Cufflinks
第一話・焔 第二章・4
「いや……!」
四つ這いに似た姿勢から立ち上がろうとした。
膝から下が何かに払われ、春樹は畳に突っ伏した。
斜め後ろを見上げる。ふすまにもたれた高岡が腕組みをしていた。
脚をぶらぶらさせている。春樹の脚を、蹴って払ったのだ。
勝手に学習机を見て、腹筋を鍛えろとからかい、今度は何だ。犯すつもりか。
春樹は右手に力をこめた。逆らえば罰が待っているのはわかっている。
わかっているが、我慢の限界というものがある。
高岡の喉の奥が、クッ、と鳴った。
後ろから腰が抱え込まれる。斜めに座るような格好にさせられながら、両腕を背中側でつかまれた。
「いたっ! 痛い!」
高岡は片手で春樹の両腕を固定し、もう一方の手で頭を押して横倒しにした。
顔を畳に押し付けられ、こんがらがったときの涙とは違う涙が滲んだ。
「俺をどうにかしたいなら、こうなる前にすべきだったな」
愉快そうな声だった。高岡の片手が春樹の頭から離れる。
離れた手が制服ズボンのベルトにかけられ、あっという間にバックルを外された。
「やめてっ! やめてください!」
ズボンと下着の間に手が入れられた。前の部分を指でなぞられる。
「やめて、嫌です! やめてッ!!」
「今日までオフだと伺っている。抱くつもりはない」
「や、めて。だめ……!」
軽くなぞっていただけの指の動きが一変した。
下着の上から春樹の若い部分を握られる。扱かれはしなかった。全体を手の平で押されながら撫でられる。
「くっ、う! ううっ」
高岡の手が下着の中に入る様子はなかった。
反応を楽しむように、局部から尻の丸み、腿の裏を触っていく。
「春樹」
嘲笑を含まない高岡の声がした。
「お前が考えて出した結論に、異を唱えはしない」
春樹は目を開いた。畳に片耳を擦り付けて首を曲げ、高岡の顔を仰ぎ見る。
高岡に表情はなかった。微笑みも、あざけりも、怒りもない。
後ろに回されていた腕が自由になった。高岡は床の間脇の柱に背中をあずける。
片膝を立てて座り、春樹を見据えた。
「最低限の抵抗も必要だが、客にお前を守らせるように仕向けることも大切だ」
「守らせる……?」
「密室で生身の体を晒す仕事だ。どうすれば身の安全が確保できるか、常に考えろ。ではそろそろ本題に入る」
春樹はズボンを引き上げ、戸口に向かって全速力で這った。
狂犬の口約束など、信じる気はさらさらない。犯されるに決まっている。
「誰がここから出ていいと言った」
ふすまに伸ばした手を引っ込めた。正座してうな垂れる。
「四つ這いで来い。すっきりした気分で勉強できるようにしてやる」
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