放課後女装クラブ(仮)


      #4  発表会・前編


 テストも終わった。早く夏休みにならないかな…。
 そんなとき、いつもの方法で、メールがきた。



     まゆでーす(^^) 暑いねー。
     いよいよ、夏休み発表会が迫っております。みんな準備OK?
     今回の会場は、なんとなんと、新宿の高級ホテル!!(>_<)/
     例によって、各種費用はサポーター負担。
     参加申し込みは、発表会の3日前まで受け付けます。




「参加…する?」

 メールがきた翌日の昼休み、貴史が聞いてきた。

「うん。ちょっと遠いけどね」
「遠いよね…」
「毎回遠いんだよ。一番近くても横浜だった。だいたい東京ばっかり」
「なんでだろう?」


 前に、なんでいつも遠いのか、って、まゆさんに聞いてみたことがある。
 そうしたら…。

「近所でやってもかまわないんだけど…。もし、クラブと関係ないときに
 サポーターとはちあわせて、ついでに、向こうが、気がついちゃったら…?
 もちろん、信用できる人しか入れてないけど、万が一ということがあるし」

 ということだった。


 僕は、まゆさんから聞いたことを、そのまま貴史に伝えた。

「ああ…なるほど」
「そういうところには、気を使う人みたいだよ」
「じゃあ、僕も参加するって返事しとくからね」
「うん」

 貴史は、ふと何か思い出したように、続けた。

「ああ、そういえば」
「?」
「ユリさんから電話もらった。服買ってくれる約束、明日かあさってなら都合いいって」
「いいな、携帯持ちは連絡が楽で…」
「大田も買えばいいし。で、どうしよう?」
「あしたでいいよ」
「うん、じゃあ、そう言っとくね」


 次の日、僕と貴史は学校が終わったあと、すぐ着替えて、電車に乗った。

 ユリさんのうちに行くとき降りたのと同じ駅で降りて、ユリさんと合流。
 少し歩いて…あまり大きくないけど、おしゃれな感じの洋服屋に入った。
 こういうのをブティックっていうのかな。よくわからないけど。

 なんか、女物の服ばっかり、いっぱい並んでる…。


「この子たちに合う服、探してるの。手伝ってね」

 僕達は、びっくりした。ユリさん、いきなり何を言うんだ! って。
 店員さんの言葉で、僕達はもっと驚いたけど…。

「はーい。じゃあ、一人ずつ、見ながら相談しようね」


 何がなんだかよくわからない僕と貴史に、店員さんが声をかけてきた。

「私、ユリちゃんの同級生だったの。話はもう聞いてるから大丈夫」
「そうなんですか」
「だから安心してね」

 と言われてもすぐに安心はできないけど、少し落ち着いた気はする。
 まず僕が、店員さんと一緒に、服を見た。


 関係ないお客さんが入ってきたとき、ユリさんと店員さんの話の内容が変わった。

「そうそう。実在した、フランスの騎士。美貌からスパイに抜擢されて、
 女のふりして活動をしていたの」
「劇団って、大変ね…」
「でも、主役に抜擢されたのは、うれしいでしょ?」

 ユリさんは、いきなり僕に話を振ってきた。話を合わせろ、ということみたい。

「うん…でも、ちゃんとした騎士のかっこのがいいなあ…」
「まあ、しょうがないじゃないの。きっと次は、かっこいい役が来るよ」
「だといいんだけど」

 そのお客さんが買い物をすませて帰るまで、ユリさんと店員さんは、
 そのフランスの騎士の話をしてた。

 その後はほかのお客さんも来ずに、僕と貴史は、店員さんとかユリさんの意見も聞いて、
 気に入った服を選んだ。

 僕は、ノースリーブのミニワンピース。貴史は、半そでのミニスーツ…。
 なんで二人ともミニを選ぶんだろう。


「思ったより高かった…。二人とも、いいの選びすぎだよー」
「なんでもいいって言ったよね」
「うん、言ったよね」
「…まあ、発表会では、きっと、またいいもの見せてくれるだろうし。
 発表会まで、服は私が預かっとくからね。持って帰れないでしょ?」
「うん。よろしくー」


 何日かたって、終業式。
 気になる通信簿のほうは…。前より少し良くなってた。よかった。
 このごろ遊びにいくこと多かったから、心配されてたんだけどね。


 夏休み最初のクラブ活動…。
 今回は、僕と貴史を含めて4人。休みなのに、いつもよりちょっと少ない。
 他のみんなも、発表会には参加するつもりみたい。

「参加はするつもりなんだけど、新宿というのがひっかかるかな…」

 最年長の明美さんが言った。たしか高2だったかな。

「なんで?」
「いや、私、こないだ新宿でバイトしたし」
「…普通のアルバイト?」
「なわけないでしょ。あまり普通じゃないバイト」

 「いけないアルバイト」は、一応禁止になってるけど、やってる人もいる。
 もしトラブルになっても、全部自己責任で、ということで…。
 クラブが責任をとる理由はないけど、前は、そういう事言う人もいたみたい。

