題「人ならざる者」5
 この日一護は朝から社に居なかった。
日の出とともに、社の裏にある山の奥にある滝にて禊ぎを行っていた。

「おう、一護は居ねえのかよ」
と起きた剣八が従者に聞くと、
「一護様はただいま禊ぎの儀に出掛けておられます。お昼にはお戻りになられますので」
「ふうん・・・」
お食事ですと出された食事をやちると一緒に食べ終えると、一人散歩に出た剣八。

「禊ぎってなぁ何だ?」
と独り言を言いながら散歩の途中で迷子になった。

「ちっ!木と草ばっかじゃねえか!どっちに行きゃあ良いんだ」
がさがさと歩いていると、水音が聞こえて来た。
「川か・・、丁度いい喉渇いてきやがった」
とさらに進むと剣八の目に飛び込んできた物は、全裸で滝に打たれている一護の姿であった。

三段の滝の二段目に胡坐を掻いて座り、目を閉じている一護。
「なに、やってんだ・・・?」
知らず息を潜めて覗いていると一護の目がゆっくりと開かれた。
「ッ!」
いつもの一護の顔ではなく、この山とその周辺を護る者の顔になっていた。
「ふう・・・」
と滝から出て身体を拭く一護。若く瑞々しい肌を珠になった水が伝い落ちる。と一護がこちらを向いた。
「う・・・!」
「なぁに覗いてんだ?剣八?」
「覗いてねぇ・・・」
「面白くもねえだろ、男の水浴びなんざ」
髪を拭く一護に装束を着せていく侍女たち。

「さ・・・、一護様、御御足を・・・」
と履き物を履かせていった。
「なんかあんのか?今日はよ・・・」
「ちょっとな十五夜だからな・・・」
と完全に着替えた一護が居た。
「ちょっと仕事してくるからよ、うちに帰ってろよ」
「・・・道分かんねえ・・・」
とばつが悪そうに言えば、侍女の案内させると言われた。
「それより何やんのか教えろよ。ヒマだ」
「はぁ・・・。山の結界の修繕とかまぁ露払いだよ。面白くないぞ?」
溜息を吐きつつ教えてやった。
「そんなもんは俺が決める」
「付いてくんだな。まあ良い。迷子になるなよ?」
「ああ・・・」

歩く一護の後ろを付いて行く剣八。
まるで泳ぐように滑らかな動きなのに、早い。息があがる。自分はこんなに汗を掻いてるのに一護は汗一つ掻いていない。
「ここだな・・・」
と指を指して何事か唱える。
「よし!やっぱり結構弛んできてるな・・・。全体的に締め直すか・・・」
くるっとこちらを向くと、
「大丈夫か?まだ奥に行くけど・・・」
「平、気だ!」
「そうか・・・、白とウルとグリは?」
「先に上で御待ちでございます」
「そうか」
さっさっ、と歩く一護。
やがて終点が見えた所で剣八が鼻血を出して卒倒した。
「やっぱな・・・、人間にゃキツかったか」
「当たり前だろ、何連れて来てんだバカ」
「しょうがねえだろ・・・。早く終わらそうぜ」
「へいへい」
一護が何事か唱えている間、3人は後ろに座り同じように文言を唱えている。
「・・・よっし!終わったぞ!帰るか!」
「コイツどうすんだ」
「連れて帰るよ。当たり前だろう」
と揺さぶるが目を覚まさない。
「しょうがねえなぁ・・・」
と一護が肩を貸して連れていくがやはり身長差と重さでよろよろなので見かねたグリが、
「貸せよ、俺が連れていく!」
と担いで先に帰ってしまった。

ドサッ!と落とされた後、ゴン!とどこかに頭をぶつけた痛みで目を覚ました剣八。
「いってぇな・・・、何しやがる」
そんな剣八を冷たい目で見下ろすグリムジョー。
「何じゃねえよ、一護の仕事の邪魔すんなガキが」
「してねえだろ」
「やっただろうが!なんでテメェがあそこに居た!もうちょっとで一護が連れて行かれる所だったんだぞ!」
「連れてかれる?どこに?」
「ここはな、てめえらの考えてる様なトコじゃねえんだ。約束事が山とあるんだよ!他所もんがちょっと気に入られたくらいで良い気になるな。全部のしわ寄せが一護に行くんだよ!」
物すごい剣幕で怒鳴られた。質問に答えていなかったが訊ねられる雰囲気ではなかった。
「剣ちゃん・・・?」
名前を呼ばれて振り向くとやちるが居た。
「どこに行ってたの?あたしひとりだったよ?」
「わりぃ・・・」
たたた!と駆け寄るとぎゅう!と抱きついて離れなくなった。
「仲良いなぁ」
とのんきな声が聞こえた。
「あ!いっちーも!どこ行ってたの!」
「ん〜?俺はお仕事。これでも忙しいんだぞ〜?」
とやちるの頭を撫でながら笑って言った。
「っあ〜!疲れたぁ・・・。湯浴みする」
「はい、一護様」
「白、ウル、グリ、一緒に入るぞ」
「おぉ」
「はい」
「おう」
4人は疲れを取るために風呂へと向かった。


第6話へ続く





10/06/19作 一応お仕事してる一護でした。




文章倉庫へ戻る