Cufflinks
第一話・焔 第二章・4
「勇次。どうだ、この犬の尻は」
赤く怒張したものを引き抜く三浦が言った。息苦しさから解放され、春樹は咳込みながら肩で息をする。
勇次は歌を口ずさみながら、ベッドから下りた。
「遠慮がちに絡むのが、そそるってとこかな。いく前の締め付けがなかなかのもんだ」
三浦が粥川を呼び、ベッドの端に腰かける。春樹の口で変化したものを隠しもしない。
嫌な顔ひとつせずに、粥川は三浦を全裸にしていった。三浦が窓ガラスを通して春樹を見る。
「仰向けになり股を開いていろ」
春樹は震えながら仰向けになった。背中と腰がシーツに触れ、飛び上がりそうになる。
打つのはやめたと言ったと思うのだが、三浦は普通ではない。いつ気が変わって鞭を振るうかもしれない。
頭は恐怖に緊張するが、体は疼いたままだった。薬との相乗効果なのか、焔が去る気配が一向にない。
ベッドがきしむ。腿の裏側に、冷たい手の平が這った。
「このバカ犬の顔を隠すものを。携帯電話があれば、それもだ」
「はい」
粥川の靴音が遠のく。スーパーの駐輪場で足を引きずっていた粥川も、今はどこも痛そうにしていない。
「言うことはないのか」
三浦が言った。挨拶を忘れたと気付いたときは遅かった。
骨ばった手の甲が春樹の頬に打ち下ろされる。口中に血の臭いが充満した。
「み……三浦様。僕を、叱ってください」
挨拶に対しての言葉はなかった。何の前触れもなく、三浦が入ってきた。
勇次が去ったばかりのところに、力まかせにねじ入れられる。
「ひ、いっ!」
我が物顔で突き進んでくる。弟の勇次より長いものがすべて入ると、腹の奥が押し上げられた。
「いた……痛い……です。ゆるし、許してくださ」
先ほど張られたのとは反対の頬が張られた。口から飛んだ鮮血がシーツに散る。
「脳に障害でもあるのか。この仔犬は」
三浦から見れば春樹は奴隷だ。奴隷が自分の要望を口にしたことが、信じられないのだろう。
春樹は唇を噛み、この暴力が早く終わることだけを願った。
「そのわんちゃんは、可愛がったほうが言うこと聞くぜ。で、鞭より良い方法って?」
勇次がバーカウンター付近から声をかけた。
「焔持ちにとって怖い思いをさせればいい。これの顔を隠せ。晒す価値もない」
目を開けると粥川が黒い布を持っていた。あごの下に布を当てて押さえられ、頭に向かって引き上げられた。
伸縮性のある水着のような布が、春樹の顔と頭部をすっぽり覆う。開いているのは鼻と口のところだけだ。目に当たる部分は布が重ねられているのか、まったく光を通さない。
「勇次。後学のために近くで見ていろ。焔持ちの面白い習性を教えてやる。薬の効果があるので、少し嬲(なぶ)れば簡単に落ちるだろう。粥川。これの携帯電話はあったか? 動画は撮れるか?」
「ございます。撮影も可能です」
「よし。仔犬が鳴き出したら撮影しろ」
撮影……?
粥川の「かしこまりました」は、春樹の悲鳴でかき消された。
もう奥には入らないだろうと思っていた三浦のものが、男のものが触れたことのない箇所を突いた。
「ひ、痛……! いた、い、た……アアアッ!!」
深いところに突き刺さった三浦のものが、ずるりと引き抜かれる。再び裂くように入り、一番奥まで一気に割られる。
苦痛による悲鳴が焼けた喉から出ていき、喉の痛みでまた泣き叫ぶ。
暴力以外の何ものでもない行為が、春樹の脳内を変化させた。
渦を巻く焔が、脊椎を走らずに腹の奥に溜まる。
視界を奪われたためか、見えるはずのない炎がリアルな映像として再現された。
「!! うあ! ああっ! やめて! やめて……ッ!」
反り返って長い三浦のものが、激しく出入りする。体が振られて空気が吸えない。幻覚が忍び寄る。
粘膜を削がれるうちに、蛇が穴の中でもがいているような気がした。春樹の弱点が幾度となく蛇に噛まれる。
出口がわからずに溜まっていた焔が、痛みと共に解き放たれた。
自分の叫び声もわからないほどの恐怖に襲われる。体が大きく跳ねた。
と思ったが、背中はベッドについたままだった。三浦も勇次も粥川も、誰も春樹の体を押さえ付けてはいない。
押されているのではなく、引っ張られていた。
見えない熱い鎖の仕業だった。春樹を羽交い絞めにして、真下へ引いていく。
知っている。
あそこに、自分の下に何が待っているのか、忘れるはずもない。
高岡に突き落とされた奈落────溶鉱炉があるのだ。
「い! や! 嫌だあッ!! しぬっ、死んじゃう、死んじゃうっ!! 助けて!!」
この男は高岡のように春樹の片脚を抱え込まない。肉の薄い手を春樹の脚に添えるだけだ。
だから溶鉱炉は近づいてこない。三浦が安全を保てる位置で、春樹だけをものすごい力で引きずり込んでいく。
三浦が大きく前後に動いた。自らが果てる瞬間、泣いて許しを請う春樹を放るように押しやった。
突き放された体が溶鉱炉にのまれる。手を伸ばしても誰もいない。
「…………か、おか、さ……」
顔を隠す布が取り去られた。見たことのあるものが視界に入る。
それが何か認識できないまま、春樹はベッドに沈んでいった。
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