NOVEL

光の当たる場所 -1-

「お兄ちゃんっ!! まった、学校サボったでしょ!!」
 妹の広香[ひろか]、小学三年生、が物凄い剣幕で俺の目の前、立ちふさがる。
「……うっせぇな。こんな天気イイ日にガッコなんか行ってられっかよ、かったりぃ」
 俺、中原龍也[なかはらたつや]、中学三年。世間体には受験生などと言われるオ年頃だが、勉強なんざする気もねぇ。……そーゆー事は他の連中に任してる。
「そういう問題じゃないでしょ!! 龍也お兄ちゃん、お天気に関係無しにそういう事、するじゃない!!」
「何だよ、お前。俺の女房か? 小姑か? んな事、別に干渉されたくねぇよ」
「全くもう!! 院長先生、カンカンよ!! お兄ちゃん、留年したいの!?」
「……あー? 留年? 俺そんなにサボってないだろーが」
「出席日数ギリギリでも、成績悪けりゃ、卒業できる訳ないでしょうがっ!!」
 広香は可愛い顔を、真っ赤にして怒鳴る。
「まー、そうキンキン怒鳴るなって。耳が痛い」
「真面目に聞いてよっ!! バカッ!!」
 ぷうっと顔を膨らませるその仕草が、とても可愛い。思わず笑う。
「……悪かったな、広香」
 言うと、広香はぱあっと耳まで赤くする。
「もうっ!! 私に言ってどうするのよっ!! 院長先生と学校の担任の先生に言わなきゃ、意味ないでしょ!? ……そんなんだから、駄目なのよ!!」
「……お前、何赤くなってんだ?」
「うるさいわねっ!! とにかく実の妹に色目使ってる暇あったら、院長先生のとこ、謝りに行ってきなさいよっ!!」
「……俺がお前にいつ、色目使った?」
「うっさいわね!! とっとと行きなさいよ!! バカ!!」
 ひでぇ言われようだ。俺は頭掻きながら、院長室へと向かう。……どうせ、ろくな説教されねぇ。ウンザリしながら。ったくよぉ、どいつもこいつも俺の事、目の敵にしやがって。俺が一体、何したよ? 溜息つく。あ〜あ、かったりぃ。
 院長室のドア、ノックする。
「……中原龍也、入ります」
「……どうぞ」
 クソハゲ。呟いて、部屋へ入る。
「……今日の始業式、サボったそうだね?」
「…………」
「……理由を言いなさい」
 ……理由なんてねぇよ。てめぇなんかに言うもんは。
「…………」
「……返事はどうした?」
「…………」
 うるせぇな、てめぇなんかと話す言葉なんてねぇよ、ハゲ!!
「何だね!? その反抗的な態度は!?」
「…………」
「……よろしい、今日は反省室行きだ。夕食は取らなくて宜しい。下がりなさい」
「…………」
 無言で、部屋を出る。……けっ。ガキなんざ閉じ込めて反省文書かせりゃ、言う事聞くなんて思ってやがる。時代錯誤もイイとこだ。ざけんじゃねぇよ。てめぇら火ぃ付けて燃やしてやる。骨の髄まで干涸らびてんだろーから、さぞ良く燃えるだろうよ。クソジジイ。
「……俺の身にもなれよ、龍也」
 院長室から出ると、兄英和[ひでかず]が立っていた。俺の四つ年上。……高校出て、昼間働きながら通信で大学の勉強してる。俺とは全然違って品行方正・成績優秀・真面目青年。……俺がこの世で唯一、尊敬する男。
「……兄貴……」
 兄貴は溜息をつく。
「……頼むから、あまり問題起こさないでくれ。お前が何かしでかす度に、俺にとばっちりが来るんだから」
「……悪ぃ、兄貴」
 素直に謝る。
「……お前な、そういう事は俺に言っても仕方ないだろ? お前は、どうしてそう、『閉鎖的』なんだ? 嘘でも何でも、取り合えず頭下げて謝っときゃ、大半の問題は事が済むんだ。いちいち余計な意地張るから、大事になるんだろ?」
