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第一話・焔 第二章・1


「あっ。ああ……っ」
 充分な量のローションと丁寧な愛撫で、春樹の入り口は短時間で柔らかくなった。
 高岡に手を入れられたためなのか、湯に入っていたためなのか、今までで一番早くほぐれた気がする。
 春樹はベッドに入る前、水を飲むことと、水をサイドテーブルに置くことを願い出てみた。
 だめで元々の申し出であったが、佐伯は快く了承してくれた。
 手の届くところに水があるという安心感は大きい。
 佐伯は須堂のように事前に何をするか告げたりはしない。
 それでもキスをする前には優しく見つめ、自分の中心を触らせるときには手をとって導いた。
 焔が近づきすぎて息をつめると、どうしたのと言い、ひと呼吸おいてくれた。
 佐伯が指をゆっくりと動かしながら、甘い声でささやく。
「きみのここ、熟れてきたね」
「は、はず、恥ずか、し」
「入りたい。着けてもらえるかな」
「は、い」
 春樹は手渡されたコンドームの袋を破った。
 ここから先に進めば、本当に後戻りはできない。
 佐伯の先端にゴムを被せ、輪になっている固まりを解いていく。片手では震えが抑えられない。両手で覆っていった。
 ほぐれた入り口が元に戻ってしまったらと思ったが、佐伯は経験豊富なのだろう、自分のものにコンドームを着けさせる間も愛撫を続けていた。
「きみはどの体位が好き?」
「あ、あまりよく……わかりません」
「じゃあ私の好きな体位で失礼するよ。嫌なら嫌と言いなさい」
 佐伯は指にはめていたコンドームを捨て、片腕で春樹を抱いた。無理なくうつ伏せにされる。
(すごい力……この男、体格の割に腕力がある)
 高岡を少し小柄にした肉体だったが、筋肉の盛り上がりは高岡よりもはっきりしている。風呂で抱きかかえられたときは浮力もあるためだと思っていたが、この力は須堂並みに思えた。
「お腹を少し上げて……いいよ、下ろしなさい。気を楽に」
 腹の下に枕が入った。尻を引き寄せられる。
 少し冷たい棒の先が触れた。ローションを塗った佐伯の男根が、小刻みにつつくように入ってきた。
「あ、あ……」
 亀頭が含まされるのはすぐだった。痛みも感じない。
 痛みのないまま割り進められ、あっけなく深くつながった。
 佐伯のものは決して貧弱ではなく、硬さも充分だ。こんなにスムーズに挿入されるとは思っていなかった。
「ああ……いいね。ちょうどいい」
 佐伯が静かに動き始めた。腿の裏あたりで待機していた微弱な電気が、少しずつ上へ流れていく。
 焔はまだ渦を巻いてはいないが、確実に赤い魔の手を伸ばしてきていた。
「あ! ああんっ」
 春樹の目がひらいた。冷えた水を飲んでおいたため、喉は干上がっていない。
 よく通る喉から出た自分の声に驚いた。女の子の声そっくりに思える。
「や、ん、恥ずかしい、恥ずか、しい」
 背後の佐伯は見えないが、かすかな笑い声を聞いた気がした。
 春樹の弱いところもすぐに把握したのだろう、焦らしているのがわかる。
 後ろから耳朶を噛まれ、肩甲骨からうなじまで舐められる。
 薄い舌が這ったところはいつまでも電気が残り、もっと舐めてと言ってしまいそうになった。
「あ……ん、いい……」
 静かな動きだった。滑らかで、一度も静止しない。体の深部から律動が広がる。
 ゆっくりかすめていく弱いところを、強くえぐってほしい。
 甘えた声をあげる自分を、どうにかしてほしい。
 佐伯は春樹の髪に指を差し入れ、頭を押さえた。静かな男の支配欲が伝わる。

  もっと……もっとして────────

 脇腹を撫で上げられ、春樹のタガが外れた。
「っあ……! は、あっ、だめっ。ああだめ、巻かれるッ!」
 焔の着火音も自分の声で消された。
 女の子に似た声は、漏れるという程度ではない。いつ口をふさがれてもおかしくない派手さだった。
「熱いね、きみの体は。よく鳴いてくれるし、中もいい。顔が見たいな」
 一度抜くよ、と聞こえた気がしたが、一瞬意識が遠のきかけた春樹には事態が呑み込めない。
 佐伯とのつながりがなくなり、巨大な炎の渦中に取り残されたと思った。
「い、いや! お願いやめて、抜かないで! おいてかないで!」
 力強く春樹を仰向けにさせた佐伯が、おや、という顔をする。
 春樹はかすむ目で佐伯の表情をとらえ、目の前の男が客なのだと思い返った。


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