無名兵士の見たORCA


最終回


「何故だ」
 暗い地下室で、後ろ手に電子手錠をかけられ、ひざまづいているオールドキングに向かって、真改は言った。
「さっきも言っただろう? 革命なんだよ」
「……」
 長い時間、沈黙が流れた。
「たまらねえな」
 オールドキングは、呆れたような顔になった。
「さっさとやってくれよ。上じゃあ、まだ大事な会議は続いてるぜ」
 真改は何も言わず、拳銃をオールドキングに向けたまま、黙っていた。
「……多少でも改悛の念を見せなきゃ、殺しても貰えないのかね」
「後ろにいるのは、誰だ」
「真改」
 オールドキングは、さっきまで見せていた不敵な笑みを消し、真改を睨みつけた。
「察しはついているんだろう? そして多分、それは正しい」
「……」
「お前らの親父さん方は、ハネ返りすぎた息子を懲らしめる理由を探してたのさ。まさか、喉元に食らい付かれるとまでは思ってなかっただろうがな」
 黙っている真改をよそに、オールドキングは続けた。
「お前を信用してるから、無駄話をするか。誰にも言うんじゃねえぞ。俺がいちいち遠回りしてまで二号機を最初に落としたのは、すっかり縁遠くなっちまったものの、家族がいたからさ」
「……」
「歴史に残るような虐殺者の家族だなんて、たまったもんじゃねえよな。理解も同情も求める気はねえがな」
「賛同は、しかねる」
 オールドキングは、ふん、と笑った。
「本当か、嘘か、それはお前には永遠に分からない。だが、目の前にいるのが、100%得体の知れない化け物じゃないと思えれば、やれるだろう?」
 真改は、うなずいた。



    #1

「真改」
 テルミドールの声で、真改は回想をやめた。
 アルテリア・クラニアム、施設外部。アンサングとスプリットムーンは、守備部隊を排除し、内部へ突入しようとしていた所だった。
「予定が狂ったようだな。ネクスト2機が、こちらへ向かっている」
「……」
「レイテルパラッシュと、マイブリスか。恐らくは、ウィン・D・ファンションの独走だろう」
「後続がいる」
 レーダーには入らないが、ネクスト2機のはるか後方に、数機の車両が目視できた。
「……恐らくは支援部隊ではないのか。相手にする必要はない。ネクストにかかるぞ」
 アンサングはオーバードブーストを吹かして移動を開始し、スプリットムーンもそれに続いた。

 この疑念は何だ。
 真改は自問した。様々な思考が、もやもやと糸のように絡み合う。
 ウィン・D・ファンション。ロイ・ザーランド。どちらも、実力は確かだ。特にウィン・D・ファンションについては、企業の力関係を示しているだけだ、と揶揄されるカラードランクにおいても、ランクに恥じぬ強さは持っているようだ、真改はそう思っている。
 しかし、彼らの、このどうもやる気のない攻撃は何だ。
 自分が強いのだとは決して思ってはいない。必殺と信じて放った一閃を最低の被害で受け流したレイテルパラッシュは、自分よりも巧い。素直に認めた。悔しがる暇はない。
 だが、敵2機とも、攻め手が緩い。殺意がない。戦闘不能にのみ追い込もう、という意図を感じる。
 ロイ・ザーランドについては良く知らないが、ウィン・D・ファンションについては、「武人」であると良く聞く。戦果を聞いても、そう感じていた。
 手加減をしても勝てると思っているのか。だとすれば舐められたものだが、そうは思えない。
 手を抜いているのではない。全力で戦いたいのを、我慢しているかのようだ。たまに、まるで耐えかねたかのように鋭い動きと攻撃を見せる所を見ると、必ずしも思い込みばかりとは感じられない。

 そして、アンサングにも、似た事が言える。この男、テルミドールの戦いは、普段ならばもっと巧みだ。模擬戦での勝敗はこちらが上回っているものの、巧みな立ち回りと、的確な攻撃の前に敗れた事は、何度もある。
 しかし、そのアンサングも、手を抜いているように見える。
 真改の疑念、絡まっている思考の糸は、だんだん紡がれ、一本の紐になろうとしている。