「……俺は兄貴と違って頭悪いからさ……学校なんか行っても無駄だと思うんだよ。……それでも、どうしても行かなきゃ駄目か?」
「日本の法律で、中学校までは必ず行かなきゃならない事になってるんだ。それくらい、我慢しろ」
「……兄貴だけに働かすなんて……」
「……そう思ってくれるのは有り難いけど、お前が何かすると、俺が呼び出されるんだ。勤めて数年で、こう度々欠勤早退じゃ、いちいち厭味言われて、俺が迷惑なんだよ。それくらい判れ、龍也」
「……ごめん」
 俺は兄貴に迷惑、掛けるつもり毛頭ないのに。
「……それでお前、学校休んでわざわざ『バイト』したりしたのか?」
「……仕方ねぇだろ? 俺にやれるバイトなんて早々ないし……」
「……すぐやめてくれるんだな?」
「……まだ、ちょっとしか行ってないのに」
「どうせ、年齢誤魔化してんだろ? 十四じゃ何処も雇ってくれないだろう」
「……誕生日迎えりゃ十五だよ!」
「……どっちにしても、子供には変わりないだろ? お前はそういう余計な事心配するな」
「……でも兄貴、児童養護施設[ここ]を出るために苦労してるだろ?」
「俺の安月給じゃ、確かに苦労するかも知れないが、中学生ごときに心配なんかされたくない。とにかくお前は真面目に学校行け。余計な事するな。その方が迷惑だ。……判ったな?」
「……判ったよ」
「……判ったら、院長先生に謝って来い。あれでもあの人、心配してるんだ」
「…………」
「……返事は?」
「……判ったよ、兄貴」
 俺は観念した。
「……俺も行って、口添えしてやるから」
 そう言って、兄貴はぽんと俺の背中を叩いた。気が進まないながら、今さっき出て来たばかりのドアをノックする。
「……はい?」
「……俺です」
「……中原英和です」
 暫く、間があった。
「……入りなさい」
 俺は兄貴に促され、中へ入った。
「……何の用だね?」
 厳しい目で、俺を見据える。
「……さっきの……」
 ちらり、と兄貴を見る。兄貴は問答無用、という目で俺を睨む。
「……さっきの件、ですが」
「……処分を取り消しに来たのかね?」
「違うっ!!」
 俺は思わず怒鳴った。兄貴に脇腹を小突かれる。
「……いえ、違います……」
 ……くそぉ。
「……学校サボって……その……申し訳ありませんでした」
「……龍也は、俺を心配してバイトを始めたらしいんです。すぐやめさせますから、本当申し訳ありませんでした」
 クソハゲ院長は瞬きをした。
「……そういう事なら厳罰はやめておこう。翌朝までに、反省文を書くこと。以上だ。食事はして宜しい。……下がりなさい」
「有り難うございました」
 兄貴がそう言って頭下げる。俺は小突かれ、不承不承ながら頭を下げる。
 俺達は連れ立って、院長室を出る。兄貴は溜息をついた。
「……俺は仕事に戻るから。バイト先へはきちんと電話するんだぞ? 後でちゃんと確認するからな」
「……悪かったよ、仕事の途中」
「……今更、仕方ないけどな」
 そう、肩すくめられて、申し訳なくなる。
「……兄貴、あんまり無理するなよ?」
「判ってる。……俺が倒れたりしたら、困るだろう?」
 思わず、顔が赤くなる。
「……親父もいない今、俺がお前達の親代わりだ。これくらいは覚悟してるさ。……ただ、頼むから俺の為を思うなら、問題起こすなよ? 龍也」
「……すまない、兄貴」
「……お前みたいなバカな弟持った時から、そんなのある程度覚悟してるさ。二度とやらなきゃ良い。……あんまり心配させるなよ」
「……ごめん」
「……他の『大人』にもそういう素直な態度で望めば、もう少し何とかなるんだがな」
「……そんなの……」
