放課後女装クラブ(仮)


      #5  発表会・後編


 もうすぐ発表会がはじまるから、みんなで着替え中。

「あ、その服いいなー…自前?」
「ほんとだ。どこで買ったの?」

 先輩に当たる、拓美さんと真琴さんが声をかけてきた。
 拓美さんは高1、真琴さんは中3。

「ユリさんに教えてもらったお店」

 こう言っただけで、どうも通じたみたい。

「みきちゃん、やたら気に入られてるよね」
「不公平だよねー」

 この話はそれ以上続かずに、他の話もしながら、みんなで着替えた。


 2時を少し過ぎたとき、まゆさんは、サポーターの裕次さんを連れて入ってきた。
 …裕次さんは、ソファーに腰掛けて、口を開くなり…。

「じゃあさっそく、何でもいいからウイスキーだ。ストレートな」
「また、真っ昼間からお酒ですか」
「真っ昼間だからうまいんだよ。子供にはわかるはずもないか」

 明さんが持っていったウイスキーグラスを、裕次さんは一口で空にした。

「ふう、生き返る」
「そのうち死ぬよ…」
「いつか死ぬだろ。百年後くらいには」

 裕次さんは20代後半。いつもお酒ばかり飲んでる人…ってイメージ。
 適当に雑談をしてるうちに、まゆさんが、残り二人をつれてきた。

 入ってきたのは、東堂さんと深雪さんの二人。
 東堂さんは40代前半くらいかな? いつもスーツをびしっと着てて、
 けっこう貫禄のある人。
 深雪さんは、自分で30歳と言ってる。本当の女の人。
 この二人はいつも一緒に来るし、一緒に帰る。東堂さんの車で。

 部員とサポーターの間には、あまり余計なことは言わない、聞かない、っていう
 ルールがある。一応、だけど。
 いろんな事を全部把握してるのは、まゆさんだけかな?


「裕次君…今日も、よく飲んでるようだね。羨ましいな」

 東堂さんが、病気か何かでお酒を制限されている、くらいの話は、
 私も聞いたことがある。

 東堂さんと深雪さんも、裕次さんの座ってる長ソファーに腰掛けて、
 お茶を飲んだり、タバコすったりしはじめた。


 雅さんとユリさんは、サポーターの立場なんだけど、
 まるでウェイトレスみたいに、色々働いてる。

 ようやく一段落ついて、みんな落ち着いたみたい。
 適当にジュースやお酒飲んだり、お菓子食べたり…本当になんでもなさそうな、
 ただの仲良しクラブみたいな事がはじまった。


「真琴ちゃんも飲んだらいいよ。なんなら介抱するからさー」
「ありゃ…私、狙われてるかも。取って食われそう」
「もし可能なら、とっくに食ってるか、食う努力してるよ」

 真琴さんがふざけながら言った言葉に対して、
 裕次さんは、すごい返事をさらっと言ってのけた。

「まゆちゃん怒ると怖いから、そういうのは控えてるだけだよ」

 東堂さんと深雪さんも、うなずいた。


 東堂さんが、隣に居る貴子を見て、言う。

「貴子ちゃん、と言ったかな」
「はい」
「さっきから気になっててね。隣に座ってくれて嬉しいよ。
 私は、この中で、君が一番可愛いと思ってるから」
「……」
「もし、気が向いたら…ここに連絡をくれるかな。待ってるよ」

 東堂さんは、貴子に名刺のようなものを渡した。
 貴子はそれを見て一瞬驚いた。

「ほら、受け取っただろう。連絡をしてくる可能性も、ゼロじゃない」


 私も、これをやられたことがある。
 この後、どう続くかも、だいたい予想がつく。

「気をつけたほうがいい。その名刺が、私の本当の肩書きを書いているか、
 確信はもてるかな?」
「…え?」
「その名刺の肩書きは嘘だ。怒らないでくれよ。
 まあ、君は可愛らしいだけでなく、聡明そうにも見えるから…。
 私が何を言いたいか、わかってくれると思うんだがね」

 貴子はうなずいた。

「ほら、その顔…また、ひっかかりつつある」

 東堂さんは、笑い出した。
 この人はいつもそうだ。こうやって、人をおもちゃにして遊ぶ。
 警戒心とか、備えさせてくれてるつもりなのかな?


「そんな意地悪爺さんのところより、俺のほうにおいでー」

 裕次さんは、貴子を自分のほうへ呼ぼうとしてるけど、貴子は動かない。


「少なくとも今は、そっちへ行くつもりはないみたいだね。
 …君も少し、何か飲んだらどうかな」

 貴子は、東堂さんにすすめられるまま、お酒を飲みはじめた。

 深雪さんはそれを見て、おかしそうにしてる。
 私はちょっとだけ不思議に思う。私の想像してるような関係じゃないのかな?


