Fallen Angel

#4 リハーサル・2


 俺は、ゆっくりと悠樹の頭を撫でながら、パジャマに手をかける。
 ずっと悠樹は、不安そうに俺を見てた。不安というよりも、恐怖が大きいのかもしれないね。
「悠樹と……したいな」
「……」
 漠然とわかってると思う。自分は何をされるのか、そして、どういう意味で行われる事なのか……色々とね。

「怖い?」
 俺がそう言うと、悠樹は、うなずいた。
「でも、近いうちに、しないといけないんだよ?」
「……なんで?」
 俺はここで、いつも本当の事を教えてる。
 残酷な事実をそのまま突き付けてやって、覚悟させる……というより、諦めさせるためにね。
 でも、今回は、何だか言いづらかった。
 たぶん、馬鹿みたいに、この子に同情してるんだと思う。
「……お兄ちゃん?」
 考え事をしてた俺は、悠樹の不安そうな声で引き戻された。
 やっぱり、考えててもしょうがないか……。

「悠樹は……ビデオに出るんだよ。Hな内容のやつにね」
「!!」
「……もし、どんなに嫌だって言っても、無理だよ。お母さんが、悠樹をここに連れてきたんだから。何されるか知ってて」
 悠樹は、驚きを通り越したような表情を浮かべてたけど、それはすぐに、悲しそうな表情に変わった。
「撮るときまで、何もしないであげてもいいよ?」
「……」
 何だか、今ここで強引にしちゃおうっていう気はない。
 たぶん悠樹は、覚悟を決めようとしてる所だと思うから。何も知らないなりの、せいいっぱいの覚悟を。
「その撮影さえ終わったら、悠樹は家に帰れるよ。諦めろ、って言ったら言い方が悪いけど、我慢してほしいな」
 俺がそう言った後で、少しして悠樹が言った言葉に、俺は驚いた。
「お兄ちゃんも、我慢して、僕とHな事してるの?」
「……違うよ」
 そのまま、どっちも何も言わず、ずいぶん時間がたったと思う。
 ふと気付いたら、悠樹は寝息をたてていた。

「なるほどね、あなたも、真実の愛に目覚めちゃったのかしら?」
 翌日。ゆうべの事をチーフに話したら、思い切り笑われた。
「別にいいけど、あした撮影するからね。もう延ばせなそうだし。最悪の場合、無理矢理にでもしてもらうから……よろしくね」
 俺はまた仕事に行って、元の場所に帰ってきた。
 確か今日は、チーフは出かけてるはずだ。その証拠に、マンションのドアに、外からロックがかかってる。
 ひどいかもしれないけど、悠樹が逃げ出したら困るしね。

 悠樹は、またゲームやってた。
 そして俺の姿を認めるなり、嬉しそうに話しかけてきた。
「みんな仲間集めて、クリアしたよ。ほんとうに生き返るんだね」
「すごいね……」
 そのまましばらく、ゲームの話をしてた。
 悠樹には、昨日の不安そうな様子は、もう無くなってる。

 それから、二人でゲームやってたんだけど、悠樹は急に様子が変わって、俺の方を向いた。
「……どうしたの?」
 俺が問い掛けても、悠樹は何も言わない。何かを言おうとしていながら、言えない。そんな様子。
 俺もそのまま黙ってたら、悠樹が口を開いた。
「怖いけど、がんばるからね……」
 悠樹はそう言うと、うつむいたまま何も言わなくなった。
 俺は悠樹の隣に行って、頭を撫でてやった。
「ありがとう。できるだけ、怖くないようにするからね」
「……」
 悠樹はちょっと顔を上げたけど、やっぱり、目を合わせてこない。
「……リハーサル、していい?」
 俺のこの質問に、悠樹はうなずいた。

 悠樹は、ゆっくりと服を脱いでいった。
 初めて会った日みたいに、無造作に脱ぐんじゃなくて、恥ずかしそうに、ちらちらと俺の方を見ながら……。
 パンツに手をかけて、悠樹は少し躊躇したように見える。でも、思い切るかのように、悠樹は最後の一枚を脱いだ。
「隠しちゃ駄目だよ。手を後ろに組んで」
 俺が言うと、悠樹は言われた通りにした。
 今までは、別に裸に抵抗なかったかもしれないけど、もう今は違うんだろうね。すごく恥ずかしそうにしてる。
 明るい状態で悠樹の裸の姿を見るのは、これが初めて。もう何度か触ってるのに、よく見た事がない……なんだか面白いね。
 悠樹は、そこからも、俺に言われた通りに動いた。自分でする真似事まではさせたけど、本番までおあずけ。
「悠樹……ベッドに、あおむけに寝て」