「……十四や五にもなって、人見知りじゃ全然可愛げも何もあったもんじゃないよ。……図体だけはデカイくせに本当、子供なんだから」
「…………」
「……その図体で人見知りしたって、ふてぶてしく見えるだけ損だぞ」
「……俺は兄貴ほど器用じゃねぇよ」
「……愛想笑いくらい憶えておけ。そんなんじゃ働きに出たって辛いだけだぞ」
「…………」
「そんなんだから、学校行ってもつまらないんだろう? 友達の一人くらい、いないのか?」
「……別に……話す相手の一人や二人……」
「……その言葉が本当かどうかはともかく、とにかく学校へは休まず行け。病気の時までは行けとは言わないが」
「……ごめん」
「じゃあな」
「行ってらっしゃい、兄貴」
 兄貴は笑って、行ってしまった。取り残された俺は、溜息をつく。俺達三人兄弟は、孤児だ。母親は広香を産んだ直後、産婦人科の屋上から飛び降りて自殺した。その約一年後、親父は会社が倒産して、借金で首が回らなくなって会社の事務所で首をくくって自殺した。残された当時十一歳の兄貴、七歳の俺、一歳の広香の三人は、引き取り手が無くて『施設』に入れられた。二畳半くらいしかないような狭苦しい個室を与えられ、決められた時間にエサを与えられ、共同のトイレを使わされ、決められた時間に風呂へ入れられる。俺達は自活できるようになるまで飼われるだけの、他人の『寄付』や『施し』でかろうじて生きてる何の役にも立たない『家畜』。お『綺麗』な『他人様』の『ご厚意』と『お慈悲』で生かされてるだけの。
 ここから出るために、俺達三人の『家』を持つために、兄貴一人が損してる。俺は兄貴の『お荷物』で、バカな頭で考えたって、結局兄貴の足を引っ張る事しか出来なくて。自分の無力さに、腹が立つ。早く大人になって、兄貴の手伝いをしたいのに。俺なんか学校行く必要ない。必要あるのは兄貴の方だ。親切な人が、兄貴の通信大学の授業料払ってくれて、それでも兄貴はいつかそれをその人に返すつもりで、俺達の『家』の資金と別に、その分も貯金しようとしてる。兄貴は大学だけじゃなくて、高校までも定時制で。本当は全日制行けるくらい、頭良いのに。……悔しくて、本当悔しくて、歯噛みしたくなる。俺は兄貴が好きだ。だから、『お荷物』でしかない自分がとても厭で……四つしか違わない兄貴が、随分『大人』なのに、いつも溜息出る。
 俺は兄貴に言われた通り、この前見つけたばっかのコンビニのバイト、店長の連絡先電話掛けて、辞める旨伝える。バカ野郎とか怒鳴られたけど、すんません本当は中学生なんですと言ったら、お役御免になった。……中学生がそんなに悪いか、バカ野郎。ざけんなよ。ムカつく。
 取り合えず、やる事済んだから自室へと行く。部屋の前に、広香が立っていた。
「……謝ってきた? お兄ちゃん」
 俺は肩をすくめた。
「……兄貴と一緒にな」
「……もう、人迷惑なんだからっ」
 ぷうっと頬を膨らませる。俺は思わず笑った。
「……そんなに膨らませてばっかいると、風船みたいな顔になるぞ? 広香」
「ひっどおい!! お兄ちゃん!! 誰のせいでこんな顔してると思ってんの!!」
 ますます膨れた顔になるから、おかしくて笑う。
「もうっ!! 何の気になってるのよ!! バカ!! 龍也お兄ちゃんなんて嫌い!!」
 ぷいと顔背けてむくれるから、俺は広香の肩に手を置いた。
「……ま、そう怒るな。可愛い顔が台無しだぞ?」
 すると広香は真っ赤になった。
「はっ……恥ずかしげも無くそういう台詞言わないでよ!! お兄ちゃんのタラシっ!!」
「……はあっ!?」
 何で俺がそんな事言われにゃならんのだ。
「……全くもう……口が上手いんだから……誤魔化そうったってそうはいかないんだからねっ!!」