 1時間くらい、話をしたり、飲み食いしてたかな。
 最初、裕次さんに「真っ昼間から酒…」って注意してた明美さんは、
 しっかり自分が酔っ払って、雅さん相手に絡んでる。

 私は貴子に絡まれてるから、あまり笑い事じゃないけど…。


「みきちゃーん」

 貴子は私にしなだれかかって、抱きついた。

「どうしたの」
「なんでもないの。ただ、こうしてたいの」

 周りのみんなは、色々言ってる。

「ああ、やっぱりできてるんだ、この二人…」
「いいなー」

 貴子は、まわりの声を一切気にせず、私にくっついて話しかけてくる。

「みきちゃん、私のこと好き?」
「え…」
「嫌いなのー?」
「そんなことないよ」
「嫌いじゃない、っていう程度なの…?」

 どうしよう。どうも本格的に、できあがっちゃってるみたい。
 ちゃんと返事をするまで、離してくれそうにない・

「貴子ちゃん、好きだよ」
「私もー」

 貴子は顔を上げると、私に抱きつきなおして…、いきなりキスしてきた。
 すごい力で抱きつかれてるし、ソファーのはじっこだから逃げられない。

 少し酒くさい…。
 私も少し飲んだけど、それでも感じるくらい。大丈夫かなあ…?


「若いっていいなあ」
「そうねー…」

 東堂さんと深雪さんは、二人で、笑ってる。
 裕次さんも、やっぱりおかしそうにしながら、お酒を飲んでた。


「みきちゃん好きー」

 貴子は、さっきから、ずっとこれだ。
 気を抜いてると服を脱がされかけたり、触られたり…。
 そのたびに、周り中で大笑いが起こる。

 今日だけで、キスのしかたがだいぶ上手になったんじゃないか、って思う。
 そのくらい、貴子にされまくったし、しかえした。

 まゆさんの指示で、貴子はベッドルームに連れていかれ、寝かされた。
 「みきちゃんも来てーー」とか言ってたけど、ほっといた…。

 その後、拓美さんと真琴さんが脱がしあいをはじめたり、
 明美さんが飲みすぎてダウンしたり、色々あったけど、それなりに平和に(?)
 時間は過ぎていった。

 拓美さんと真琴さんの脱がしあいは、拓海さんの勝利に終わった。
 この二人は、毎回これをやる。ある意味メインイベントかも?
 負けた方は終了までノーパンですごしてる。

 女の子というより、まるで運動部みたいなノリだと思う。
 私は、ちょっと怖くて参加できない。


 6時の終了時刻まで、あっという間だった気がする。
 サポーターの人たちは満足そうに帰っていって、私達は着替えた。
 貴子は気持ち良さそうに寝てたけど、起こして着替えさせた。


 帰り、まゆさんの車に乗ってる間、貴史はずっと寝てたけど…。
 降りたときには、もう元気になってた。

 部室前で解散して、駅に向かって歩いてるとき、貴史は突然言った。

「まゆさんに言われてたんだ。大田に絡んでいいよ、って。
 なんかあの人、色々感づいてるみたい」
「え…?」

 僕があっけにとられてると、貴史は続ける。

「全部、覚えてるからね。少しは飲んだけど、あまり酔っ払ってなかったもん。
 ちゃんと大田の気持ちが聞けて、良かった」

 まるで勝ち誇ったみたいに、貴史は笑ってる。
 もしかして本当に、今後僕は、貴史にリードされていくのかな…。


 駅についてからはそういう話もできなくて、普通の話をしてた。
 そのまま電車に乗って、降りて…貴史と別れようとしたら、
 貴史は何か言いたいことがあるみたいだ。

「どうしたの?」
「明日、遊びに来れない?」
「いいけど…珍しいね」

 確か貴史の家はマンションだから、あまり人を呼べないらしいのに。

「親は、今日から親戚の所にいってる。しばらく戻ってこないと思う。
 僕は部活の試合だって嘘ついて、いかなかったんだけど…」
「部活…」
「うん。サッカー、まだ続けてることにしてる」
「なるほど」
「さすがに、あさってには、行かないとだめ。だから明日がいいな」


 僕は、貴史が持ってる紙袋に何が入ってるか、想像がついた。
 さっきまではぜんぜん気にしてなかったんだけど…。

「もしかして、その袋…」
「うん。服入ってる」
「…・」
「明日、待ってるからね。来るとき電話して」


 夜になって、また、例の方法のメールが届いてた。
 少しだけ嫌な予感がしたけど、連絡メールはちゃんと見ないと…。
 僕はファイルを処理して、内容を見てみた。




      ☆★☆(^^)祝!! 公認カップル誕生!!(^^)☆★☆

     かねてより噂のあった、みきちゃんと貴子ちゃんは、
     このたびの発表会で気持ちを確かめあい、相思相愛確定!(>_<)/
     みんなで、二人を応援していきましょう(^^)

     8月のキャンプファイヤー合宿、何かが起こるかも…!?
     というわけで、合宿についても、そろそろ調整をはじめてください。
     ではでは(^^)/




 ………。
 なんだか調子悪くなってきた。寝よう…。



<つづく>


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