Cufflinks

第一話・焔 第四章・4


 不意打ちといってよかった。新田が下着の上から春樹の中心を扱き、昂らせる。先から密があふれて下着を濡らし、湿った布が恥ずかしさを呼んだ。
「ま、待っ……あッ」
 先走りが増え、もどかしさに腰をよじりたくなる。素直な手の動きと恋する気持ちが、春樹を頂点近くまで追い上げた。
「だめ、しゅ……いち。そんなに、したら……!」
 身勝手な触れ方ではない。体を押さえつけられることもなく、真摯な眼差しに心がさらわれる。
 枕の横に目をやった新田が言った。
「お前のここに……つけてもいいか……?」
 セックスのために用意したものをあさましいと言わず、使おうとしている。普通の人なら当たり前のことが幸せすぎて、声が出なくなった。
 うなずきながら新田のTシャツをたくしあげる。競うように服を脱ぎ、全裸になってもつれた。春樹が新田の肩に両手をかける。ふたりは近づけた磁石のように何度も口づけた。互いの髪やうなじ、胸の敏感なところや腰、膝の裏など、触れると電気が走るところを確かめ合った。
 逆さにした容器から新田の手にローションが落ちる。レースのカーテンが透かす陽を受けて、透明な糸がきらめく。枕もとに戻すと思っていたら、新田のかすれた声がした。
「手を広げてくれ。上を向けて」
 局部は積極的に触らせないようにしていた新田が、愛撫を求めている。胸が愛しさでいっぱいになった。春樹の手が新田の猛りを、新田が春樹の若茎を握り、さすり、徐々に激しく高まらせていった。ローションのぬめりと摩擦による卑猥な音が、若いふたりを追いつめる。
「春樹……!」
 新田の声がうわずる。隠しきれずに漏れる無意識の声も悩ましい。
「いい……修一……いいよ……っ」
 春樹の手の中にあるものが怖いくらいに硬い。先を指の腹で撫で、天然の粘液を出すところを、つう、となぞった。
「うっ」
 もう硬くならないと思っていた欲望が力を増す。わずかに腰を引いた新田が必死に声をこらえる。
「ここ、気持ちいい……?」
 触れるか触れないかというタッチで蜜を導く。新田が目をきつく閉じ、春樹の首を強く吸った。さざ波のように広がっていた快感が、よりはっきりしたものにる。
「修一、修一……!」
 気持ちよさが一本の線になりかけたとき、新田に尻の山をつかまれた。
 硬くて熱いものはローションと自身の液体で濡れている。そんな気はなくても入れたくなったのだろうか。
 痛みが顔に出れば傷つくのは新田だ。腹を括り、力を抜くことに専念した。耳のそばで新田がささやく。
「両手を、背中にまわしてくれ。我慢できない」
 新田の雄をつかんでいたと気づいた。少し広い背を抱いて腰を浮かす。入れやすいようにしたことだが、秘めたところには何も触れなかった。
 埋めると思っていたものが春樹の棒に重なる。尻を持ったのは春樹の腰を上げさせ、動きやすくするためだとわかった。新田の部屋でしたときと同じように、腹同士をぴたりと合わせる。ふたりで腰を動かして間もなく、新田の呼気が短く鋭いものになった。
 新田のかすかなうめき声、春樹の喘ぎ、ベッドがきしむ音、粘り気のある水音がぐるぐると頭を囲う。
 内腿に新田の脚が触れる。大きな筋肉が荒い部分を感じさせ、抱かれているような錯覚に陥った。
「っあ! いく、も……修一っ!」
「くッ、う────」
 同時に昇りつめ、ふたりで同じ谷に落ちた。痙攣するように震える新田の腿に脚を絡める。ベッドカバーに顔を伏せる新田と、目を閉じたまま手をつないだ。
「好き……大好き……」
「……俺もだ」
 汗が光るこめかみに頬を寄せた。新田が春樹の肩を抱き、唇を食む口づけをした。


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