題「人ならざる者」8
 この日、護廷に衝撃が走った。
北流魂街・更木地区にて高い霊圧を持つ者を捕捉した。その霊圧の高さは隊長格、若しくはそれ以上の物・・・。
その正体を突き止めるために二番隊中心で捜索隊が編制されたが見つける事が出来なかった。

緊急に隊首会が開かれ、その地へと隊長格全員で赴く事が決まった。

その頃の更木地区。
「なんか出るトコ間違えた気がする・・・」
今にも朽ち果てそうな小屋の中で少年が呟いた。
「もうちょっと近い所に出る予定だったのになぁ・・・。地軸がずれちまったな」
長い髪を掻き上げ、溜め息を吐く。
小屋の外では霊圧に惹かれた住人や、遠くの方には虚がうろついている。
「面倒だなぁ・・・」
そう呟くと奥の柱に凭れた。

数秒後、小屋の周りを高い霊圧を有する者が取り囲んだのに気付いた。
「ホントに面倒・・・」

「この小屋に居る者に告ぐ!敵意が無いのであれば速やかに姿を現せ!さもなくば・・・!」
ゆっくり立ちあがると少年は朽ちかけた扉を開いた。

そこに立つ者を見た者は皆息を飲んだ。
その少年は白い装束に身を包み、髪は地面に着いてもなお、伸びていた。

扉が開いた瞬間から小屋を中心に暖かい霊圧に包まれた。まるでぬるま湯の中を歩いているかの様に纏わりつく霊圧。
決して不快ではない、むしろ心地良い。だが相手の正体が分からない以上警戒する。
一部を除いた者たちが斬魄刀に手を掛けると、周りを見回した少年が口を開いた。
「・・・控えよ・・・」
その瞬間、その場に居る隊長、副隊長達の上に濃密な霊圧が圧し掛かった。先ほどとは一転して氷の様に冷たい霊圧。
「ぐっ!」
「うあ!」
一人残らず膝を付き、少年を睨みつける。その様子に眉を顰める少年。
「頭が高い・・・」
さらに重くなる霊圧。
「ごほっ!ごほ!ごほ!」
「浮竹!大丈夫かい?」
「あ、ああ・・・」
「・・・死神も弱くなったものだな・・・」
とぽつりと呟くその少年の衣服がボロボロと朽ち果ていく。朽ち果てた服は白い花弁となって散っていった。
「ふん・・・。よく保った方か・・・。此処は瘴気が濃いな・・・」

「一護・・・かの?」
声がした方に視線を動かす。
「重國か・・・。暫くだな。それにしても老けたな」
「お主を出会ったのはもう幾千年も前の事・・・、当たり前じゃ」
「それもそうだな。そんな事より・・・」
一護と呼ばれた少年は、自分の霊圧を受けてもびくともしていない男の前に歩を進める。
「ああ・・・、剣八、会いたかった・・・!」
拗ねているのか唇を尖らせている。
「俺は待ってたぞ・・・。でも、お前だけは約束を守ってくれたな」
「約束・・・」
「別れる時に椿の種を渡しただろ?いつか、落ち着く場所が出来たら植えろって」
「ああ、あれか。随分前だぜ。漸く花咲かせやがった」
「うん、だからお前の居場所が分かったんだ。その椿が媒体になって俺に教えてくれたんだ」
一護が身体を繋げたのは後にも先にも剣八だけなのだ。
「手土産あるんだぜ。優と紫が酒作ってくれたんだ。飲むだろ?」
一護が二つの徳利を掲げる。
「良いけどよ、いい加減なんか着ろよ、お前」
「そうか?じゃぁお前の羽織くれよ」
「しゃあねえな」
と大きな隊長羽織を一護に被せる剣八。
「なあ、やちるは?元気なのか・・・?」
「ああ、此処に来てんだろ。やちる!」
「ほーい!いっちー!久し振り〜!会いたかったよ〜!」
一護に飛びつくやちる。
「うわっと!大きくなったなぁ、やちる!綺麗になったな!」
「本当?ありがとう!いっちー!嬉しい!」
ぎゅうぎゅうと抱き付くやちるを一護も抱きしめる。
「やちる、その刀を貸してくれるか?」
「これ?良いよ〜」
「ありがと」
やちるの斬魄刀を受け取ると長く伸びた自分の髪を惜しげもなくバッサリと切り落とした。
「あー!勿体ないよ!」
「良いんだ。ただの願掛けみたいなもんだからな」
ふあ・・・、と風に乗って消えて行く髪は紅葉になり彼方へと吹き飛ばされた。
「あ、そうだ。ちょっと待ってくれな」
刀を返し、やちるを剣八に渡すと、未だに咳き込んでいる浮竹の傍に近寄る。
「おい、そこの白いの」
ゼイゼイと苦しそうな息の中顔を上げる。
「・・・肺か?」
「・・・まぁ・・ね、ゲホッ!」
「ふうん。やちる!コレとは仲は良いのか?」
「うっきー?うん、いつもお菓子くれるよ!」
「そっか」
浮竹の前に跪くと一つの徳利の栓を開ける。
「一口飲め・・・、楽になる」
「貴様!毒ではあるまいな!」
砕蜂が声を荒げる。
「黙れ、小娘。滅するぞ・・・」
睨まれるだけで息が詰まる。
「ぐう・・・!」
「飲まんのか?」
一護は浮竹の白い髪を掴んで上を向かせると、
「ああ、力が足らんのか・・・仕方が無いな・・・」
クイッと自分の口に含むと口移しで飲ませた。
「ん、ぐ・・・」
甘い液体が喉を潤し、苦しみを和らげた。
「にが・・・、苦い血だな、お前」
ペっ!と唾を吐く。みるみるうちに顔色が良くなっていく浮竹。
「これで大分良くなるだろ。菓子の礼だ」
そう言って立ち上がり剣八の傍へ行く。

何事か喋っている剣八と一護。
「何飲ませた」
「これは優の甘露だよ。こっちが酒・・・んッ!」
見ていると急に一護を抱き寄せて口付けていた。
「んッ!ん、ふうっ!あ・・・」
「何俺より先に他の男の口吸ってんだ?てめえは・・・」
「あー!剣ちゃんってばヤキモチだぁ!」
「うるせェ・・・!」
「妬いて、くれるのか・・・?」
「やちる、帰るぞ」
「あいあいさー!」
剣八は一護を抱きかかえると瞬歩で隊舎へと消えた。

隊舎に着くと一護を庭に連れて行く剣八。
そこには一輪だけ花を咲かせた二本の椿が植わっていた。
「大きくなって・・・」
一護は我が子を愛でるかの様に花を撫でた。
「誰だ・・・?」
一角と弓親が現れた。その声に顔を上げる一護が、
「お前が一角か、いつもありがとな。この子の世話してくれて」
と礼を言った。
「な、なんで!」
いきなり見知らぬ者から礼を言われ動揺する一角。
「ん?この子がお礼を言いたいんだってさ。いつも大事にしてくれるって、囲いを作ってくれたり、風除けを作ってくれたり」
「あ、ああ・・・」
そこへ不機嫌な剣八の声が、
「おいもう良いだろ。いい加減にしろ・・・」
と一護の腰を抱き寄せる。
「そうですね!今日はもうお仕事も無いですしね!さ!副隊長も!おやつ食べましょうか!」
弓親が気を利かせて、二人きりにしてやった。人払いもされて剣八の部屋の周りには人っ子一人居ない。


第9話へ続く



11/05/01 祝!再会!早すぎますかねぇ?さて次は・・・。



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