 スプリットムーンは、突如オーバードブーストを噴射し、あらぬかたへ進んだ。
 その先には、先程疑問を抱いた、後続部隊がいる。
 認識した。
 補給車両、作業用MT……修理用だろう。そして兵員輸送車。ここまでなら支援部隊だ。
 しかし、大型輸送トラック。これがわからない。
 スプリットムーンはブレードを一振りし、荷台の大型コンテナを開いた。

 ステイシス。
 知らぬはずもないネクスト。そしてこれの搭乗者が誰か、誰だったのか、それも、知らぬはずがない。
 真改は、疑念の正体を理解した。絡まっていた思考は線となり、点と点を一瞬で繋いだ。
 スプリットムーンがブレードをもう一振りし、ステイシスを両断した時、これまでの交戦では感じていなかった殺意が現れ、銃弾と光線に姿を変えて自分を狙うのを感じた。
 殺意の数は、3つだった。

 問いただす事はできたかもしれない。あるいは、これを知ってもなお、テルミドールの選択に従うと告げる事はできたかもしれない。そうすれば、殺意はまた消え去ったかもしれない。
 しかし真改は通信機のスイッチを落とし、襲い来る殺意と対峙した。

 アンサング。それを最優先の攻撃目標と決めた。
 これは反逆なのか。何も言い訳をするつもりはない。組織の長が組織に対する逆賊であったとしても、これは反逆なのだ。
 ガトリングでプライマルアーマーを削られ、高出力レーザーで貫かれても、スプリットムーンはアンサングに向けて、真っ直ぐに進んだ。
 当たる。勘がそう告げたが、相手は並のリンクスではない。これを何度か外されている。
 まだ斬らない。背中に実弾が突き刺さる。まだ、まだ寄せる。
 今。
 やはり、そうだ。アンサングは斜めにクイックブーストし、必殺の一撃を浴びせて来る。
 もし、スプリットムーンが今ブレードを振っていたならば、そうなっていた。
 しかし展開は少しだけ違った。アンサングはスプリットムーンに必殺の一撃を浴びせはしたが、同時に、スプリットムーンの腕が動いていた。放たれた一閃は、アンサングのコアを深く、深く切り裂いた。直後、スプリットムーンに、後ろからレーザーが突き刺さった。


「生け捕り失敗、しかも同士討ち、か。しまらないな」
「私は、同士討ちの部分にしか、不満は感じていないがな」
 搭乗したまま、修理用MTに、大きいとはとても言えない損傷部分を修理されながら、ウィンDとロイは通話していた。
「むしろ、結果的に下らない茶番を未然に潰せた事に、満足している」
「お前さん、独立傭兵の方が向いてるかもしれないな」
「そうもいかないさ。修理が済んだら、すぐ出るぞ」
「はいはい」



    #2

 メルツェルの部屋で、言われたとおりに資料の山と格闘していたら、連絡が入った。
 ……ビッグボックスに行ったメルツェルとヴァオーは、撃破されたそうだ。
 交戦したネクストは、フィードバックに、メリーゲート。場所もネクストも、GA尽くしというわけか。

 特に動揺はしてない。というより、動揺は、さっきもうした。
 目を通した中の幾つかのファイルからは、メルツェル達は死ぬ事は見越して出撃した事がうかがい知れたし、そうなる前提で、作戦が組み立てられていた事がわかったから。
 俺には、正直理解できない。人類の行く末を案じるのはいいが、命を捨ててまで何とかしようと思うものだろうか?
 そして俺がそう思うのを見越していたかのように、メルツェルの手記には、その理由について色々と書かれていた。それでも、全部は理解できないが。

 むしろ動揺したのは、「切り札」についてだった。
 前にネオニダスが言っていた「あんなもの」の正体と、それに搭乗する予定の人間について事細かに書かれた資料、経緯については、俺をかなり驚かせた。
 ステイシスとホワイトグリントは、壮絶な戦闘の末に相討ちになった。多分、誰に聞いてもそう答えるだろう。
 しかしステイシスの搭乗者は生きていた。ここまでは俺も知っていた事なんだが、まさかホワイトグリントの搭乗者まで生きていて、しかも「こっち」にいるなんてのは、全く知らなかった。

 しばらくして、アンサングとスプリットムーンが撃破された、と言う連絡とともに、俺はオペレーターに呼び出された。
 まだ全部の資料に目は通してないが、どうもORCA内では、本当に俺が司令官代理みたいに思われてるようだから、行かないとどうしようもない。



