突然こんなトコ連れて来やがって一体どういうつもりだ?」
シカマルはアスマを軽く睨みつけ、苛立ちを隠せぬ口ぶりでそう問うた。
確かに今日は修行に行くはずだったのだが…サボってしまった。
理由は天気がいいから。
ただそれだけである。
そしてその途中でナルトと出くわし、一緒にいた所を捕獲されてしまったのだった。
ナルトは一緒に逃げるどころか、ちゃんと修行して来いってばよ!と一喝してきた。
最近、忍関係…特に修行に関しては妙に真面目である。
昔は自分と共に常習犯であったのに。
しかし、シカマルが無意味に修行をサボるのは頻繁…という程でもないが何度かあった事だ。
その度に拳骨一発を頂戴して修練場に戻されるのだが、今回はいつもと勝手が違った。
拳が降って来る代わりに、突然肩に荷物を持つように担がれて、そのまま歩き出されたのだ。
もう逃げないからと言っても黙したまま。
何度、何を言っても応えてくれない。
勿論暴れたところで非力な彼が上忍の…大人の力に叶うはずもなく。
とうとうシカマルは抵抗するのも面倒くさくなり、されるがままに連れて行かれたのが現状だ。
(一体どこへ連れて行く気なんだ…?)
やがてその答えは、現在の状況で示される事となった。
「ったくよ…ここどこだよ?妙に生活感のある場所だな…」
「…俺の部屋だ」
今まで黙っていたアスマはようやく口を開く。
初めて入る部屋への好奇心の方が強かったのか、どこか冷たい声色には気づかなかった。
「はぁん…。…さすが野郎の一人暮らしってトコか」
そう言いながら、シカマルはアスマの肩の上でニッと口角を持ち上げると室内全体を見渡す。
いわゆる1DKというものだろうか。
低く唸る年代物の冷蔵庫や、すすけたガスレンジや流しがある狭い台所。
玄関以外にも2つあるドアは察するにトイレや風呂場だろう。
タンスやちゃぶ台など、生活する為に必要最低限の家具と、
窓際に…恐らく万年床であろう、すみに毛布が蹴飛ばされている布団。
あまり綺麗とは言い難いが、一人暮らしが長いのか派手に散らかってもいない。
「へぇ。台所もそれなりに使ってる痕跡があるな。鍋の底が熱で変色してる。
やっぱアンタでも自炊するワケ?」
興味津々とばかりに推測を口にするシカマルのお宅拝見はここで中断される。
突如、身が軽くなったかと思うと、投げ飛ばされるように肩から降ろされた。
「ぅわ…っ!?」
落ちた所が布団の上だった為痛みや衝撃はなかったが、うつ伏せに倒れこんだシカマルは顔を顰める。
「ぅ…っ……どういうつもり……、っ」
身を起こそうと四つんばいになった瞬間、今度は先程と逆に身が重くなった。
アスマが覆い被さるように乗っかっていた。
そのままシカマルの細い腰へと、鍛えられた逞しい腕を回す。
「…な…んだよ…」
乱暴に投げ飛ばされたかと思うと今度は抱きしめられる。
いくら頭が良いとはいえ、突拍子もない行動が理解出来ず眉間のシワが深まった。
カチリ…
生暖かい吐息が首筋にかかったと思うと、耳に常時装着しているピアスに歯が立てられる。
「……っ」
「俺の修行をサボってデートか?…大したタマだな」
…カチリ…
歯を立てたまま喋っているからか、時折歯と金属がぶつかり合う音。
ピアスを噛まれている為顔を傾ける事は出来ないが、
煙草臭い息を、アスマの視線を避けるように目を逸らすシカマル。
「…はぁ?何言ってんだよお前。確かにサボっちゃいたけど…。
…!?」
耳に吹き込まれる冷たい色の台詞に片眉が持ち上がるが、次の瞬間狼狽の表情へと変わる。
腰に回していた手が胸元へ伸びたかと思うと中忍の証であるジャケットのジッパーを一気に引き下ろされ、
ピアスから唇を離したかと思うと、シカマルの両手を払い、そのまま肩を掴むと布団へと押し付ける。
そしてアスマはわずかに上体を起こし、シカマルのジャケットと上着を一気に引き剥がした。
「…痛…っ!」
反射的に腕を持ち上げてアスマを振り払おうとする。
しかしその両の手首はあっけなく掴まれ、恐らく先程抱きついた際にシカマルの道具入れから拝借したのだろう。
ロープを用いて後ろ手に縛り上げた。
抵抗するのも面倒になったか力なく布団へと身を沈めるシカマル。
「…っ…なぁ、マジで痛ェって…これ」
苦痛によって顔を顰め、あまり自由に動かない腕を持ち上げながら拘束を解くよう促す。
「…お仕置きだからな。痛くして当然だろ」
そう言いながらアスマは立ち上がると、シカマルの一まとめにした腕を掴むと半ば強引に引き上げ、上体を起こさせた。
「っ…だから…痛ぇって…。
…お仕置きって、修行サボったからか?」
常に強引で押しが強いアスマではあるが、現在の状況はいつもとは違う。
「俺をほったらかして浮気してた罰だ」
「はぁっ!?
さっきから何ワケ分かんねぇ事言ってんだよ。誰が誰と浮気してるって?」
あらぬ誤解に呆れた表情で目の前の相手を見上げる。
「カカシんトコのガキと2人でいたろ」
「ん…それってナルトの事か…?けっ、くだらねぇ事考えやがって。
たまたま会っただけだっ……ふぐ…っ?」
言葉を遮るように突然口内に指が突っ込まれ、シカマルの口が塞がれる。
「ん…っ…お…ぃ…っ…。ふ…」
一体どういうつもりだ。
と、抗議しようにもうまく言葉を発する事が出来ない。
両手も塞がれている状況では引き剥がす事も出来ない。
せめてもの抵抗にと指に歯を立てる。
「…っ…おいおい、そんな目ェして…誘ってんのか?
そうやってあのガキも落としたのか?」
指先に刺激を感じるとわずかに片方の眉が潜められるが臆した様子はない。
そう言いながら、アスマは酷く冷たい笑みを唇の端に浮かべる。
…誰が。
睨みつけるシカマルの鋭い眼光がそう告げていた。
「そういえば今日は修行するんだったよなぁ」
わざとらしい芝居がかった口調で、突然そんな言葉を口にする。
「……口のレッスン…いっとくか」
「!?」
溢れる唾液を指先から掌へと伝わせながら、アスマの太い人差し指と中指が口内をかき回すと、濡れた音が室内に響いた。