Cufflinks

第一話・焔 第二章・4


「は……んう、あ……」
 尿を飲まされたときに含んだものを、自分から咥えていた。
 薬のせいなのだろうか。自分を貫くためのものを、食べものみたいに頬張る。
「んん……」
 自分の中の誰かが、もっと奉仕しろと言った。
 早く使える状態にして、体の中に引き込め。雄の棒を入れてもらえ────
 気が付くと、勇次の脚にしがみついて口を使っていた。
 咥えたまま頭を前後に振る。中学生のころに見たインターネットの動画より激しく、奮い立たせるように動かした。
 ひたいが手で押された。涙が落ちそうになる。肉体的に苦しいからではない。小さな子が宝物を取り上げられたときのような、原始的な涙だった。
 体の奥が着火の予感に震えた。焔がくる。這ってくる。
「三浦様……! からだ、体が……熱いっ」
 春樹は再び勇次のものに口を近づけた。根元を手で握り、筋肉が覆う腹を撫でる。
 上半身を勇次の脚に預け、深く呑もうとした。
「待った、わんちゃん」
 再びひたいを押される。頬に一粒、涙が転がった。
「兄貴用の予行演習だ。咥えたら喉を開け。あくびするみたいに、口ん中の上と奥に空間を作るんだ」
「ん、ぐ……ッ」
 圧倒的な量感に、新しい涙が出た。根元をつかんでいた手が払われ、ゆっくり突き入れられる。
 喉の入り口まで肉棒が到達した。吐き気がし、胃が上下に動いた。
「あごが痛くなったら手を握れ」
 勇次の片手が春樹の手をとった。口への凌辱が始まる。
 髪をつかまれ、勇次のペースで頭部を動かされた。勇次自身も腰を使う。喉をふさぐように深く突かれる。
 あごが外れる気がする度に、勇次の手を握った。手を握ると勇次の腰が少し引かれる。何度か手を握りながら呼吸のタイミングを探り、腹を痙攣させて耐えた。脚も震えてくる。首や後頭部も、緊張を強いられて強張った。
 充分に硬くなったものが抜かれた。
「……あ……ふっ」
 吐息が湿り気を帯びる。焔はもう、春樹の体を這い上がってきていた。
 熱い。喉を出入りする空気も、皮膚も、体の奥も、頭の中も熱かった。
 カラン、と、氷の音がした。視界の端に三浦を認める。
 アルコールが入ったグラスを持つ三浦が、窓辺に立っていた。そばに来た粥川に、何か耳打ちしている。
 三浦の行動に気をつけろと理性が言うが、体は勇次を、男を欲しがっていた。
「おれを見ろ」
 口の形だけで「はい」と言いながら、勇次の顔を見た。
「いい顔になってきたな。欲しいか?」
「欲しい……ください。欲しいです」
 胸を押された。仰向けになり、ベッドで体を開く。バスローブが剥ぎ取られた。うつ伏せにさせられて腰を抱えられたが、腹の下に枕が入る気配はなかった。自分でこの姿勢を保ち、尻を上げた。
 水がないから喉が痛い。少しでも唾液が出るように、春樹は自分の指を口に入れた。勇次が笑う。
「エロいことするんだな。薬のせいか……わんちゃんの業か」
 指を引き抜かれると思ったが、そうはならなかった。剥き出しの尻に硬いものが当たる。
 息を吐く前に体が割られた。痛みが穴の中を、焔が脊椎を舐めていく。
「は、あっ! あつい……熱いッ」
 優しい入り方ではない。こじ開けるという言葉がそのまま当てはまる、荒々しい動作だった。
「っうう! ああっ……!」
 硬いものが全て入った。弱いところを探るでもなく、すぐに抜き差しが始まる。
 勇次の棒は硬かった。打ち付ける力も強い。体に響く律動と快感とで、腰が振り回されるようだった。
「んう、はっ……あ! い……ああ!」
 春樹は口から指を抜き、両手でシーツを掻き集めた。しわを作って強くつかむ。
 自我を保とうとシーツにすがった春樹の手首が、体温の低い手につかまれた。
「せっかちだな兄貴は。薬の様子見たいから、一発目終わるまで待てよ」
 春樹が見上げた先に、三浦の顔があった。薄い唇の端が上がっている。眼鏡はかけたままだった。
「この犬と似た反応をする犬を、抱いたことがある。これは焔持ちかもな。確かめよう」
 熱にうかされる春樹の脳で、警鐘が打ち鳴らされた。
 三浦がベッドに乗る。手首はつかまれたままだ。
 勇次は春樹に自分のものを打ち込むことをやめない。春樹を揺さぶったまま、兄と会話を始める。
「焔持ちって、何だよ。薬使ってんだ、乱れるのは、織り込み済みだろ。この状態で鞭打ちすんのか?」
「この犬を打つことはやめた。鞭より良い方法がある」
 頭の上で不吉な音がした。ジッパーが下がる音だ。
 勇次に腹を持たれた。四つ這いになれということだ。胸をベッドから離す。
「舐めろ」
 爬虫類に似た男に、ざらついた声で命じられた。三浦の棒が春樹の唇に押し当てられる。
「深く呑めよ。兄貴はキレやすいからな」
 喉を開いて三浦を受け入れた。髪の間に三浦の長い指が入り、頭部を固定される。
 口中のものは勇次の動きに合わせて踊り、膨れていった。
「あごが痛くても、兄貴が相手のときは……我慢だ。わんちゃん、中がいい感じになってるぜ。名門とまではいかねえけど、何回かやりたくなる……穴だ」
 それは唐突にきた。
 自己本位に動いていた勇次のものが、弱いところを強く押しながらえぐった。
 抑えられない射精感が脳天を突き抜ける。
「うぐ! ぐく……ぅっ!!」
 声と一緒に自分の飛沫が放たれるのを感じた。
 三浦のものに歯が当たることを恐れ、こめかみがメリッと鳴るほど口の奥を開いた。
 偶然にも強く吸い込むことになり、三浦がうめき声をあげる。
 勇次もまた、声を出して達した。


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