Cufflinks

第一話・焔 第二章・1


「いつ何を飲もうが、おれの勝手だろう!」
「ごめ、ごめんなさ」
「何をごちゃごちゃ言ってんだ! 客が飲んでたら付き合うもんだ、来い!」
 春樹の二の腕が乱暴に引かれた。ベッドに突き飛ばされる。
 上半身を起こそうとしたら髪をわしづかみにされた。短い悲鳴が出てしまい、頬を張られた。
 分別を失いかけている伊勢原の力は強く、押さえ付けられると体を動かせない。
 伊勢原の手が春樹のあごをつかむ。両頬を指で押さえられ、口をあけさせられた。
 ビール缶の縁が春樹の前歯に当たった。苦味が口中に飛び込んでくる。
「やっ、め……! やめ、て」
 夢中で伊勢原のあごを押し上げた。その手を簡単に払いのけられる。
 口をとじようと試みたが、頬を張られただけだった。
 ビールの缶がサイドボードに置かれた。頭を平手で叩かれ、春樹は頭部をかばって丸くなった。
 伊勢原がベッドから離れる。
 春樹はサイドボードの上にある電話機を見た。
 怖い。助けて、だれか──!!
「こらァ! 何のマネじゃこのガキ!」
「ひっ!」
 電話機に伸ばした手をつかまれ、頬を往復で張られた。
 口の中に血の味が広がる。涙も滲んだ。伊勢原の顔が赤鬼に見える。
「こんな小便くせえガキを寄越しやがって。てめえもこれで飯食ってんだろ! 助けでも呼ぼうってのか。どういう了見だ、えっ!」
「ご、ごめっ、ごめんなさい。乱暴しないで」
「乱暴だあ? 笑わせるな!」
 音がするほどの強さで頭を殴られた。伊勢原の拳は威力があり、春樹は震える手で頭を覆う。
「いた、痛い……殴らないで……」
「これを飲めば、いい気分になれるぞお」
 春樹の顔の前で、伊勢原がビールの缶に何かを注ぐ。
 小さな洋酒の瓶から、琥珀色の液体が缶の中に入っていく。
「おとなしく飲め。今度逆らったら、指をへし折るからな」
「ひ、ぐ」
 強烈なアルコール臭が鼻をついた。
 ビールと洋酒の混ざったものが容赦なく喉を焼く。
 胃のあたりまで熱くなったとき、伊勢原の腕をつかんでいた春樹の手がベッドに落ちた。
 伊勢原がベッドの脇で何かをしている。
 浴衣の帯だ。幅の狭い、簡易な紐状の帯。二本の帯を、きつく結んでいる。
 縛られる。縛られて犯される。
 どうしよう。どうすればいいんだっけ。

 『縛り方を見ておくか、切れるものを隠し持て』

「無理……だよ」
 体が横向きになった。
 両腕を背後で組まされる。手首を結束されて、帯が胸の前を通った。
 回された帯が手首を結束した箇所に結ばれたようだったが、春樹の意識はそこで途絶えた。


次のページへ