Cufflinks
第一話・焔 第一章・4
三階の角部屋にあたる高岡の部屋には、生活感がまるで無かった。
春樹が住む部屋より少し幅の狭い廊下の右奥がリビング・ダイニング、左奥には部屋がふたつある。廊下の左側、下駄箱の裏は浴室やトイレなどがあるようだった。
床は廊下からリビングまで明るい色調のフローリング、壁は白、大きな家具や部屋を区切る扉などは、黒に近いダークブラウンのマホガニー材だった。
モデルルームの広告から生活に不必要な家具や小物、観葉植物などを取り除いたらこうなった。そんな部屋だった。
「すべて脱いで浴室に入れ。浴室は廊下の左だ。手洗いを兼ねている」
「は……はい」
洗面台のある脱衣所に入る。洗濯機の脇に脱衣カゴがあるので、そこに脱いだ服を入れた。
やはり仕事なのだ。高岡が春樹と一泊旅行などするはずがない。
高岡は以前、春樹を高い接待道具ではないと言った。安い犬に必要以上の経費をかけたくないのだろう。ホテル代も出したくないほどに。
(でも、何で奴の自宅なんだ)
一晩という時間が必要なことをするなら、春樹の部屋だって構わないと思う。
狂犬との旅行も嫌だが、狂犬のテリトリーに引き込まれるのも、気分のいいものではない。
ボクサーパンツを脱いだ春樹は、はたと動きをとめた。
春樹の寝室で入れられたものが体内にある。
入れるときに強い痛みがあった。当然抜かれるのであろう。漠然とした不安が募る。
廊下から足音がした。春樹は浴室に入った。
高岡が浴室に入ってくる。服を着たままの高岡の手には、携帯用の浣腸に似たものがあった。
「浴槽の縁を両手でつかめ」
自然と高岡に尻を見せる姿になる。顔から火が出そうになるが、耐えるしかない。
浴室の中にも小さな洗面台があり、高岡はそこで手を洗ってから春樹の穴をふさぐ物体に触れた。
「いきむな。じっとしていろ」
「っ、待って。痛い……!」
「骨に響く感じはあるか」
「あり、ます。待って、待ってください。ほんとに痛い」
高岡の手がとまった。落ち着かせる意味なのか、背中を何度かさすってくる。春樹の肌はうっすらと汗ばんでいた。
入れるときとは痛みが違う。高岡が言うように、骨に響いた。骨盤なのか、腰の下のほうが重く共鳴する。
だんだん怖くなってきた。
背後でビニールを破る音がした。穴の入り口を少し広げられる。
「少し冷たい。驚いても力を入れるな。いいか」
「は、い」
皮膚と入れられているものとの隙間に、細い管が差し込まれた。突っ張るような軽い痛みがある。管から何かが注入された。春樹の寝室にしまってあるのと同じ、ローションのようだった。
「息を吐け。入れたときと同じ要領だ」
溜め息をつく感じで息を吐く。深呼吸と溜め息を交互にするうちに、内臓ごと持っていかれるような、骨に響く痛みが弱くなる。一番太いところが通過するときだけは痛いと言ったが、大声は出さずにすんだ。
「浴槽の中に入れ」
震える膝を押さえて中に入る。浴室の壁にもたれかかり、額の汗を拭った。冷たい汗だった。
高岡にシャワーヘッドを渡される。水に近いぬるま湯が出された。
「最初のときに洗った方法を覚えているか」
「はい」
「では同じように洗え。終わったら全裸でリビングに来い」
「はい……」
高岡が浴室から出ていく。春樹の心は重くなった。
最初に抱かれた夜、高岡に携帯用の浣腸とシャワーヘッドを使う洗い方を教えられた。他人にそんなことをされるのは、予想をはるかに上回る屈辱だった。
自分でしていいというのは救いだったが、あさましい行為の前段階であることには変わりない。
浴槽の中にしゃがむ。シャワーの圧力を強くして、後ろの穴に押し当てた。穴を広げる。数秒でやめて、入れた湯を一気に出す。数回繰り返して作業が終わった。
異物によって広げられていた入り口はいつもより柔らかく、失敗もなかった。
春樹は一糸まとわぬ格好で脱衣所の扉をあけた。
次のページへ