題「人ならざる者」1 | |
一人の青年が歩いていた。 腕の中には小さな子供が抱かれていた。ボロボロの服を身に纏い、長い太刀を持っていた。 「・・・腹・・へった・・・」 そう呟くと己の腕の中の子供を見やる。−こいつも限界だな・・・。なにか・・・ 辺りを見回すと、遠くの方にボウッと白い光が見えた。 しめた、家か?誰か住んでるなら食い物があるかも知れねえ、無くても水くらいはあるだろう。相手の命を奪ってでも・・・! 最後の体力を振り絞り、光のある方へと歩く。 「んだよ・・・、こりゃあ・・・」 そこにあると期待した家は無く、代わりにあったのは立派な白木蓮の木だった。 「くそ・・・ったれ・・・」 とうとう身体に力が入らなくなり、足から崩れ落ち、その場に倒れてしまった・・・。 どのくらいの時間が流れたのだろう。男と子供の傍らに少年が佇んでいた。 「珍しいな、人間か・・・」 しゃがみ込むと子供を先に診た。 「生きてる・・・、おい、お前は?生きてんのか?」 ぺしぺしと頬を叩くと薄く眼を開けた。 「あ、生きてた。ちょっと待ってろよ」 ホッとして子供をその場に置いて少年は白木蓮の所まで行き、何か喋っている。 「優、お願いな」 花弁二枚に、何か甘い匂いのする液体が入っていた。 「先にこの子からな」 と目を覚まさない子供にそれを含ませる。甘いそれに気付いたのか本能か、自分から飲んでいく子供。 飲み終わった後の花弁を少年が食べ、もう一つの花弁を男に差し出す。 「飲めよ、楽になるぞ・・・」 口に近づけるが動こうとしない男に焦れて、 「しょうがねえなあ・・・」 と呟き、クイッとそれを口に含むと、口移しで飲ませた。 「ん、く、うん」 「後もう一口だ・・・」 と最後の一口を飲ませる。 「はあッ!う・・・、誰だお前・・・」 「あ、起きた。ここの主だよ、人んちの前で行き倒れてるから助けた」 「う、んん、剣ちゃん・・・?」 「ああ、子供も起きたな。流石、優の甘露は良く効くな」 と花弁をしゃくしゃく食べていると、白木蓮の対に植わっている紫木蓮がざわついた。 「怒るなよ紫(ゆかり)、お前のも貰う」 と二人分の甘露を受け取り、二人に飲ませた。残った花弁は少年が食べた。 「・・・ゆうとゆかりってな誰だ?」 「ん?優はこの白木蓮の名前、紫は紫木蓮の名前。優の甘露は怪我とかに良く効く、紫はそれを安定させる」 門番の様に立つ二本の木を見る剣八。 「お前らの事教えてくれたんだ。斬月!」 何も無い空間に呼び掛けると黒い服の男が現れた。 「何だ・・・一護」 「ソイツ運んで、俺じゃ無理だから。俺はこの子連れてく」 「分かった」 と剣八に肩を貸し運ぶ斬月。 「腹減ってるだろ?メシ食おうぜ。家までまだあるから」 と歩く一護の周りに、いつから居たのか提灯で足元を照らす者達が居た。 「お前・・・貴族かよ」 「違う、後ろ振り返ってみ」 と言われ振り向くと真っ暗だった。 神社の社の様な建物の入り口に着くと上から、 「遅い・・・」 と不機嫌な声が降って来た。 見上げると、頭の天辺から爪先まで白い少年が屋根の上に座っていた。 パッと見では、一護と呼ばれていた少年にそっくりだが、雰囲気がまるで違う。 「白、そんな所に居ると危ないぞ?」 「落ちる様なヘマしねえよ。それよりなんだよ、そのぼろ布は?」 自分の事を指して言っているのだろう。大きなお世話だ。 「さっき拾った」 「何でもかんでも拾うんじゃねえよ、ったく」 「だって、生きてた・・・」 しゅん、と項垂れる一護に、 「ああ、もう良いよ、それよかそいつら沐浴させろよ。人間臭え」 「でも、メシ・・・」 「一護・・・、白の言うとおりだ。先ずは世俗の垢を落とす禊ぎが先だ」 「・・・分かった、薬湯の用意を!この子は俺が入れるから、そいつはお前らに任せる」 「はい、一護様」 いつから居たのか数人の女たちが斬月と共に剣八を浴場へ連れて行った。 「剣ちゃん!」 「大丈夫だよ、湯から上がれば、会えるから」 「本当に?」 「うん、俺たちも湯に入ろう。君の名前は?」 「やちる・・・」 「そうか、俺は一護。よろしくな」 「うん」 優しい笑顔で言われて思わず頷いてしまったやちる。 湯船には、さまざまな植物の葉や実が浮いて、不思議な香りが充満していた。 「ふう・・・」 剣八は身体中が癒されていくのを実感していた。 (変な場所だぜ・・・、ここには敵意がねえ・・・) 「どうかなされましたか?」 「別に・・・、もうあがって良いか」 「はい、湯あたりを起こせば一護様が心配なさいます」 「そうかよ・・・」 ばしゃん、と湯船から出る剣八。脱衣所に控えていた女が身体を拭く。 「てめえでやる!」 「は・・、ではお召し物はこちらになります」 と白い浴衣を渡された。 「ふん、あいつみてえな着物じゃなくて安心したぜ」 と一護が着ていた神主の様な着物を思い出した。 「ここでは寛いで過ごして頂くようにと主からのお達し。どうぞ御ゆるりとお過ごしくださいませ」 と頭を下げ、出て行った。 剣八が廊下に出ると、 「あー!剣ちゃんだ!」 振り向くと、やちるが一護に抱かれていた。青白かった頬に赤みが注し元気なようだ。 「おお、湯はどうだった?」 「ああ、身体が軽くなった」 ぐーきゅるるる。 「いっちー、お腹空いたー」 「そうだな、メシにしよう!」 「わーい!剣ちゃんも早く!」 「あー」 一護に連れられて行くと、既にそこには食事の用意がしてあった。 「さ、腹一杯食えよ。お前らの為に作らせた」 「わあ!すっごーい!ホントにいいの?」 「ああ、ほら、剣八も、毒は入ってねえからさ」 と促され、食べ始める。 何週間も絶食に近かった俺たちの身体を慮ってか、粥や汁ものが多かったが文句は無かった。 それほどまでに美味かった。今まで食った事の無い味だった。 何度もおかわりをする二人を見つめる一護の目は優しい。 「食事が済んだら、取りあえず今日は寝ることだ」 「変な奴だな、お前。俺に殺されるとは考えねえのか」 チャキ、と己の刀を握る剣八に、 「自分が死にそうなのに子供を抱きかかえて護ろうとしてる奴が言う事じゃねえよ」 良いから寝ろ、と笑われた。 「ちっ!」 「二人一緒の方が良いだろ?」 と宛がわれた部屋に行くと蒲団が敷いてあり、寝転ぶとすぐに睡魔に襲われ深い眠りに就いた二人だった。 第2話へつづく 10/04/07作 パラレルです。一護の正体はまだ考え中です。山じいよりは年上でっす! 剣八は若いです。やちると出会って間もない頃かな? |
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