    #3

 マイブリスとレイテルパラッシュは、お互いの距離を離しつつ、同じ方向へ進んでいた。
 たまにマイブリスが距離を縮めようとするが、その分レイテルパラッシュは離れる。
「つれないな、ウィンディー」
「下らない事を言うな」
 冗談めかしてはいるが、ロイには、相互の距離を取ることの意味は分かっていた。

 ほら、やっぱり来た。
 マイブリスが空中に向けてガトリング砲を掃射すると、空で大爆発が起きる。
「ノーマル……5機、か。前衛は任せた」
 レイテルパラッシュは飛び上がると、オーバードブーストを噴かした。

 前衛を務めてくれじゃなくて、前衛の相手をしてくれ、なんだよな。守らせてくれないどころか、こっちが守られるようじゃ情けないってもんだ。
 ロイはそんな事を考えながら、言われた通りにノーマルに攻撃を仕掛けた。

 ノーマルを片付けた直後、ロイは超高速で接近する移動体を感知した。背後から来る。ノーマルは囮だったのだろうか?
 速い。ミサイル? 大きすぎる。ORCAは、まだネクストを持っていたのか?
 そう思いながらマイブリスは即座に回避運動をした。

 マイブリスが直前までいた場所の地面は、大きくえぐり取られていた。
「危ねえな。殺す気かよ」
 ロイは冗談を言った。恐怖に揺らぎかけた感情を、冗談で打ち消そうとした。
 今見えたのは、何だ? 見た事もない機体だ。凄い速度だが、何とか視界に捉えた。コアは懐かしのレイレナードのものに似ていなくもない。
 「それ」は、ありえない速度で、また視界から消えた。一般的なネクストよりも一回り大きく見えたのに、そんなものが、軽量機を思わせるような速度で。
 その異形のACが消える前に、何発か当てた。相手はプライマルアーマーを展開している様子はない。搭載していないのか、切っているのか。


「お前は、その力で何を望む? 何を守る?」
 昔に破った男の遺した言葉。その時は、彼の言葉の意味は分からなかった。
 しかし今、男には、はっきりとそれがわかる。
 だから、勝てる。男には、マイブリスが鉄屑と化す未来しか、見えてはいない。
「俺がここに来て戦ってる理由は、いい女に頼まれちゃ嫌と言えなかった、それだけなんだよな。革命家みたいな堅物にとっちゃ、到底許せない理由かもしれないが」
 一瞬だけ、押し殺した笑いが聞こえた気がしたが、それどころではなかった。
「……!?」
 ロイには全くわからない。異形のACは、また、とんでもない速度で横に跳んだ。そこまでは把握できた。しかし、なぜ真後ろを取られているのか、全くわからない。
 わからなくても、起きている事実を受け止めて動こうとする事は、できた。
 しかし、思考から行動に移行する一瞬の隙に、マイブリスを激しい衝撃が襲った。
 気絶するほどの衝撃だったのは、ロイにとっては幸運だっただろうか。

「マイブリスの撃破を確認。あと一機よ」
 女の声が聞こえた。男にとって守るべきものであり、そして、望みでもあるもの。
「立派な理由さ……」
 男は独り言を言いかけたが、すぐにアレサのクイックブーストを吹かし、移動する。
 直後、アレサのいた場所にハイレーザーが突き刺さった。

「貴様は、誰だ!?」
 ウィン・D・ファンションは、やや焦りの混じった声で言った。
 返答はない。今度は、直前までレイテルパラッシュのいた空中を、弾幕が通り過ぎた。
 どちらも決め手となる打撃を与えられないまま、交戦は続いていく。
 わずかなアドバンテージがそのまま勝利に直結するであろう、ギリギリの戦い。しかし、その均衡は崩れた。
 アレサが足を止めた。レイテルパラッシュを捕捉すべく動いていた腕も、下がった。
 あれだけの動きだ、あまりの負荷に、搭乗者の方に限界が来たか? 一瞬の思考の後、ウィン・Dは行動を起こしていた。残弾わずかなハイレーザーをパージし、メインブースターは大きく光った。
 左腕のブレードが、アレサを横薙ぎに斬り伏せる……はずだったのだが、そうはならなかった。
 アレサの腕が上がり、巨大なガトリング砲を前に伸ばしていたのだ。まるで、騎兵の突撃に対する長槍であるかのように。都合、レイテルパラッシュはガトリング砲に体当たりした形になる。
 レイテルパラッシュは衝撃で大きく横にそれた。その後ろから、アレサの体当たりが襲う。
 転倒はしなかったが、大きく態勢を崩したレイテルパラッシュを、アレサは銃身の曲がったガトリング砲で殴りつけた。何度も、何度も。
 あまりにも原始的、というより、誰も考えないであろう攻撃だが、効果はあったようだ。
 レイテルパラッシュは、沈黙した。