 胸の上で軽く腕を組むような体勢で、悠樹はあおむけになった。俺が近付いていくと、少し怯えたような目を向けてくる。
 俺はベッドに腰掛けて、悠樹の耳元で、「可愛いね」って言ってあげた。本当に思ってるから。

「目、つぶって……」
 何をされるのか、わかったらしい。悠樹はすぐに目を閉じた。
 予想が当たっていたかは知らないけど、俺は悠樹に軽くキスしてから、「大好きだよ」なんて言ってみた。真面目な口調でね。
「悠樹……大好きだよ」
 俺はもう一度そう言って、悠樹の上半身を抱き起こして、そのままぎゅっと抱きしめた。
 もう、悠樹の体に、強張りは感じない。

 諦めてるわけでも、覚悟してるわけでもない。そんな気がする。希望的観測なのかもしれないけどね。
 俺はそのまま、何も言わず、進める事にした。
 リハーサルだしね。本番でやるつもりの事はしたいから。

 腰の下に枕入れて……って、何だか興ざめしちゃうかな。
 支えてあげるから大丈夫だよ、って言って、膝をかかえさせた。
 まだ天井の照明は明るく点いてるから、丸見えになってる。悠樹は真っ赤になって、横を向いてた。
 なんか可哀相だし、そういう内容じゃないはずだから、言葉責めとかはしないことにする。
 真っ暗にはしないまでも、照明もある程度落としてあげた。

 俺は悠樹の様子を見ながら、ゆっくり指を入れていった。もちろん、つけるものはつけてね。
 最初は中指だけ…。すんなり入った。
「次は少し痛いかもしれないけど、我慢してね」
 そう言ってから、中指と人差し指を重ねて、さっきよりゆっくり、少しずつ入れていった。
 本当は痛いのに、悠樹は我慢してる……そんな感じがする。
 だから、やめないで、そのまま続ける。少しずつ、本当に少しずつ、慣らしていった。

 しばらくして、そろそろ大丈夫かな、って思ったから、いったん指を抜いて、俺は、悠樹の顔を見ながら言った。
「して……いい?」
 拒絶されないとわかってるのに、ううん、拒絶されたとしても無理矢理しちゃおうって思ってるのに、聞いてみる。
 悠樹が、小さく……よく見てないと解らないほど小さくうなずいたのを見てから、俺は服を脱いだ。

「痛いだろうけど、我慢してね」
 繋がったまま、できるだけ痛くしないように、俺は悠樹にできるだけ顔を近づけて、言った。
 俺は、小さくなってる悠樹のものを触ったりしながら、しばらくそのままでいた。慣れてくるのを待って。
 ゆっくり動いてみて、反応を見ながら……。
 なんて面倒くさい事してんだろうって、子供とHするたびに思う。でも、それはそれで楽しいんだよね、
 我慢してゆっくり動いて、少しだけ激しくして、すぐやめる。
 最後の10秒足らずだけ、悠樹が騒ぐくらい激しく動いて……俺は悠樹の中で、いった。

 ……で、終わった後。
 悠樹にシャワー浴びさせて、そのあとで俺が入って…戻った時には、悠樹はもうパジャマに着替えて、ベッドに入ってた。
 俺が悠樹のそばに腰掛けると、すぐ悠樹は口を開いた。
「痛くしないって言ったのに、最後に意地悪した……」
「……ごめん」
 でも悠樹は、終わったという安心感があるようで、それほど悲しそうでもない。
 一応、釘をさしておくことにする。
「あした、撮影だよ。大丈夫?」
「……うん、がんばるね」
 悠樹は、いままで見せた事のない種類の笑顔を浮かべた。
 悲しそうな目をした笑顔とでも、言うのかな……?

 この日はそのまま、それ以上は何事もなく、二人で寝た。
 いつもと違って、悠樹は、俺の方を向いて寝ていた。


To be continued

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