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第一話・焔 第二章・4
「は……い」
平気な顔をして凶行に及ぶのが高岡という男だ。
抱かなくても春樹を打ちのめす悪巧みは、山とあるのだろう。
春樹は苦痛の予感に怯えながら、這って高岡の前に行った。
高岡が春樹の背後に回り込んだ。床の間に顔を向ける春樹のズボンを下ろす。下着の中に手が入ってきた。
中途半端に主張しているところを握られ、びくりとする。
「あの花瓶は何だ。新しい花もあるようだが」
床の間に並ぶ四つの花瓶を見た。塔崎に贈られた花と共に、新田のフウリンソウが視界に入る。
高岡の手が上下に動く。春樹は声がうわずらないよう、腹に力を入れて答えた。
「あ、新しい花は、修一が、持ってきてくれたものです」
「何故花瓶がすべてここに? 新田が持ってきた花なら、眺めて過ごしたくならないか」
春樹は唇を噛んだ。目をとじて深く呼吸をする。
「これ以上は……プライベートです。言いたく、ありません」
春樹を翻弄していた手がとまった。下着が引き下ろされる。
腰をつかまれ、電光石火の早業で仰向けにされた。
「強情な仔犬ちゃん。もっともな言い分だが、口にするには十年早い」
「……あ! くぅッ!」
先端部を引っ掻くように撫でられた。
高岡の手の中にある若い棒が、大きく跳ねて硬さを増した。
「顔は見ないようにしてやろうと思ったが、要らぬプライドが首を絞めたな」
高岡の顔にも声にも、溢れんばかりのあざけりがあった。
輪を作った指で締め付けながら、一定の律動で春樹を駆り立てる。
春樹は畳の上で身悶え、頭を横に振った。
「っ、く! やめて、やめてっ」
立て膝をして春樹にまたがる高岡が、空いている手で春樹の髪をつかんだ。
仰向けにされた際に床の間近くに頭部が来た。そのため、フウリンソウが大きく視界に入る。
涼しげな青紫と白の花が、春樹を冷ややかに見ているようだった。
「言いたくなければ言わなくて構わんが、相手を刺激しないような断り方を身につけろ。尻尾の振り方ひとつで楽になる。これが客なら力ずくで犯されても文句は言えんぞ」
「わか、わかりま……あ、だめ! だめです、だめ!」
滴り落ちる蜜状の液体が、昂るところ全体に塗り広げられた。
これからさらに追い上げてやる、と言いたげな触れ方だ。
「い……っあ! たか、高岡さ……」
輪が速度を保って動く。きつく締めて扱かれる様は、性行為を連想させた。腰が跳ねそうになる。
髪を放さない高岡の腕をわしづかんだ。
男らしい腕に、春樹を抱くときの筋肉のラインが存在していた。
「だめ……!! も……いく、出ちゃう……!」
焔は足もとで様子をうかがっているだけだったが、急速に強まった快感には抗えない。
「もう出るっ! お願い、な、なにか」
このままでは制服を汚してしまう。高岡の手に出すなど、なお考えられない。
春樹がかすむ目で見上げた高岡は、冷笑を浮かべていた。
「替えの制服はあるか」
「ネ、ネクタイ、以外……なら」
「ネクタイを外せ」
こいつは制服にかけさせようとしている。
春樹は唇を震わせてネクタイを抜き取った。
畳に投げ捨てようとしたが、不遜な態度だと罰を受けることもない。両手でたたみ、静かに置いた。
「あ! あ、あッ」
締まる輪が上下に動く。
春樹の髪をつかんでいた手はいつの間にか離れ、耳朶や首筋を撫でていた。
「もうだめ! 出る……! い……く……!」
弓なりに反った背から硬直が始まった。
フウリンソウに向けた顔も、ズボンと下着が絡みついたままの脚も、動かなくなっていく。
焔に巻かれはしなかったが、自分でするときとは比べ物にならない。
放たれた飛沫がシャツにかかる。腹部が何度か大きく震えた後、春樹の荒い呼吸だけが和室に響いた。
「勉強道具を用意してリビングに来い。山を張ってやる」
「……や、やま……?」
「明日からテストではないのか。必要ないならこのまま帰るが」
T大合格経験のある高岡が、ふすまを開けるところだった。春樹は手をついて身を起こす。
「……すぐに用意します」
息を整える春樹を一瞥もしないまま、高岡は和室から出ていった。
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