    #4

「レイテルパラッシュ、及びマイブリス沈黙。アレサは健在」
「……勝ったのか?」
「少なくとも、現在迫っていた危機は去りました」
 オペレーターは、あいかわらず淡々としてる。
「次の指令はどうしますか、暫定指揮官」
「え!?」
「テルミドールが、出撃前に指名しました。旅団内ではそう周知されています」
 さっきやっと読み終わった、メルツェルが残して行った資料の山の内容を思い出す。
「えーと、アルテリア・クラニアムにノーマル部隊を送って制圧する。企業戦力も疲弊しているし、できるはずだ」
 それを聞いて、オペレーターは、くすっと笑った。
「メルツェルの指示通り……でしょうか?」
「ああ」
「了解。出撃準備を通達しますね」
 参ったな。どうも本当に、クローズプランの後始末? を、任されたようだ。しかし、今更嫌だってわけにも行かないだろうしな……。やるしかないか。
「……後、アレサについてだが」
「わかっています」
 敗色が濃厚になった場合、アレサは、こちらからの遠隔操作で、超大規模コジマ爆発を起こす事になっていた。そして勝った場合も、そうなる事になっていた……。
「そろそろ頃合いですね。指示があり次第、自爆コードを送信します」
「……」
「そういえば、重要な報告を二つも忘れていました」
「?」
「アレサ搭乗員は、交戦後にやってきた非武装のMTに投降し、捕捉できない範囲まで拉致されていきました。後、フィオナ女史がトラックを強奪し、どこかへ逃げてしまいました」
「追跡に回せる戦力はない。放っておこう」
「了解。アレサ、自爆します」


 男は、はるか彼方で起きた緑色の光を放つ爆発を、感慨深げに眺めていた。
 横に立つ女を、右腕で抱き寄せながら。
「……終わったの?」
「別の仕事が、始まるだろうがな。戦いが終わりである事を、祈ってる」
「もう二度と、オペレーターの仕事はしたくない」
 二人はトラックに乗り込み、そして、トラックはどこかへ走り去った。行き先は誰も知らない。恐らくは、当事者である二人すらも。



    #5

 老人は、旧ピースシティでMTの脚にもたれかかりながら、「処刑台」を眺めていた。
 かつてレイレナードが誇った芸術品が、丘の上で膝をついている光景。いつからか、誰だかか、それは分からないが、そのネクストの名を取って、このあたりは、処刑台と呼ばれている。
 アリーヤは今でも一部の傭兵には人気があり、かなり風雨にさらされているとはいえ、使えそうなパーツを持って行かれてもおかしくないのだが、この黒いネクストには、誰も手を付けない。
 祟りがあるとか、盗んでも、何者かに奪い返されて元に戻されるとか、色々言われているが、実際のところは誰も知らない。

 エンジン音が近付いている事に気付いた老人は、そちらを向いた。
 ありふれたトラックだ。武装はしていないと見える。パーツあさりだろうか?
 そう思っている間に、トラックは老人とMTの間近に停車し、運転席から女が降りてきた。
「こんにちは」
 悪戯っぽく笑っているこの女に、老人は見覚えがあった。というより、老人の記憶の中にある女と、全く同じ顔をしていた。
「どなたかね」
 老人は、この女を知っている。しかし、知らないふりをした。
「アンサラーを落とした時、セレンさんと一緒にいましたよね。そしてあなたは、裏切った技術者なんかじゃ、ない」
 女は老人を見据えたまま、微笑を浮かべている。
「顔を変えたようだけど、声までは変えなかったのは失敗ね。私は、あなたのどんな声だって、聞いた事があるはずだから」
 白を切ろうと思えば、切り通す事はできたかもしれない。しかし老人は、潔く諦めた。
「……あいつに、聞いたか」
「最近、旧ピースシティで『処刑台』を眺めてる年寄りがいる、って事だけね」