「まあ、いたって普通に、問題なくお仕事をしただけだから、
 もし新宿歩いてるの見られたりしたって、何もないと思うけどね…」

 みんな、そういう話題には興味がある。
 自分もしてお金がほしい、という人もいれば、
 単純に、自分の知らない世界の話を聞きたい人もいるし。
 でも明美さんは、あまり細かい話まではしてくれない。

 しばらくしたら、まゆさんが来て、みんなで発表会の相談して…、
 夕方に解散。いつもと同じように。


 発表会の当日になった。普段なら直行組と送迎組に分かれて、現地集合なんだけど、
 今回はユリさんも車を出せるみたいで、みんな車にのっていくみたい。

 僕と貴史は、まゆさんの車に便乗させてもらうことになった。
 まゆさんの車に乗ったのは、僕、貴史、明さん(明美さんだ)、雅さん。
 雅さんというのは、ただしと読むらしい。女装すると、みやび。
 もう成人してて、扱いはサポーターだけど、たまーにクラブにもくる人。

 車は高速道路に乗って、どんどん進んでいった。
 僕はきのうの夜更かしのせいで居眠りしちゃって、気づいたら、もうホテルのそばだった。


「あう…ここだったんだ」

 明美さん、今は明さんが、窓からホテルを見上げながら、つぶやいた。
 「バイト」のとき、ここに入ったのかな?

「…ここで、だったの?」
「うん」
「すごーい」
「別にすごくないよ。ホテルの名前聞いたときは、すごいと思ったけどさ、
 一番安いシングルルームだったんだよ…?」
「シングル…」

「かわいそうに。でも今日は、スイートだよ」

 まゆさんが、口を挟んできた。

「おおー」
「今度こそ、ほんとに、すごーい」

 僕達は車を降りて、ホテルに入っていった。
 いかにも、サークルの集まりか何かのように…。実際、そうなんだけどね。


「開始は2時ね。まだ1時間以上あるから、のんびりしてて」

 まゆさんはそう言って、部屋を出ていった。

 30分くらいして、ユリさんチームが部屋に入ってきた。

「あっきーはドタキャン。夏風邪だって…」
「あらら」
「残念…」

 ユリさんは、一番立派なソファーに座りこむと、
 タバコに火をつけて、雅さんに話しかけた。

「サポーターは、私と雅さん入れて5人っていったかな」
「そのくらいみたいだね」
「んー。一対一の濃密なサービスがありそうねー」
「どうだろうね」


「発表会って、何するのかな…」

 貴史はそう言った。

「え…知らずに来たの?」
「ありゃりゃ…」

 明さんが、貴史に説明をはじめた。

「後でここにやってくる、大勢の小汚いおじさん達の、慰み者になるんだよ…。
 かわいそうに、知らなかったんだね…」
「え…!?」
「嘘」

 明さんは笑い出した。貴史はふてくされてる。

「クラブみんなで女装して、楽しく遊ぶ会だよ。それを見るだけのために
 お金を出してくれる人がいるから、成り立ってるわけ」
「それだけで、お金出す人がいるんですか」
「いるの。もう少し、自分の価値を正しく理解しないとだめだよ」


「価値か…さすが、売春少年の言う事は重みがあるね、うん」

 雅さんが茶化すけど、明さんは続ける。

「バイトのしかた教えたの誰? …とにかく、そういう人もいるの。
 まあ、サポーターの人にお酒くらいついであげても、罰は当たらないと思う」
「うん…」
「無理はしなくていいよ。わかってくれる人ばっかり…のはずだから。
 自分まで女装して、絡んでくる変質者とかもいるけどね」

 こう言って、明さんは雅さんを見る。

「変質者って誰?」
「言うまでもないでしょ?」
「明くんとは一度、きっちりと話をつけないといけなそうだね」
「ご飯おごってくれるなら、話聞くよ」

 この二人は、できてる、または昔つきあってた、って噂になってる。
 なんか混乱してるっぽい貴史にも、今度教えておこう。


「さて…みんな、そろそろ着替えたほうがいいかも」

 時計を見ながら、ユリさんが言った。


 部屋はいくつかあるけど、うちひとつを、更衣室に決めて、着替える。
 ユリさんに買ってもらった新しい服を着るの…楽しみ。


<つづく>


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