Cufflinks

第一話・焔 第三章・3


「しゅ……いち……ああ、好き……!」
 下半身だけ密着させたまま二本一緒に愛撫した。先から伝う液体を指に絡め、ふたりの欲望に擦り付けていく。
 焔が熱い鎖になる。呼吸が喉を焼くが、幻覚に負けないためには息をしなくてはならない。首から胸に汗が流れる。
 いつの間にか新田の指は春樹から離れ、下をまさぐっている春樹の手首をつかんだ。
「出そうだ、もう……!」
 抗えないことを恥じる新田がいた。眉のなまめかしさが、唇からのぞく白い歯が、今だけ春樹のものになっている。
 目がくらむような感覚に支配された。春樹の手首をつかむ新田の手に触れる。なだめるように腕までさすり、ふたりの根元を持つように誘導する。これからすることを理解したのか、新田が大きく開いた目で春樹を見た。
「一緒に、触ろ……? ん……あっ」
「だっ、だめだ、お前の手が、汚れ」
「汚れたりしない。汚くなんてないよ。ね……一緒、に……ッ」
 焔が小さな渦を作った。腹の奥で生まれた渦が、春樹の体内に雄の棒がないのでさ迷っている。
 出口を求めてうろうろしていた熱い塊が、唯一の脱出口に向かって猛進した。
「あ、いく……! 修一、好きっ! 大好き……!」
「ッく────!」
 腰や腿、下腹部の収縮がふたりの間で同調する。歯を喰いしばって果てた新田が肩で息をした。春樹は手を泳がせてティッシュを探り、箱ごと枕のそばに置いた。ふたりで薄い紙を取り、想いを寄せる体を拭き合った。
 新田の胸を拭ったときに目が合った。呼吸を整える新田の唇が開く。
「……好きだ」
「僕も……」
「愛してる」
 二度目の「僕も」は、新田の口に消えた。浅く深く、キスの回数を増やす。
 唇が離れ、持っていたティッシュも取り上げられた。
「今夜、泊まっていいか……?」
 春樹がうなずく。新田の胸に顔を埋めようとしたら、不覚にも腹が小さく鳴った。
「き、聞かなかったことにして」
「無理だ。覚えてる」
「修一っ」
 新田が笑いながら春樹の頬にキスした。笑顔をたたえたままティッシュを抜き取り、拭ききれていなかったところをきれいにする。
「お前のすること、言葉……忘れられない」
 花の手入れをする優しい手が、真っ直ぐで熱い眼差しが、春樹の心をさらっていく。
「好きだ、春樹。今夜来ることを許してくれて、ありがとう」
 唇が触れるだけのキスをする。小さな笑い声が同時に漏れる。
 ベッドで穏やかに笑い、幸せを共有できるのは新田しかいない。他の誰とも、こんな時間は過ごせないと思った。


次のページへ