BACK NOVEL

いつかきみと朝を 4


 ガラス製品が割れる音で高岡の目が開いた。
 カウチソファから右腕が落ちており、モルトウイスキーと、脚が折れたクリスタルグラスがフローリングを汚している。
「────夢か」
 遮光カーテンのすき間から射す陽光がグラスに反射し、色素の薄い瞳を射る。光に背を向けて起き上がると、慌ただしい一夜の記憶が鮮明になってきた。
 昨夜のことだ。桁外れに不出来な仔犬が別邸を訪ねてきた。鵜飼夫人に世話を頼み仕事を終えて別邸に寄った高岡は、和室で熟睡する仔犬の手を見咎めた。
 何かを握ったまま眠っていたため、こじ開けてやろうとした。

 『おかえりなさい……』

 仔犬の頓珍漢な寝言のせいで、隠しごとを暴く好奇心がそがれた。別邸は高岡のものではないと言ったはずなのだが、まるで覚えていないらしい。
 肌掛けをかけ直してもばか犬は起きず、警戒心とは縁遠い寝顔をしていた。
 結局のろまな仔犬を学校まで送っていき、自宅に戻って寝酒をあおった。愛用していたグラスが割れたことより、間抜けな寝言が耳について離れないことが苛立たしい。
 嗜好品の残骸を片づけてキッチンカウンターに向かう。別のグラスに注いだモルトを、ひと口で体が拒絶した。経験のない苦味が舌をなぶる。口直しに吸った煙草もやけに辛い。
 奇妙な夢をみせた気に入りの酒を、高岡は一滴残さずシンクに流した。


<  了  >

2010.12.16. up.
さな 様に捧げる、キリ番 10000 のキリリク作品です。修一くんとハルキンのラブラブ! がリクエストでした。
本編で新田と春樹は本懐を遂げられるのでしょうか。謎のまま、狂犬先生の夢オチなSSになりました〜!

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