題「空の涯て」2 | |
鬼子。 ヒトと違う毛色、目の色、身体の特徴を持つ子供を鬼子と呼び、徹底的に排除する。ムラ社会には良くある事例である。 自分達と異なる部分を持った子供を座敷牢に閉じ込め、迫害し、蹂躙する。少女の扱いはまさに鬼子のそれだ。 身体を拭かれ、眠る少女。そのあどけない寝顔を見ながら彼女を助け出す算段を巡らす斬月。 「ん・・・ううん・・・」 身を捩りながら天鎖が薄らと目を開けた。 「起きたか・・・?動けるか?今のうちになら村から出ていけるぞ」 パチパチ、と瞬きを繰り返し、言われた事を理解すると天鎖はゆるゆると首を横に振った。 「何故だ?此処から出たいのだろう?お前は私にそう願ったではないか。私もそのつもりだ。遠慮することなど・・・」 「ち、違う・・・!わ、私が居なくなったのを知れば、アイツ等は血眼になって捜す、から!きっと、お前が逃がしたとすぐに、バレる!そうなったら、お前にも!酷い事をする、から!」 それは嫌だ、と天鎖は泣きながら訴えた。 (自分の置かれている境遇を解っていながら、それでも尚他人である私の身を案じると言うのか!) 泣きじゃくる天鎖の涙に濡れた頬を撫で、抱きしめてやる。 「ならば・・・こちらも作戦を立てるまでだ・・・」 にやり、と見る者が見れば、恐怖を覚えたであろう黒い笑みを浮かべた斬月。 「?」 「時間が掛かるやも知れんが必ず此処からお前を助け出す。・・・私を信じて待ってくれるか?」 「・・・ん、うん!待ってる!待ってる!」 天鎖と固く約束を交わすと座敷牢から出ていく斬月。 (確か・・・この村では毎年冬になると疫病が流行ると言っていたな・・・) 自分の手持ちの薬や薬草を脳裏に思い浮かべていく。 「ああ・・・、あの薬が使えるな・・・」 己に宛がわれた宿の部屋に戻ると荷物の中の薬を確認し、明日に控えた交渉に使おうと考えた。 「あちらが人非人だと分かっているとこちらも非情になれると言う物だ・・・」 くつくつと人の悪い笑みを浮かべ、明日に備え眠った斬月。 翌日、村長の家で村人たちとの交渉が始まった。最初のうちは通年通りに村で採れる染料を塩や他の食糧と交換していく斬月。 (そろそろか・・・) 頃合いを見、そして幾つかの薬を出していくとそれに見合う様に純度の高い染料を持ちだしてきた。 (やはり、どこの村でも薬は貴重か・・・) 村人達はやれ、 「この薬で子供が助かる」 「この薬があれば腰の痛みに呻く老人が助かる」 などと喜んでいた。年端も行かぬ少女を監禁し凌辱の限り尽くしているその事実に蓋をして・・・。 「・・・さて、村長よ。聞くところによるとこの村では冬場になると疫病が流行るそうだが・・・?」 「へ?ええ、そうなんですよ!良くご存じで!いや〜本当に往生しておりましてねぇ」 と村長が零せば他の村人達も、 「あの病でもう何人も死んじまった!」 「弱い子供や老人が多くってよ・・・」 と如何にその病が恐ろしいかと口々に言う。 「でもどうしてそんな事を?」 「いや何・・・。旅先で偶然にもその病に良く効く薬が手に入ったのだが・・・」 斬月がそう言うやその場に居た村人全員がざわめき出した。 「ほ!本当か!斬月さん!そ、その薬はここに?!」 「ああ、この薬ではないか?」 と荷物の中から取り出し、見せる。 「そ、それだ!その薬だ!斬月さん!その薬を売ってくれ!い、いや!売って下さい!お代はいくら掛かっても!そちらの言い値で買おう!」 「言い値で、と言うがこの薬は本当に貴重で高価な物だが・・・」 「其処をなんとか!長年の 「だがな・・・底値でも百万は下らない物だぞ?」 「ひゃ、百万?」 「それにこれは品質も良い物だ。値もそれ相応に上がるが・・それでも?」 「か、構わん!村じゅうから金を集めれば!何とかなる!」 言うが早いか、其処に居た村人達は村中にこの事を言いに走っていた。 (さて・・・幾らまで釣り上げればこいつらの最終手段が出てくるものやら・・・) その様子を見ながら一人静かにほくそ笑む斬月。 数時間後、村じゅうから掻き集めた金を持ってきたが斬月が提示した金額には程遠かった。 「くそぉ・・・!薬が目の前にあるというのに!」 「肝心の金が足りねえなんて!」 悲壮感が溢れる村人達。そんな中、村長が何かを思い付いたと言う様に顔を輝かせた。 「斬月さん・・・。物は相談なんだが、その・・あんた、女は好きかね?」 と聞いて来た。 「女?」 (来たか・・・) 「あ、ああ!女だ。余り大きな声では言えんのだが若くて良い女が居るんだ。その女を一晩好きにしても良いから、その、薬をだな・・・」 獲物が漸く釣り針を飲み込んだ。 「そうだな・・・随分と女の肌を触っていない」 と嘯けば村長は下卑た笑いを浮かべて擦り寄って来た。 「で、では、交渉成立、と言う事で・・・」 「そうなるな。薬は女と交換だ」 「へっへっへ・・・。こっちも準備があるからまた夜に迎えを寄越すんで、宿で待っててくれ」 と言われ、その薬を持って宿へと戻る斬月。 第3話へ続く 13/08/30作 |
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