題「空の涯て」1 | |
空を見る。切り取られ、小さく貼りつけられた様な空。 ここにある唯一、外を知る事の出来る小さな明かり取りの窓から日がな一日移り行く空の様子を見ている少女。 半地下の土蔵に閉じ込められ、どれだけの時間が経ったのだろう。以前は普通に母と一緒に暮らしていた筈なのに何がいけなかったというのだろう? 少女―天鎖は母と村の外れに暮らしていた。訪れる者も居ない。母は懸命に働いて天鎖を育てた。 天鎖もそんな母を助ける為に家の手伝いもし、お針子仕事を手伝った。 母との生活は貧しかったが幸せだった。物心ついた時から父は居らず、一度戯れにその事を尋ねた時も母は穏やかな顔で、 「貴女のお父さんも綺麗な眼をしていたわ。夜明け前の澄んだ空の様な色。貴女の眼もとても綺麗よ」 そう言って天鎖の髪を撫でてくれた。 天鎖は母譲りの髪も父譲りの目も好きだったが、この村の人間は黒髪に黒眼、もしくは茶色の目だった。その為か幼小の頃から村に用事がある時、母は天鎖の目に包帯を巻いて手を引いて出掛けた。周りには、 「目が見えない」 「小さい時に熱でこうなった」 と言っていた。 あの日、病気の母の薬も食料も底をつき、母の制止も振り切り村の医者の所まで駈けて行った。 医者は自分を見て驚いた様だったが母の名前を言うとすぐに薬を出してくれたのに・・・。 その後、家に その土蔵には生活する為の物が揃っていた。古い畳に粗末な煎餅布団。風呂も厠もあった。何か意味があるかのように・・・。ここは土蔵じゃない、座敷牢だ。怖くて怖くて何日も泣いて母を呼んだ。 何日経ったのか分からないが土蔵に 「お前の母が死んだ」 と。 あの日、抵抗する母を取り押さえる為に暴力を行使した。それで怪我をした母はそれが原因と愛娘を奪われた失意の中、病気で死んだのだと・・・。 「嘘だ・・・」 天鎖はそう呟くのが精一杯だった。そんな天鎖に村長は父と母の事を語り、詰った。 「あの女は村の掟を破り、流れ者の男と恋仲になりお前を宿し産み落としたのだ。全く・・・恥ずかしい女だ。お前にも淫らなあの女の血が流れているんだよ」 と言いながら村長は天鎖を凌辱した。 その日から天鎖の地獄は始まった。夜になると村の男衆が来ては天鎖を蹂躙していく。 どんなに抵抗しても泣いても暴れても無駄だった。 そして2年の歳月が過ぎ、天鎖は十四になった。 いつもの様に土蔵で空を見ていると窓の外に誰かが立った。 誰だ?見慣れない靴を履いている。村の人間は草履の筈・・・。 誰でも良い・・・!此処から出してほしい!この地獄から!その思いのまま天鎖は細い腕を伸ばした。 この日、村には行商の男が訪れていた。その男の名は斬月。年に数回この村で取れる染料を他の物と交換したり、この村には無い薬を売ったりしている。 久し振りに訪れた村で散策してると蔵の前で「だれだ・・・?」と小さな声が聞こえた。 不思議に思い周りを見回すが誰も居ない。 歩み去ろうとした時、外套の裾を弱い力で引かれた。足元を見ると小さな格子窓から白い小さな手が伸び、裾を掴んでいた。 「何者だ・・・?」 と膝を折り、小さな格子窓から中を覗き込むと蒼い目をした美しい少女が居た。 その目はまるで蒼天の色をそのまま写した様に美しく、宝石の様な瞳にしばし見惚れていた斬月。 「・・・お前は何者だ?」 と再度問いかけるとボロを身に纏った少女は、みるみるうちに顔を歪め今にも泣き出しそうになった。 「だして・・・ここから、だして・・・」 弱々しい声で懇願しながら更に腕を伸ばすその少女の手を掴んだ斬月。だがそこへ近づいてくる村人に気付き、 「後で来る・・・」 とギュッと力強く手を握り、その場を離れた。 深夜になり、蔵のある所へ行くと数人の男衆が前を歩いているのに気付いた。どうやら彼らも蔵の方へ行くようだ。 気付かれ無い様に彼らの後を付いていくと、村長の家の離れへと消えて行った。いつもの事なのか、家人は誰も出てこない。 鍵はあったが掛ける気もないのか、錆ついてボロボロだった。扉から中に入ると男の笑い声と少女の泣き声が聞こえてきた。 嫌な予感に突き動かされ、奥にある階段を下りて行くと案の定、そこには少女を凌辱する村人がいた。 座敷牢の中で少女が泣き叫び、抵抗しようがそれは続けられた。 地獄の様な時間が過ぎ、男衆が用を済ませ帰って行った。急いで斬月が牢の前に行くとそこには虚ろな目で天井を見ている少女が居た。 「・・・!娘、娘っ!」 と声を掛けるとゆっくりとした動作でこちらを向いた。 あ・・、と口が動き、声にならない声が聞こえた気がした。 座敷牢の錠前を針金で開けると少女を抱き起こした。 身動きの取れない天鎖の身体は男達によってドロドロに汚されていた。その身体を清めてやると携帯用の薬を与え、話を聞いた。 「いつからこの様な所に・・・?理由は?いやその前に名は・・・?」 天鎖は聞かれた事に、訥々と答えた。 「そんな理由でこんな年端も行かぬ娘を・・・!」 天鎖は声も無くただ涙を流していた。斬月はこの少女を助け出す決心をした。 第2話へ続く 13/06/24作 第195作目です。結構ネタだけは数年前からあったんですけど、取っ掛かりが書けなくてお蔵入りしてました。 ちょっと加筆修正しました。 |
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