題「人ならざる者」7
 気丈に剣八とやちるを送り出した一護だったが日が経つにつれ、塞ぎこむようになった。
縁側で遠くを見ては溜め息を吐いている。
原因が分かっているだけに何も言えない白、ウル、グリ。こちらもイライラとしている。
「なんであんな人間のガキに骨抜きにされてんだよ・・・!」
「くそ・・・っ!あのガキ、一護に手ぇ出しやがって!」
「静かにしろ、お前達」
「斬月!てめえなんで阻止しなかった!」
白が斬月の胸倉を掴んで怒鳴る。
「・・・一護が望んだからな。私はそれに従うまで・・・。お前たちこそ立場を弁えろ・・・!」
「!!〜っち!」

心ここにあらずの様子の一護。その横に座る斬月。
「あ、斬月・・・」
「茶だ」
「ん、ありがと・・・」
二人でお茶を飲み、心地よい沈黙が流れる。その沈黙を破ったのは一護の方だった。
「最近時間が経つのが遅くないか?」
「いつもと同じだ・・・」
「そうか・・・」
ふう・・・、と溜息を吐くと遠くを見つめる一護。ココに居ないあの男を追う様に・・・。
「あの男は・・・」
「!!」
「あの男はお前の心を持って行ってしまったのだな」
「何言って・・・」
「気付いて無いのか?お前は毎日毎日同じところを見ているのだぞ」
「同じ所・・・?」
「優と紫が植わっている門の場所だ」
「そんなこと・・・」
「待っているのだろう?『また来る』と言ったあの約束を」
「うん・・・。もう来れないって分かってるのにな・・・」

ここは異境・・・。迷い込むことは出来ても、目指す事は出来ない・・・。故の約束。
「なぁ斬月。アイツが約束を守ってくれたら俺は・・・」
「好きにすると良い。お前の気持ちだ、何者にも変える事は出来まい。・・・愛しているのだろう?あの男を」
「斬月・・・!ありがとう・・・!」
一護は涙を流して斬月に礼を言った。
「泣くと良い・・・、あの日からずっと我慢していただろう?」
「う、ひっく!うう!うう!」
「泣いてすっきりしたら食事をしろ。何も食べていないだろう、それでは会いに行く事は出来んぞ?」
「でも!約束・・・!」
約束が果たされない限り会う事など出来ない。
「お前が初めて愛した男だろう、信じろ。あやつは必ず約束を果たす・・」
「うん・・・!」

漸く食事を取り始めた一護に社の者達も、白もウルもグリも安心し、喜んだ。

数百年後。
瀞霊廷では一人の隊長が決まった。前隊長を一騎打ちで倒し、その座を奪った男の名は「剣八」だった。

そしてさらに歳月は経ち、十一番隊では・・・。
やちるが庭に穴を掘っていた。
「なぁ〜にやってんすか、副隊長。落とし穴ッすか?」
「違うよ!つるりん、剣ちゃん見なかった?」
「そのあだ名やめろつってんだろ!いや、見てねぇ・・・あ、そこに居るぞ」
「あ!剣ちゃーん!こっちこっち!」
大声で呼ばれた剣八が近づいてくる。
「なんだ?やちる」
「種!ちょうだい!植えるから!」
「ああ・・・、今の時期で良いのか?」
「うん!卯ノ花さんに聞いたら丁度良いって!」
「そうか、ほら」
懐から古びた巾着を出すとやちるに手渡した。
「いっちーとの約束だもんね!」
「そうだな・・・」
あれから数百年。隊長になり、『終の住処』と呼んでも良い場所が出来た。
剣八もやちるも一護との約束を一日たりと忘れた事は無い。
空腹に襲われようと、敵に囲まれようと二粒の種を守り切り、今に至った。

昔に想いを馳せていると、
「剣ちゃんも手伝ってよ!」
と怒るやちるが居た。
「あ、ああ・・・」
充分に間を開け、肥料を混ぜた土に種を植えた。
「つるりん!このお花のお世話お願いね!」
「はあ?何で俺が!」
「あたしも剣ちゃんもへたっぴなんだもん・・・。このお花はあたしも剣ちゃんも大切にしてるの。ね、お願い!」
「しゃあねえな」
「悪いな、一角」
「そ!そんな!隊長!全身全霊を込めてお世話させていただきます!」

やちるは毎朝水をやり、雑草を取り除いた。剣八も付き合うが先にやちるがやってしまうので見てる事しか出来ない。
やっと芽が出た。
「おい、一角。此処に囲い作れるか」
「囲いっすか?」
「・・・誰かが踏んでるからな」
と大人の者であろう足跡を憎々しげに見る。
「頼んだぞ」
と言い去っていく剣八。

一角は昼休み返上で囲いを作っている。
「なんで俺が・・・」
とブツブツ言うも手は抜かない。
「良いじゃないか。あの隊長と副隊長がそれだけ大切にしてるんだよ?光栄じゃないか」
「で、お前は見てるだけなんだな。弓親」
「手が荒れるじゃないか」
などと話している。

芽が出て数百年。漸く花が咲いた。
血の様に赤い花を付けた木と、桃色の花を付けた木。
「やった!やった!お花咲いたよ!剣ちゃん!いっちーの椿が咲いたんだよ!」
「ああ・・・」
体全部で喜ぶやちる。言葉少なめだが喜んでいる剣八。そして苦労が報われたと喜ぶ一角が居た。













そして、社から一人の男の姿が消えた。


第8話へ続く




11/04/30 別れた後の出来事でした。





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