 女は無言のまま老人に歩み寄り、抱きついて、そして泣き出した。
 老人は困惑したような顔を浮かべているが、しっかりと、女を抱き返した。
「生き残ってしまったんだ。まだまだ、やらねばならん仕事は多いぞ」
 まだ女は、老人の胸に顔をうずめて泣いている。
「変わったな、お前も」
「……そう、その言葉」
 女は顔を上げて、続けた。
「その声を聞いた時、確信した。生きてたんだ、って」
「私が、憎くはないのか? 私は……」
「やめて」
 女は老人を見据えて言った。
「憎かった。早く死ねばいいと思った。それか私が死ねばいいと思ってた。でも、今は違う」
「……」
「あなたよりも、もっと憎い相手がいるってのも、理由として、無いとは言わないけど」
 それが誰をさすのか、老人には、すぐに察しがついた。
「奴か……」
「よくも殺してくれたな、って文句を言ってやるつもり。状況が状況だから、喧嘩してる場合じゃないけどね」
 言い終わると、女は笑った。
「やはり変わったな、お前は」
 処刑台の方を見上げていた老人は、何かに気付いたようだ。
「見ろ、クレイドルが降りてくるぞ」

 落ちてくるではなく、降りてくる、という表現がまさに適切だった。
 「リリアナ事件」として知られている襲撃事件の際に落ちてきた時とは、速度がまったく違う。着陸を試みているかのようでもある。
「生き残ったんだ。やる事は山ほどある」
 先程と同じような事を老人がまた言うと、今度は、女はうなずいた。
「ORCA本部では、恐らく、若造がてんてこ舞いしているだろうよ。顔を出してやるかね」
「私も行こうかな」
「元々、誘う気でいたよ。やらねばならん事は、本当に多すぎるからな」
 二人はMTに乗り込むと、ORCA旅団の本拠地へと針路を取った。



    #エピローグ

 この大変動に、どれほどの人が耐えられるのか。
 そして残った人類は、再び宇宙への道を切り開く事ができるのか。
 その段階になれば、企業は再び、パワーゲームに興じはじめるだろう。血も流れるだろう。
 しかし今現在、生き残った者達の多くは、悲観的な想像に足を止める事はせず、目の前の事について考え、動く事を選ぶだろう。
 諸君がそうである事を祈っている。まず俺……いや、私がそうしよう。
 さあ、まずはジェットで廃墟のビルを斬り倒して、クレイドル着地の地均しに出動だ。もちろん私もジェットに乗って出る。
 新生ORCA旅団、出発しようじゃないか。

 演説が一区切りして演台から見下ろすと、中には、笑ってる奴がいる。
 俺が「そういうキャラ」じゃないって知ってる奴も、多いからな。
 でも仕方ないんだよ。こういう時はそれっぽくやらないと。


「良く出来たじゃないか。まるでテルミドールが乗り移ったかのようだぞ」
 ネオニダスが、もう全力で笑いをこらえている事を隠さずに、言った。
「あいつの真似までさせられるとは、聞いてないぞ」
 やっぱり笑いをこらえてるネオニダスに少しだけカチンと来たが、ネオニダスが戻って、皆をまとめるのを手伝ってくれたから、今こうやっていられるんだよな。
「さて、私も手伝いに行くかね。月輪はまだ置いてあるだろうな? アサルトキャノンを使えば、ビルなどジェットより効率的に……」
「爺さん、ボケたのか。その場所にはクレイドルが着地するんだぞ」
「そういえばそうか。ならばMTでもまた貸してもらうかね」
 ネオニダスは今度は普通に笑った。

「ジェット部隊の準備が完了しました。後は指揮官の搭乗と、号令を待つだけです」
 いつのまにかそばにいたオペレーターが、声をかけてきた。
「ああ、すぐ行く」

 いまだにどうも自信がないが、やるしかないよな。
 いつか宇宙に出られるかもしれない、ってのも、ずいぶんと面白そうな話だ。
 ネオニダスが長生きしてる理由も、いつのまにやら、王小竜と決着をつけるまでじゃなくて、他の惑星に足を付けるまでは死ねん、とか言ってるし。何歳まで生きるつもりだ。

 考え事をしてたら、オペレーターに、早くするように促された。
 よし、行こうか。

<終わり>


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