Cufflinks
第一話・焔 第四章・4
その日の夜、ローテーブルが届いた。頼んだとおり木製だった。厚い天板を撫でてみる。なめらかで温もりがあり、脚まで一体としてつながっていた。
キザで気まぐれな高岡のことだ。気が変わって部屋に合うものを選ぶと思っていた。
明るい色調はアイボリーと白が占める室内でもそれほど浮いていない。色に反して重量はかなりあった。
北欧の一点物らしいが高価だろうか。
木肌に触れていると自宅電話が鳴った。木の香りを嗅いでいたいと思う気持ちを振り捨てて受話器をとる。
稲見の軽い声が明日のスケジュールを告げた。
春樹は都庁を眺めながら塔崎に手をあずけていた。
土曜の夕方、セックスのあとで枕にもたれて座る男娼の手に、塔崎は真剣な表情でハンドクリームを塗っている。
「ハーブの入ったクリームだそうだよ。これからはこうしてマッサージしてあげるからね」
「ありがとうございます。手が荒れてもちゃんとしてなくて……恥ずかしいです」
「きみが自分でお手入れすることはない。これは僕の仕事だよ」
猫なで声と、マッサージと称する一方的な愛撫に肌が粟立ちそうになる。仕事という表現も嫌だ。これから会うたびにされると思うと目の前が暗くなる。
満足した塔崎はハンドクリームの缶に蓋をした。五十男の顔は今日もピンク色をしていた。
塔崎が春樹の肩を抱く。べとべとした声が生きもののように侵入してきた。
「お話……会社の方から聞いてくれたかな」
愛人にならないかという話だ。春樹はうなずくだけにとどめた。
「約束の期限まで待つから、考えておいて。惨めな思いはさせないよ」
肩に塔崎の唇が押し当てられた。高校通学と引き換えに囲い者にしようというのだ。十分に惨めだと思う。
「冷たい肩だね。冷えたのかな」
唇が肩から首に、頬に、そして春樹の唇に重なる。下手でも紳士的なところは美点だ。やたらと動く小魚のような舌が入ることなく、唇だけでのキスが終わる。
浅いキスでも塔崎の息はあがってしまい、熱っぽく潤んだ目で見つめられた。
「きみの人生を、ほんのいっとき支えるだけだ。だから前向きに考えて……可愛い人」
塔崎は春樹の手をとり、甲に口づけた。春樹は上客のまぶたが閉じているのを確認して都庁を見る。
大人になってあのビルを仰ぐとき、どんな職に就いているのだろう。新田はそばにいてくれるだろうか。
進む道が闇に隠れて見えない。恐ろしくなり、肌掛けをそっと引き上げた。
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