題「人ならざる者」4
 今宵の月見に向けて一護は用意を始めていた。
「ウル!ウル!ちょっと来てくれ!」
と呼ばれ一護の元へ駈けつけるウルキオラ。
「何か御用ですか?一護様」
「うん!あのな、里へ行って菓子をたくさん買ってきて欲しいんだ!」
「はあ・・・、月見でお食べになるのですか?」
「ああ、やちるにやろうかと思ってさ!頼むな!ウルが一番早いからさ!月が昇るまでに帰って来てくれな!」
と子供の様にはしゃぐ一護を見せられては断る事が出来なくなった。
「では行ってまいります・・・」
「気を付けてな。お前も何か欲しい物があったら買っても良いぞ!」
と始終にこにこしている一護だった。

やがて日が暮れ、月が輝く頃、庭に月見の席が用意された。
緋毛氈の上には、幾つもの酒や料理、お菓子が用意されていた。
「早く来いよ」
「おう、なんだ庭でやんのか」
「いやか?」
「いや、縁側かどっかかと思っただけだ」
「そか!やちる!ほら!お菓子もい〜っぱいあるぞ!」
「お菓子なんて食べたことないよ」
「甘くって美味しいぞ〜」
ひょいと一護は饅頭をやちるに差し出した。
「ほら・・・」
受け取ったやちるは、
「やわらかぁい・・・、はむ、ん〜!」
きゅっと目を瞑り、飲み込むと、
「おいし〜い!剣ちゃんこれ美味しいよ!」
「へえ。・・・甘ぇな」
「いっちー、ほかのも食べてもいいの?」
「ああ、全部食べてもいいぞ」
「やったあ!」
やちるは料理そっちのけで初めて食べるお菓子を次々と食べていった。
「ふふ、良かった。ほら剣八、酒」
「ああ」
猪口に注がれた酒をぐいっと呷ると、
「美味いな・・・」
「そうだろうそうだろう、俺のお気に入りなんだ」
くっと一護も酒を飲んだ。

 風が吹けば、花が散り、花の香りが鼻を掠めた。
「いっちー!このお菓子はなぁに?」
「うん?ああ、金平糖って言うんだよ」
「へえ〜!綺麗だね、お星様みたいに!」
「そうだな、気に入ったか?」
「うん!これ大好き!」
満面の笑みで応えるやちるの頭を撫でる一護。
「一護、あの酒は?」
「ああ、これな。これはこっちの器で飲むと良い」
と透明な杯を差し出した。
「なんだこりゃ?」
「ギヤマンだよ、ほら・・・」
と注ぐその酒は紅かった。
「なんだ、この酒?」
「果実酒だよ、サンザシを漬けたんだ。キレイだろ?ギヤマンだと透き通ってるから、これ使うの好きなんだ」
と説明した。
「ふうん・・・」
くいっと呷ると剣八が一護に杯を返し、酒を注いでやった。
「ありがと」
「ふん・・・」
とくとく、と注がれる紅い酒。
「綺麗だ・・・」
ゆっくりと口を付ける一護。
何故か目が離せない剣八は、一護の唇が酒に湿されるのをじっと見つめていた。
「ん・・・、美味い・・・どうした?」
「なんでもねえよ」
とふいっと顔を反らした。
「そうか?やちる、果物も食べるか?」
「うん!」
と元気よく答えるやちるに果物を出すように伝える一護。
「これなぁに?いっちー」
「それは白桃だ、美味いぞ」
と綺麗に皮を剥かれ、切って出された中心部分が濃い桃色をした芳醇な香りの果物を食べさせた。
「わあ・・・いい匂い、それにとっても美味しい!剣ちゃんも食べて!」
「ほら・・・」
とその口元に持って行く一護。
あ、と一口で食べた剣八。
「ふうん、悪かねぇな」
と次に手を伸ばす。
「他にも色々あるからな?」
と次々と酒を差し出した。

ふと、気付くとやちるは眠っていた。
「あれあれ、誰か、何か羽織る物を」
「こちらでよろしいでしょうか?一護様」
「うん、ありがと」
一護はやちるを膝に抱きながら、月見と花見を続けた。
「良い月だ・・・」
と一護が見上げる空には十三夜の月があった。
「満月じゃねえんだな」
と呟く剣八。
「ああ、丁度いい月だ・・・」
くっ、と杯を空ける一護の頬は赤みが注し、艶があった。
「どうした?」
と熱に潤む目で見上げられた剣八は言い様のない感情に襲われた。
(なんだ?こりゃ・・・)
いきなり一護を掻き抱きたい衝動に駆られた時、声が掛けられた。
「一護・・・、もうそろそろお開きにしてはどうだ・・・?」
「斬月、でも、もうちょっと飲みたい・・・」
「明日にでもまた飲めば良い・・・、娘が風邪をひいてしまうぞ」
「分かった・・・、楽しかった!また明日な!剣八!」
「あ、ああ・・・」
斬月が何かを言うと従者達が後片付けを始めた。
一護がやちるを抱いて社に入っていく。
「ちっ!これからだってのによ」
と杯に残った酒を空けた剣八。
「また明日にでも付き合ってやってくれ・・・」
と斬月が言い、帰っていった。
「まぁいいけどよ・・・」
と剣八も自分達に与えられた部屋に帰っていった。

既にやちるは蒲団に寝かされていた。
「俺も寝るか・・・」
居心地が良いがやはりここには自分の求める物はないと気付きつつある剣八だった。

「ああ、楽しかった・・・」
「それは良うございました、一護様」
「うん、ウル!お菓子ありがとな!やちるも喜んでた!」
「もったいないお言葉、ありがとうございます」
「明日の分もあるかな?」
「まだありますし、なんでしたらまた買いに行きましょう」
と言えば、
「うん、頼むな」
と無防備な笑顔を向けられた。
「じゃ、俺も寝るな〜」
「おやすみなさいませ、一護様」
と一護を見送ったウル。
その後ろからグリが出て来た。
「随分と御執心だな、今回は」
「そうだな・・・」
「面白くねえな・・・」
と低く聞こえたのは白の声。
「お前達、邪魔はするなよ」
と窘める斬月。
「あ奴らが此処に居るのは短い時間なのだ。それまでは一護の好きにさせてやれ・・・」
「わあってんよ・・・」

どうせまた泣く癖に・・・。と苦い顔の白達3人。

次の日、二日酔いも無く、また月見をする3人が居た。


第5話へ続く




10/06/03作 お花見と月見でした。さて、お次はちょっとした儀式でも書きたいな。






文章倉庫へ戻る