「……だからそう膨れるなって」
「だってお兄ちゃんたら、だらしないんだもん!! 私がしっかりしなきゃ、どうするってのよ!!」
「……あーあー、お前はきっと良い『お母さん』になれるよ。良かったね、広香」
「まったそういう事言って!! ちょっとは真剣に聞いてよ!! お兄ちゃんっ!!」
 これ以上、どう真剣に聞けと言うんだ、こいつは。
「……んで? 何だって?」
 広香はぱっと顔赤らめて、頭をぶるぶる振って、ぐっと歯を食いしばって俺を見上げる。……何やってんだ、広香。
「だからね、お兄ちゃん。ちゃらちゃらしてないで、真面目に学校行って、ちゃんと卒業しなよってそういう事」
「……それならいつも聞いてる事と大差ないじゃないか」
「それが守れてないから、言ってる訳でしょ?」
「お前が心配する事じゃないだろう?」
「あのね!! お兄ちゃん!! ……お兄ちゃんはね、少し自覚が足りないの!! 英和お兄ちゃんがあんなに頑張ってくれてるんだから、龍也お兄ちゃんも見習って、ちょっとは真面目になってよ!!」
「……俺はいつも真面目だ」
「嘘つかないでよ!! ちゃらちゃらだらだら、だらしなくって乱暴で、サボりじゃなかったら喧嘩や器物破損じゃない!! そんなんだから、人から『不良少年』扱いされんだから!!」
「……別に暴力事件起こさなくったって、俺は『問題児』扱いされてるって。この面だけで」
「……確かにふてぶてしくって無愛想で、喧嘩っ早そうな顔してるけど……実際中身とそう大差ないじゃないのよ」
 ひでぇ言い種。広香、お前どういう目で兄を見てるんだ?
「お兄ちゃん、もっと笑えば良いのよ。笑ったら少しは好青年に見えるんだから」
「……お前、随分な言い種だな?」
「お兄ちゃんの心配してるの。そんなんじゃ彼女一人も出来ないよ? 折角お兄ちゃん格好良いのに、勿体ないじゃん」
「褒めてくれてありがとう」
 にっこり笑うと、広香は真っ赤になる。
「だ〜からぁっ!! 実の妹に色目使ってどうすんのよっ!!」
「……失礼な。俺がいつそんなもん、使った」
「……自覚無いなんて、付ける薬無いわね」
「……はあっ!?」
「……普段無愛想なクセに、私なんかにそんな笑顔見せてたって、意味無いでしょ? いちいち動揺する私も私かもしんないけど、お兄ちゃんの方がずっと変なんだから!!」
「……何言ってんだよ? 広香」
「……んもう、バカ」
「……は?」
「……私にカレシ出来なかったら、お兄ちゃんのせいだからねっ!!」
「……何でそんな……俺の所為になるんだよ? そんなの俺に責任あるかよ?」
「いーだっ!!」
 いきなりあかんべえをして、広香は走り去った。……何なんだ? 全然意味が判らん。女の思考回路は理解不能だ。……あいつも数年前までまだ、子供コドモした体型だったのに、最近、まだ小三だってのに、胸が少し膨らみ始めて……とはいえまだまだ子供の体型だが……もともとませガキだったが、ますます磨きが掛かって……。
 振り回される。まあ、それが少しは心地良くあるんだが。……俺と兄貴は、そっくりだが──しかし心持ち兄貴の方が賢そうだ──広香は女だからか、違う系統の顔をしてる。可愛くて、目が大きくて二重で。睫毛長くて、色白で。ショートカットが良く似合う。くるくる動いて元気で明るい。将来が楽しみな、美少女有望株。今はまだ、ただのクソ生意気なませガキだが。……あいつが俺に偉そうに『説教』垂れるのは、自分なりにそれが自分の『役割』だとでも思ってんだろうか? 小学校低学年の毛も生えてないガキのクセして。ほほえましくて……クソ生意気で、苦笑する。
