グノシエンヌ
#4
何をいまさら嘆いているんだか。 そんな事、始める前に分かっておけ。 自分から好き好んで、そんな苦労するご身分になったんだろう? 今まで何度聞いたか聞かされたか分からない、そんな言葉。 多分、当時自分で思うほどは分かってなかったし、そこまで好き好んだってわけでもないんだから、あまりいじめないでほしい。 景気悪い。社会的にも個人的にも。お金ないし仕事ないし将来の展望もない。 あるものといえば、借金だの嫌な思い出だのと、まったくろくでもない。 例によって例のごとく、こうやって考え事してる私相手に阿呆面ぶら下げて腰振ってる物好きはいるものの、あまり足しになるもんじゃない。 いや、多少は申し訳ないと思うんだけど。でもこれは癖みたいなもので、今更直しようもない。 足しにならないというのも、失礼か。食事くらいはおごってくれる事もあるし。 ……時間的に微妙だったのもあって、今日はお食事はありませんでした。 とりあえず今回は足しにならなかった。失礼かもと思って損した。 さすがにそろそろ駄目だろうか、と思う。 何がどう駄目なのか? と考えても、とにかく駄目だ、としか思えない。 年齢? 収入? 容姿? どうもピンと来ない。そういうのではないようだ。じゃあ何だ。健康とは言いがたいが体の大病はとりあえずないから、そういう不安でもないし。 頭は大病だ。多分。きっとそれか。 あんた生きてて楽しいの? と、「お仲間」の皆さんに聞いてみたいね。 もちろん、趣味で恰好だけそうしてる人じゃなくて、それ以上の事までしちゃってる人ね。 何が得られたの、満足したの、死ぬときに、自分は十分やりきった、何も不満はないって顔で死んで行けるの。 煽るつもりじゃない。本当に聞いてみたい。他の人はどうなのか知りたいよ。 よく聞くんだけど、最近、「こういうの」流行ってるんだってね。 ずいぶんハードルも下がってるみたいだ。私が言うところのお仲間は、そういう連中と自分たちは違う、あいつらは遊びでやってるだけだ、って力説してたけど。 まあ、私の知った事じゃない。多分関係ない、どっか別の世界のお話。 どれだけ流行ったところで、こんな歳になってしまえばその恩恵にあずかる事もできない。あずかってる奴もいるかもしれないが、少なくとも私にはできないだろうと思う。 自信がないというほどでもないけど、特別容姿が優れているとは思わないし、とにかくそこまで面の皮が厚いつもりはない。きっとない。そう思いたい。 流行りに乗せられて、一人でも多く、戻れないラインを踏み越えてしまえ。この泥沼に落ちてしまえ。そして死ぬまで泣き暮らしていればいい。 そんな事も考える。 不幸な境遇にいれば、仲間が増えるのは楽しいものだしね。別に増えた仲間と絡むつもりはないけど、自分だけじゃないんだ、くらいは思えるし。 唐突に、「あー、ここはひとつ、死んどくか」が来る。 いい事もなさそうだし、どっちかと言うと、悪い事ばかり起きてる気がするし。 相談する相手もいないというか、下手に相談とかすると、なんちゃら大先生の有り難いお話だのなんだのと、ややこしい事に発展しかねない相手もいるし、ああいうのはどっから聞きつけて押しかけてくるかも分からない。 それはおいといて、今来てる。かなりでかい。けど特に取り乱すでもないし、来るべき時が来たか、とかそういう感じ。 でも痛いのとか苦しいのとかは進んで欲しがるタイプじゃないから、できるだけ楽なようにしよう。薬で寝たまま消えてしまえたら楽なんだろう。きっとそうだ。 「向かい合っちゃった」かな。ずっと目を背けておこうと思ってたのに。 これでも最初は、こうなろうとした時は、一応覚悟決めてかかったつもりだったんだけど、その覚悟は足りなかったらしい。やってしまってからやっと分かるってのも、ずいぶんひどい話だ。 分かってる人に話聞いたとしても、多分聞き入れやしなかっただろうけど。 それにしても、未練らしい未練というのが、考え足りない、なんか答えが欲しかった、というのも、ずいぶん私らしいというか。 思い立ったが吉日、いや命日か。早く薬を探そう。 で、どうなったか詳細は省く。少なくとも私は幽霊じゃない。 二度と自殺なんかするものか、もしするなら絶対に失敗するものか、と思うくらい、あれ以上続いたら本格的にマゾにでも目覚めるんじゃないかってほどの責め苦を受けた。 病院というのは怖いものだと改めて思った。以上。 しょうがない。生き抜いてやろう。 70だ80だ、となるまで生きているつもりもないし、いられるつもりもないが、自業自得だと言われるなら、その業を受けられるだけ受けてやろうじゃないか。 弱気になったというつもりはない。こともない。死のうとしても失敗が怖い。どうせ病院に行くなら、医者も看護婦も優しく接してくれる形で行きたい。 でもまあ、それだけじゃない。少しは明るいことも考えよう。 私を悪く言ったり笑ったりした奴が、私より先に一人でも死んだら、少しは気分がいいかもしれないからね。 ……明るくはないか。でも動機としては十分だ。少なくとも私にとっては。 |