グノシエンヌ
#3
結局、なんにも変わりやしない。いや、変わってないなんて、とても言えないかな。 月日が過ぎれば歳を取るし衰えもする。むしろ悪化してるんだろうか。 でも変わってない所も多い。たとえば、私は今日も、行きずりに近い関係の相手に抱かれていて、そんな最中に下らない考え事をする癖も、まるで直っていないから。 恋愛感情? 少なくとも最近は、そんな物を持ったことはない。女の子ごっこをしてた頃は、それなりに恋はしたような気がしないでもない。 でもそれって、しなきゃいけない、的な強迫観念にとらわれてた気がする。自分は女なんだから男に恋をしないといけない、みたいなね。 私の上で動いてた男は、見てきた範囲では平均的な間抜け面になって、いったらしい。 毎度申し訳ないけど、私の方には別に充実感も達成感もない。大して気持ちいいとも思わなくなってきた。だったらなんでやってんのかって話だけど、知らない。 例によって例のごとく、終わった後で大して面白い話をするわけでもなく、間を持たせる努力も進んでするつもりもなく。 努力しなくても、向こうがしてくれるからね。もちろんそれが当然だなんて思ってないし、多少負い目を感じないでもないけど、そういう所を見せると面倒な事になる。少し気を使われたり、優しく接してもらうだけで恋愛感情を抱いたり、または、相手が抱いてると思い込む人って多いから。 なんで言い切れるのかって? 結構な数見てきたし、何より、私がそうだったから。 そんなこんなでホテルの休憩時間は終わって、それほどお腹もすいてないから食事も断って、私は一人で家に帰る事にした。 夜もだんだん更けてきて、来る人よりも帰る人のほうが増えてきた、ちょっと混んでる電車の中。私はさっきまで女物の服を着てたけど、今は普通に男だ。注視されなければ胸も分からないだろう。 なにげなく、内容は違うかもしれないけど、遊び帰りであろう女の子に目がいく。 私だって、せめてあと5センチ背が低ければ、こんな恰好も少しは似合ってたのかもしれないな。部屋に鏡があったのが、私にとって、良かったのか悪かったのか。 そんな事考えてたら、その女の子に訝しげな目で見られた。私は慌てて目をそらす。 部屋に戻ってベッドに寝転がる。今日、男に会う前からずっとサイレントマナーにしてた携帯に、メールが何通か来てた。 前に会った男からの様子伺い、今日会った男からのお礼と次の打診、この前何となく興が乗って、女装どうしでいたした相手の子からの日常メール。 もしかすると、私は自分で思ってるよりはもてるんだろうか? そんな事を一瞬考えはしたけど、すぐに頭振ってかき消した。 それぞれのメールにそれぞれの返事をして、私は寝ることにした。 でも私は、「寝ることにした」ですぐ眠れるタイプじゃない。いつも、下らない事を考えているうちに、いつのまにか寝てる。最近ずっとそうだ。 近頃のテーマは、やり直せるんだろうか、だ。跡を濁しまくり、後足で砂かけてドロップアウトした女の子ごっこ。自分はそうすれば幸せになれると思ってた。始めた時も、逃げた時も。 何が幸せだ。私はつい笑ってしまった。夢を見ていた自分と、夢を見るのをやめた自分、両方を嘲笑いたくなった。 明日も、明後日も、こうなんだろう。1ヶ月たっても、1年たっても、そうだろう。 いつまで悪あがきができるか試してみるのも、悪くはないかもね。 |