グノシエンヌ
#2
何だか妙に苛立ってる。 理由は、はっきりしてるんだけどね。私が「こうなった」動機が動機だから、男としてうまくやってる奴を目の当たりにすると、あまり気分がいいもんじゃない。 といっても、結婚して子供作ったってレベルでしかないんだけど、それが不可能になってしまった身としては、結構悔しいものだ。 不思議なものだよね。私は別に、女になりたいって方向でうまくいってる奴には、羨ましいとか思わないのに。やっぱり根っこは男なんだろうね。 ……とか言いながら、今現在、私は男に抱かれてるわけだが。 まあ、そのへんは、単に私はゲイだから、とか納得できなくもない。問題は、相手の頭の中身だ。 向こうは、私をトランスと思って相手してるわけだし。ただの男には欲情しないようだ。 自分ではもうやめたつもりでいるけど、結局、こういう事になってる。軽く自己嫌悪に陥るものの、そんなのは、簡単に目の前の快感に流される。経験上、よく知ってる。 あの頃の……いや、今現在も、続いてるか。体を張ったごっこ遊びで得られたものは面の皮を厚くできた事だけど、それは結構役立ってるのかもしれない。 真っ最中にこんな事ばかり考えられてちゃ、それこそ相手もいい面の皮だ。 こんな考え事をしながらでも、適当に声を上げる事はできるから、どうせ向こうには何もわかりゃしないだろう。 だからそれに甘えさせてもらって、思索を続けるとしようかな。 結局私は、何になりたかったんだろう? そこまで切実に、女なんかになりたかったんだろうか? 考えても仕方ないといえば、仕方ないのかもしれない。もう手遅れなわけだし。元に戻れるわけじゃないし。 種無しで、病気で何故かちょっとだけ胸がある男として、人生出直すか? 無理だとは思うけど、完全に不可能とも思えない。それにもしかしたら、私の事を知った上で、それでもいいって女が見つかるかもしれない。ありえないとは思うけど。 うん、ありえないな。やめたつもりでも、回復不可能なほどまでホルぼけが進んでるのだろうか? 女とまともに向き合えないから、水は低きへ流れるとばかりに、この道を進んだって事を、たまに忘れそうになる。 ……ああ、いったみたい。私は、つい笑ってしまいそうになったのを、どうにかこらえた。 どうしても、滑稽に感じてしまう。向こうは一所懸命やってるつもりでも、こっちは、こんな下らない考え事を続けていられたわけだから。 適当に後始末して、大して面白くない会話もして、送り出して。 一人に戻っても、結局考える事は、あまり変わらない。自分は一体何者なんだろうか、基本的にはそんな感じ。 何者なのか、のついでに、今後どうなるんだろうか、ともたまに考える。 なるようにしかならないとは思うんだけど。今までも何とかなってきたわけだし、今後もなんとかなっていくだろう。 幸せという言葉とは、依然として縁遠いまま、ね。 |