Fallen Angel

#1 ブリーフィング


「タダ働き、する?」
 俺が電話に出たとたん、「チーフ」は、こう切り出してきた。
 で、俺はすぐ、こう切り返す。
「どんな子?」

 数時間後、俺とチーフは、あまり人のいない喫茶店で話してた。
 傍目にはカップルにでも見えるかもしれないけど……実は、いつもの「ブリーフィング」の最中。チーフは俺に写真を見せてきた。
「悠樹くん、11歳。細かい条件は交渉中って感じかな」
「まあまあかな。小5?」
「ううん、6年」
「やる。っていうか、させてください、お願いします」
 しばらく二人で笑ってたけど、どっちもすぐ真顔に戻って、もうちょっと詰めた話に移行する。
「今も言ったけど、まだ細かいところは決まってないのよね」
「どうなるんだろ?」
「交渉の成り行きしだいじゃ、この子は切っちゃうかな。せめてFかバック、どっちかはできないと使わないつもり」
「もったいない……」
「使わないって言っても、うちでは、だけど」
「なるほど」
 「こっち」で使えなかったら、よそにやるわけか。
 半裸の子供が楽しそうに遊んでるのを見るだけで満足できる、お手軽な……いや、軽症って言った方がいいのかな?
 そういう人たちを対象にしてるところへ行くわけだね。
「たぶん大丈夫じゃない? けっこう切羽詰まってるみたいよ」
「だといいね」
「うふふ、悠樹くん、気に入った?」
「かなりね」
 ブリーフィングの後は二人で食事して、ゲーセンで遊んで、帰った。
 あまり期待しすぎないようにしながらも、でもやっぱり期待した。

 数日後。チーフから電話が来た。
「悠樹くんOK出たけど、あした空いてる?」
 いつもながら、電話はぶっきらぼうで、最低限の事しか言わない。
「明日って、ずいぶん速攻だね?」
「すぐ撮るんじゃなくって、とりあえず顔見せまでって事」
「そういうことか。OK」
「じゃあ、詳しい事は、明日こっちでね」

 ……で、次の日。
「とりあえず、決定事項。悠樹くんは3点セットがOK、でもそこまで。多少の実力行使は認めるけど、過剰なのはダメって事で」
「縛っちゃ駄目?」
「ダメ」
「じゃあ……」
「蝋燭も浣腸も鞭もダメ、拘束具などもってのほか。以上」
 俺は個人的にそういうのが好きなんだけど、さすがに、小学生にはさせてもらった事がない。ま、しょうがないだろうけどね……。
「で、その悠樹くんは?」
「隣の部屋にいるよ。行ってみたら?」

 言われた通りに隣の部屋に行くと、こないだ見た写真の男の子が、一人でゲームをやっていた。
 思ったほど体は大きくなくて、大人しそうな、ちょっと可愛い子。
 これが、悠樹に抱いた最初の印象かな。

 悠樹は俺の方を見て、ちょっと不安そうな顔になった。
「ふーん、いいとこまで行ってるじゃん。すぐ終わりだよ」
 俺は、かまわず悠樹の横に座って、テレビの方を見た。
「仲間、何人見つけた?」
「……何人か、入ってないみたい」
「ちょっと、見せてみなよ。調べてあげる」
 悠樹の不安そうな表情が、少しやわらいだ。
「あらら、手遅れになっちゃったのがいるね……残念でした」
「みんないないと、ダメなの?」
「仲間を全員集めておくと、最後の方で、グレミオが生き返るんだよ」
「えー!?」
 こんな話をしてるうちに、悠樹は、だんだんなついてきた。
 こういう、簡単な子ばっかりだといいんだけどね。

 いろいろ、ゲームの事とか、テレビの事とかを、楽しく話してた。
 でもしばらくして、悠樹は、また不安そうな表情になった。
「ねえ……」
「何?」
「僕、何すればいいの?」
 悠樹は、じっと俺の方を見てる。ちょっと返事に困っちゃうな……。
「あまり気にすることないよ。ここで遊んでていいんだから」
「……」
 またあとで来るよ、と悠樹に言って、俺は部屋を出た。

「どう、いい子でしょ?」
「そうだね」
「じゃあ、決定ね」
「で、今日、泊まっていい?」
 俺がこう言うと、チーフは、おかしそうに笑った。
「よっぽど気に入ったんだ。いいよ。優しくしてあげてね?」
「分かってるよ」
「2、3日中には撮りたいから、それまでに慣らしといて」

 また悠樹のところへ行くと、悠樹はマンガを読んでいた。
「俺も今日、ここに泊まるから」
「え……」
「今日は誰にも叱られずに、夜中まで遊んでいられるよ。ゲームでも買ってきてあげるから、一緒にやろうね」
「うん」

 まだまだ悠樹には不安な気持ちがあるみたいだから、少しでも安心させて、気持ちを落ち着かせてあげないとね。
 この経験によって受ける傷が、少しでも浅くなるように。
 とりあえず、そうとでも言っておこうかな。

 悠樹には、ちょっと時間かけようかな、と思う。けっこう可愛いし、もっとなつかせてみたいから……。
 いろんな事を考えてるうちに、時間は過ぎていった。

 さすがに夜も遅くなってきて、悠樹があくびをしはじめた。
「悠樹くん、もう寝る?」
「うん……」
 パジャマに着替える悠樹を見ながら、頭の中で、「教育プラン」を考える。どういうふうにしようか……ってね。


To be continued

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