Cufflinks
第一話・焔 第一章・1
キスして。
喉まで出かかる。
(だめだ。この男はおかしい。何をされるかわからない)
言ったが最後、玄関でのキスをされるかもしれない。
春樹の舌を食べもののように扱う、膝から崩れてしまうキスを。
穴は指で満ちた。時おり軽い痛みはあったが、こんなに短時間で三本の指が根元まで入るとは思っていなかった。
「う、んっ」
腰がよじれる。満ちてはいるが、何か、どこかがもどかしかった。
「欲しいか……?」
何を? という質問は許さない。高岡の空気がそう言っていた。
「わか、わからない」
一番欲しいものがわからない。
浅いキスを慰めに欲しい。何か話してほしい。
そして、まだ知らない、指とは違うもので──
「だめ! ああ、だめだよ……!」
頭の中で、思ってはいけない映像がスライドショーを演じ始めた。
このベッドで、一度も入ったことのない新田の自室で、新田と深くつながっている。
ふたりとも汗をかき、実直な新田の顔が欲望で彩られる。
新田が欲しい。高岡じゃない。新田の雄の部分で満たされたい。
春樹は潤む目を高岡に向けた。端正な顔に愛情など感じない。
それでも、体はこいつでいいじゃないかと言っている。
「わからない、わからないけど、欲しい……あっ!」
指が二本になった。二本の指を広げて、空間を作っている。
「ほし、欲しい」
「欲しいものにワセリンを塗れ」
宮棚からワセリンを取る。チューブの蓋もしめずに、高岡の中心をつかんだ。
「丁寧にしろよ。これでも商売道具だ」
高岡の男は屹立していた。硬い。恐怖で手がとまる。
「怖いか? 新田も似たようなものを持っているぞ」
「い、言うな」
高岡の喉の奥が鳴った。唇の間に舌が入る。電気が流れた。
「あ……あ! 修一っ!」
低い笑い声がした。春樹の視線が泳ぐ。
「初体験で違う相手の名を呼ぶか。いい度胸だな」
何を口走ったのか理解した。謝罪の言葉は、ふたたび唇によって消された。
指の出入りが再開される。腰から背中、後頭部まで粟立った。
きょう、ここで新田と抱き合ったときよりも呼吸が荒い。この男には死んでも聞かせたくない声が出そうになる。
「苦しい、欲しい」
「それならよそごとを考えずに奉仕しろ」
奉仕。
これからすることは、仕事を覚えること。変わらずに新田と過ごすための仕事。
こんなこと、何でもない。
相手が新田以外なら、それは仕事だ。
愛情を分かち合う相手は新田だけ。
好きなのは、修一だけだ。
春樹は高岡のものをなぞった。ワセリンを塗りつけながら、輪郭を確かめていく。
苦痛はあるに違いない。
だがこの男もプロなのだ。尊大な態度で商売道具と言ったではないか。
T大を中退してこの道に進んだのだろう。腕前を見せてもらおうじゃないか。
「欲し、い」
穴の上部に、今の今まで触っていたものがあてがわれる。
「向こうを向け。側位で入れる」
ソクイって何だと思う前に、体を横向きにされた。春樹の脚の間に高岡の片脚が入る。
高岡の先端を引き込ませるように、腰を軽く抱えられた。
ふたたび広げられた指が抜かれると同時に、高岡が入ってきた。
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