 広香にだけは、苦労掛けたくないもんだな。広香も俺とは違って勉強は出来るようだし。俺も中学卒業したら頑張って、広香を全日制入れてやれるよう稼がないと。せめて、広香にだけは大学だって入れてやりたい。広香とは六学年違いだから、やってやれない事無いだろう。俺と兄貴の二人なら。……俺一人じゃ、到底無理だが。
 部屋へ入って、ベッドに倒れ込む。ひどく固くて旧式の、パイプベッド。スプリングが嫌な音を立てる。……何にもない、乱雑な部屋。教科書が、床に落ちてる。広香が中見たら、怒り狂いそうだ。……学校。俺には何の意味も持たない場所。友人なんて一人もいないし、三年も一応通ってるけど、全然馴染めそうにない。俺は何処にいても、何か他の連中とは違う別の『生き物』な感じがする。取り合えず周りの連中に合わせて、愛想笑いなんてしてみても、『異質』な感じがする。どうにも馴染めない。それは中学だけじゃなくて、小学校から同じ事で。『家族』だけが……『兄妹』だけが、俺と『同じ』言葉話す唯一の存在で。それがなけりゃ、とてもこんな処で生きてられない。俺は何か間違って生まれてきたんだろうか? 俺は『人間』の皮を被った何か『違う』生き物なんじゃないだろうか? ……時々、不安になる。他人と同じ事が出来ない。他人と同じように出来ない。いつも『違和感』を抱いていて、素直に周りに従えない。何か辛い事がある訳じゃない。馴染めないだけだ。……いつまでも、慣れる事が出来ないだけ。『欠陥人間』なのかもしれない。いつかそのうち『糸』が切れるのかもしれない。みせかけの上っ面が剥がれて、『別の』生き物になるのかもしれない。……それが俺はとても恐くて。誰にも『自分』を見せられない。何処か俺は『おかしい』のかもしれない。どっか『病院』でも行った方が良いのかもしれない。……けれど、『俺』がそんな事出来る筈もなくて。『家族』以外の他人と、まともに『会話』できない『俺』が。
 くそったれ。苛々する。……俺の内部の行き場のない『衝動』が、体の中でのたうっている。行き先もない、理由もない、正体不明の『衝動』が。俺はその『名』をまだ知らない。暴力的な、血生臭い気配のする、突発的な『衝動』。それが起こると、どんな些細な事にでも暴力振るわずにはいられなくなる。俺の中にもう一人、正体不明のもう一人の『俺』がいるような錯覚に囚われる。部屋の鍵が掛かってるのを確認して、俺はベッドに寝転んだ。……取り合えず『まがい物』の『発散処理』をするために。身体の内部[なか]でのたうつ、暴力的な『獣』の『衝動』を、一時的に『他』へ向ける為に。……こんな姿、誰にも見せられない。特に広香なんかには、絶対。自分の醜悪さに、汚らわしさに、嫌悪する。ぞっとするくらい、最悪で。……青臭い匂いが放出して、俺は後始末してから自己嫌悪でベッドに突っ伏した。
 ……最低。何で俺……こんな『生き物』なんだ。それとも皆やってる事か? ……恥ずかしくて、他人になんか聞けやしない。兄貴にだって。俺一人がこんなに『動物的』な『生き物』なのか? 他の奴らはどうして『生きて』いるんだ? 俺には全然判らない。……ぞっとするくらい、『醜悪』で。気持ち悪くて、吐き気がする。誰にも知られたくない。こんな『醜悪』な『俺』を。情けなさに涙、滲ませて。もっと『綺麗』な『生き物』に生まれたかった。例えば、『広香』みたいに。
 俺はぼんやり、時計を見た。……そろそろ支度しなきゃ。……『エサ』の時間だ。

To be continued...
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