題「人ならざる者」10
 一護が剣八の元へ訪れてから一週間。
蜜月の時を過ごす3人。特に一護はやっと逢えた恋人の剣八にべったりだ。

 そんなある日、一護の元に黒い蝶がやって来た。
「なんだこいつ?可愛いな」
「地獄蝶だ。・・・おい、一護。じいさんが呼んでるってよ」
「重國が?用があるなら向こうが出向けば良いのに」
「まぁな。行くのか?行かないのか?」
「お前が行っても良いって言うなら行く。けど場所知らない」
「それもそうか。一緒に行くか?」
「おう!」
二人連れだって一番隊隊舎まで歩いて行った。

 一番隊に着くと重國が出迎えた。
「よう来たの、一護」
「お前が呼んだんだろう?」
ふふん、と笑う一護。
「まぁの、久し振りに昔語りがしたくての」
「ふぅん?どうする、剣八?」
「あ?」
「同席するか?」
「ああ・・・、いや、積もる話もあんだろ?外で待っててやる」
「そうか・・・」
剣八はそう言うと一番隊の敷地内で昼寝をするべく場所を探した。

「・・・で?なんの話がしたいんだ?」
一護を茶室へ案内し、茶を点てる。
「怒っておるのかの?」
「何を」
「お主との約束を守れんかったからの」
「ああ・・・、椿か・・・。いいや、なんぞ理由があるだろう?生きるお前達を責める訳にもいかん。時間の流れは膨大だ・・・」
「うむ・・・、そう言って貰えると随分と楽になる。しかし、お主は変わらんのぅ」
「そうか?」
「うむ、・・・いや、変わっておるな。・・・更木か?」
「ああ。唯一の男だ」
「そうか・・・。良かったの・・・」
「ああ。・・・ありがとう、重國。お前ともまた会う事が出来て良かったよ」
「・・・・」
「生きていてくれてありがとうな」
にこりと微笑む一護。
「うむ・・・・」
その後はお互いの話をした。
「楽しかった。またな」
「うむ」
昼寝をしていた剣八を起こして十一番隊へと帰る二人だった。

 一護と剣八が一番隊に行っている間に二人の寝室に忍び込む影が二つあった。
その影は剣八と一護の寝室に置いてある徳利の中身を盗もうとしていた。

十三番隊三席の清音と仙太郎だ。
だが、崑崙(こんろん)(くれない)に気付かれた。
「何をしている?コソ泥」
何の気配も感じなかった二人はビクンッ!と肩を跳ねさせた。
「あ、あ〜、その・・・」
「わ、悪気は無かったのよ!ただちょっと、この徳利の中身を分けて貰いたいな〜・・・なんて」
と清音の手には優の甘露が入った徳利があった。
「貴様・・・!それが何か分かっているのか!」
それを見た途端に怒りを露わにする崑崙と紅。
「な、何って薬じゃないの?これで浮竹隊長元気になったって・・・!」
最後まで言い終わる前に紅によって頬を殴り飛ばされた清音。
「清音!いきなり何しやがんだ!この!」
怒鳴り返す仙太郎に裏拳を叩き込む。
「いきなり・・・?それはこちらのセリフ。畏れ多くも一護様の私物に許可なく触れるとは・・・!よりにも寄って優様の甘露を!」
水色の目をキリキリと釣り上がらせる紅。静かに微笑みながら怒りを燃やす崑崙。
「「この罪、どう贖って貰おうか・・・」」
地の底から響くような声が聞こえた。

