題「人ならざる者」3
 久し振りの人間との触れ合いに昔を思い出す一護。
縁側で目を瞑り過去を振り返る。

まだ一護がこの存在になる前は、一護もまた人間だった。
けれど一護が十五の時、此処の神に生け贄として差し出された。
迎えた神と言われるものは一護を気に入り、可愛がった。
世俗から切り離された一護はもう既に人ではなくなっていたため歳を取るのが非常に遅くなっていた。

数百年経ち、ようやく一歳年を取り十六になった時、先代の神がお隠れになってしまった。
その時に一護は次の神として引き継がれたのだ。
「無理だよ!俺はただの人間だったのに!そんな!」
「無理ではない・・・。儂の全ての記憶と叡智も全て受け継がれる。心配することは何もないのだ・・・」
「でも・・・、じいちゃん・・・」
「一護・・・、神もまた死ぬ・・・。儂はもう隠れなければならんのだ・・・。後を任せられるのはお前だけだ、すまんがここを頼む・・・」
と言い残し、隠れてしまった。

それから数千年経つが一護は歳を取らなくなった。若く美しい、十六のまま・・・。

それでも、千年は頑張った。だが孤独には勝てなかった。人間だった一護には膨大な時間の流れに堪えられなかった。
自分の斬魄刀に名を付けた。『斬月』と。すると具現化し、言葉も交わせるようになった。
一護は嬉しかった。もう一人じゃないのだと泣いて喜んだ。
しばらくして自分の力からもう一人の人格が生まれた。よく暴走して手綱を握れなかった彼にも名を与えた。『白』と。
すると見違えるほどに落ち着き、暴走することも無くなった。

二人は一護に絶対の忠誠を誓った。
もう一人にはしないと。孤独に苛まされることにならないように・・・。

それから一護は社の周りに生えている樹木や棲んでいる動物に名を与えた。
全てが人格を持ち、一護に絶対服従し、崇め奉った。

その距離がまた、一護に少しの孤独を与えてしまった。それでも一人じゃないのだからと、何も言わなかった。

時折、迷い人が現れるがそのすべてが良き客人として迎えられ、そして去っていった。

一護は彼らとたった一つの約束をして別れるのだが、過去に誰一人として守った者はいない・・・。

その事に涙し、白からはもう関わるなと叱られる。
『お前は既に最初から人間に裏切られてるのに何故関わろうとする?お前はここに捧げられ、人間を辞める破目になったのも人間のせいなのに』

と疑問をぶつけられる。一護にだって分からない。一つ分かったのは先代も、孤独の檻で苦しんでいたのだと言う事・・・。

誰かと言葉を交わせると言うのは、返事が返ってくるという事は幸せなのだなと知った。
時には喧嘩もするし、笑い合う。それが先代はいつから無かったのだろう?最初からだろうか?知らないのなら少しは楽だったろうか?それとも、生け贄が捧げられる度に、束の間の友人になったのだろうか?だとすれば・・・、誰もいない時間は・・・、永遠より長く感じたのではなかろうか?
元、人間が考えて分かるはず無いのかも知れない。

なら、いつか約束を守ってくれる者を待つのも良いかも知れない。と続けて来た。此処に来てからもう万の年が近いが一度たりとも叶った事は無い約束は誰が守ってくれるのだろうか?

「なんでぇ、寝てんのか」
急に声を掛けられてびっくりした一護は変な声を上げてしまった。
「うひゃあ!」
「変な声あげてんなよ」
「ああ、ワリィ、どうした、腹減ったのか?」
「ちげえよ、ヒマだからよ、ここら案内しろよ。狭いんだか広いんだか分かんねえ」
「ああ、お安い御用だ」
と二人で庭を歩いた。

斬月と白以外で対等な言葉のやり取りはほとんど無い。グリもタメ口だが一線を引いている。
なのに、何も知らないとは言えこの男は一護を普通に扱う。
何千年ぶりだろうか?こんな感じは・・・。
もう二〜三千年前にも一人の男が迷い込んだが、彼はどうだったか・・・。生きて・・・いるのだろうか?

「ここは花が多いな?季節関係ねえのか?桜もクチナシも藤も梅も咲いてるじゃねえか」
「ああ、此処では関係ないんだよ・・・」
「ふ〜ん」
「お前は・・・、いつまで此処に居てくれるんだろうな・・・」
「なんか言ったか?」
「いいや、何も」
と儚く笑う一護だった。
「いいじゃねえか、毎日花見出来て、酒が美味えだろ?」
と笑って話す剣八に、
「そうだな、うん。美味しいよ、今晩飲むか?」
「おう、久し振りだぜ、酒なんざ」
とひどく嬉しそうにしていた。
「何の話だ?」
「白、朝から見なかったな。どっか行ってたのか?」
「ちぃっとな。で?なんの話だよ」
「花見で酒でも飲もうって話だよ。お前もどうだ?」
「遠慮すんぜ、お前と二人ならいいけどよ」
「あっそ・・・」
そう言いおくと社に帰って行った白。
「あいつお前と似てっけど、全然違うな。やちるもあいつには近づかねえ」
「悪い奴じゃねえんだけどな、ああ、此処のメシは口に合うか?」
「ああ、今まで食った事もねえくらい美味いな」
「そりゃ良かった。じゃあ今夜は花見と月見で一杯だな」
「楽しみにしてんぜ」
と楽しそうに話をする二人を睨むように見つめる3つの影。
「邪魔だな、あいつ・・・」
「身の程知らずが・・・」
「うぜぇ」
グリ、ウル、、白だ。
「はぁ・・・、みっともないぞ、お前たち・・・」
溜め息を吐きつつ斬月が窘める。
あんなに楽しそうな一護を見たのはいつ振りだろうか?と思いながら斬月の口元も微かに弛んだ。


第4話へ続く



10/04/24作 一護の過去でした。次は花見と月見!


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