……

何故だか改めて嬉しく、俺と同じ目を持つ奏の存在を目にした途端、抱き締めてキスをしたくて堪らなくなった。


「……ちょ…響っ……!」
「キャ〜見ちゃった♪」


……声が同時だった。

見る見る真っ赤になった奏は、固まっている俺を押し退けながら慌てて2階に走って逃げ、そして俺はキッチンから顔だけ出し、『年寄りには目の毒だって言ったじゃない』 とか 『帰って来るなりキスするなんて今日はどうしたの〜?』 とか、楽しそうに話しかけて来る声を呆然と聞きながら、お袋がいる時に奏に手を出してしまった自分のバカさ加減に、深い深い溜息を吐いた。


− 完 −

2006/01/31 by KAZUKI



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