 剣八と一護が帰って来た。
「ただいま。良い子にしてたか?崑崙、紅」
「は。一護様、盗人を取り押さえましてございます」
跪いた崑崙が答えた。
「うん?盗人?俺と剣八の部屋にか?」
不可解な顔で問い返す一護。
「はい。その者どもは恐れ多くも一護様の大事な甘露に手を出したのでございます」
と紅。
「・・・何・・・だと?」
その言葉を聞くなり、部屋の隅に置いてあった徳利の栓を開ける一護。
「・・・ッ!」
眉を顰め、栓を閉める一護。ゆらりと立ちあがると、
「その愚か者は、どうした?」
と静かに口を開いた。
「「ここに・・・」」
スラッと障子を開けるとそこには縄で縛られた清音と仙太郎が庭に放置されていた。
「ふ・・・ん、殺してないな?」
と紅の頬を撫でる。
「はい」
そしてその手に付いた血に気付いた。
「この手で殴ったのか・・・。綺麗な手に傷が付いている・・・」
とその傷を舐める一護。崑崙の傷も舐めて癒した。それを見て憮然とする剣八。

 庭に下りるとこの二人の霊圧の乱れを感じた浮竹や他の隊長格が集まって来ていた。
「清音!仙太郎!何故こんなことに!」
と動揺を隠せない浮竹。
二人とも、頬を腫れあがらせ口の端から血を流して気絶していた。
「崑崙・・・」
「は・・・」
一護が声を掛けると崑崙は二人に水を掛けて起こした。
「うっ!」
「ゲホッ!ゲホゲホ!」
「なッ!何て事を!」
抗議する浮竹を無視し、件の二人に問う。
「さて・・・、お前達二人は俺の持ち物を盗もうとしたそうだな」
「う・・・」
「それは・・・」
目を泳がせる二人。
「お前達死神が優の甘露をどうするつもりだった?」
あくまで穏やかな一護の問いに答える二人。

聞けば、一護が優の甘露を飲んだ浮竹がいつも以上に健康になり、元気な日々が続いたのでまた飲ませたいと思ったと言う。
その言葉を聞いた一護は氷の様に冷たい目で二人を見下ろす。
「紅」
「はい」
紅が部屋から徳利を持ってきて一護に差し出した。
「そんなにコレが欲しいか?」
徳利を顔の横で振ると中で甘露がちゃぷちゃぷと音を立てた。
期待に満ちた目で一護と徳利を見つめる清音と仙太郎。
「そんなに欲しくば・・・くれてやる」
と手を離す。
それは受け取る手もなく地面に落ち、二人の目の前で粉々に割れ、中身の甘露が地面に吸い込まれていった。
その光景を、
「酷い」
と周りが詰る。だが甘露が染み込んだ地面からボコボコと泡と共に煙が湧きだした。
「これは!?」
驚く清音と仙太郎。
「あなた方の瘴気に塗れた手で触れたせいで(ゆう)様の甘露が毒水に変化したのだ。自らの瘴気で毒水に変えた甘露を上司に飲ませれば良かったものを・・・。それをなさらなかった一護様に感謝することだ」
「死神風情が神聖なる一護様の物を損なうなど・・・この身の程知らずが・・・!」
崑崙と紅の怒りは収まらず、その形相は険しくなる一方だ。
そんな二人の頬を撫でながら一護が窘める。
「可愛いお前達の口から悪い言葉が生まれるのは忍びない。お前達には大事な仕事を頼む」
「「なんなりと!」」
「出来るだけ多くの花の蜜を集めて来て欲しいんだ」
と花の蜜を集める様に命じる。
「お前達の他は剣八とやちるぐらいしか出来ない・・・。頼めるか?」
「ハッ!花と言う花、すべての蜜を集めて参ります!」
「お任せ下さい!」
そう言うとその場から消えた崑崙と紅乙女。
「・・・はぁ・・・疲れた。もう休む・・・」
少し顔色が良くない一護が寝室に消えた。
「さっさとそいつら連れて帰れ」
と剣八が不機嫌に言い放つと、縄を解き自隊へと引きあげて行く十三番隊の主従。
その日のうちに護廷にある花の姿が半分消えた。


第11話へ続く




12/03/24作 山じいと昔話。そして甘露が無くなってしまった一護。これからどうなるのか・・・。




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