題「略奪と奪還」6
 夜になって京楽と一緒の布団で眠る白。
寝入り端は丸まって寝ているが時間が経ってくると体を伸ばし、京楽の腕を枕にして眠る。
濡れた鼻先とヒゲがくすぐったいが安心して眠る白の寝顔が可愛くて堪らない。

「ん・・・?」
夜中にふと目が覚めた京楽は自分の隣りのぬくもりが無い事に気付いた。
(白・・・?)
蒲団から頭を巡らし部屋の見廻すと隅の方で震えながら蹲っている白が居た。
「白」
出来るだけ優しい声で呼んだ。
「キッ!きゃうん・・・!」
その小さな体をビクン!と震わせ、悲鳴の様な声で鳴いた。
「どうしたの?怖い夢でも見たの?」
ぶるぶると震える白の背中を撫でてやる。
「くうぅん」
「おいで。僕が抱きしめて護るから・・・。安心してお眠り」
ちゅ、と鼻先に口付けると蒲団の中に潜り、ぽんぽんと背中を撫で寝かしつけてやった。

 翌日も3人で隊舎へと出掛ける。
隊首室に入ると机に向かって胡坐を掻く京楽の足に寄り掛かって寝る白。
夕月は女性隊士達が代わる代わる遊んでくれているのか、外から笑い声が聞こえている。
時折京楽が白を撫でるとお返しなのか、その指をぺろぺろと舐める白。
「くすぐったいよ」
と言いながらも好きにさせてやる。
「隊長、失礼します」
と七緒が声を掛ける。
「良いよ、入っておいで」
「はい。この書類についてなんですが・・・」
と仕事の話をしている間、白は尻尾で顔を隠して寝た振りをしている。
「うん、これはこのままで。今期の予算と合同演習はこの間決まった分で良いね」
「はい、では失礼します」
と一礼して出て行った。
「・・・・・白。痛いよ」
頭を撫でてくる京楽の指をガジガジと噛んでくる。
「ウウ〜・・・」
「痛いってば」
と苦笑しながら指を開いていくと一旦は離すがまた噛んでくる。
「どうしたの・・・」
顔を覗き込んで見ると、耳を倒して泣きそうな顔をしている。
「・・・ヤキモチ?だったら嬉しいけどね」
と耳の後ろを掻いてやる。
「ん、くうん・・・」
「ん?」
撫で撫でと頭を撫でてやるとさっき噛んだ所を癒す様にぺろぺろと舐める白。これが女性隊士が来る度に繰り返された。
「白、愛が痛いってば」
と笑っては撫で続けた。

 昼休みになると3人でお昼を食べ、夕月と白はお昼寝だ。
まだ寒いので火鉢の傍で丸くなる白とちゃんと蒲団に入る夕月。
「ふふ、かーわいいね〜」
二人の寝顔を眺めていると七緒が呼びに来た。
「失礼します。朽木隊長が御見えです」
「すぐ行くよ」
部屋から出ると縁側に白哉が恋次と立っていた。
「どうしたの?何か緊急事態かい?」
「いや、白の様子はどうかと思ってな・・・」
「ありがとう、ちょっとずつ落ち着いて来てるみたいだけど」
「そうか、それと紀野川家だが・・・」
「ああ・・・。白がちゃんと落ち着くまで僕は行けないと思うけど、好きにしていいよ。でも止め差しちゃ駄目だよ?」
ふふふ、と笑う京楽の底知れぬ怒りを垣間見た恋次がゴクリと喉を鳴らした。

「ふん・・・?」
部屋に居た白が目を覚ますと京楽の姿が無かった。
「きゅ・・きゅうん?」
カリカリと爪で障子を開けると白哉達と何か話している所だった。
「ん?やあ起きたの?朽木君と阿散井君がお見舞いってお菓子くれたよ〜」
「・・・くぅ」
「元気そうであるな。夕月はどうした?」
「一緒にお昼寝してたんだよ。まだ寝てるんじゃないかな?」
「んん、むにゅう・・・ママ?パパ?」
目を擦りながら毛布を引きずって夕月が起きて来た。
「くう」
寝起きで桃色になっている頬をぺろりと舐めてやると、その首に抱き付いてきた。
「ママ・・・」
「起きて来たね。ふふ、まだ眠いかな?」
「夕月、息災か?」
「ふぇ?あ、びゃっくんです。れんれんも・・・。こんにちはです」
テテテッと京楽の所に行くと白哉がその小さな体を抱き上げた。
「わあ!」
ぱたぱたと嬉しそうに尻尾を振る夕月にお菓子を一つ差し出した。
「白への見舞いと夕月へのお土産だ」
「わぁい!ありがとうです!」
「良かったね、夕月。おや?」
いつの間にか白が京楽の足元に来ていた。何も言わず、ジッと白哉と恋次を見ている。
「白・・・無事で何よりだ。またいつでも我が屋敷に遊びに来るといい。恋次」
「あ、はい」
「京楽隊長。これお見舞いのお菓子ッす。どうぞ」
「ああ、ありがとうね。重かったでしょ?」
「や!平気っすよ!またな白!今度新しい甘味屋出来るらしいぜ」
と普段通りに接する2人に感謝する京楽だった。

 二人が帰った後、部屋で貰ったお菓子を食べ、遊びに行く夕月。
今度は京楽の傍で丸くなって眠る白。
部屋の中では白の寝息と時折火鉢の炭が爆ぜる音と鉄瓶の湯が沸くしゅんしゅんと言う音だけしかない。
(静かだね・・・)
と思っていると、
「うう〜・・・」
と言う唸り声が聞こえた。
「白?」
白の顔を見てみると牙を剥き出して何かを威嚇しているようだった。
(まさか、ねぇ・・・)
「ぐうるぅぅう〜・・・・。ぎゃん!」
ビクンッ!と体を跳ねさせると部屋を見回し、夢だと気付くと何故か京楽から距離を取った。
落ち着きなくうろうろしてはチラチラと京楽を見ている。
「白、おいで」
「きゅうぅぅ・・・」
中々近付いて来ない白にもう一度、
「白、ここに来なさい」
と両手を広げて白を呼んだ。
おそるおそると言う風に近付くとその胸に収まった。
「怖い夢を見たんだね・・・」
「きゅう・・・」
「怖かったね・・・。白は何も悪くないよ、ここに居て良いんだからね?僕は君が居なくなったら生きていないよ」
慈愛の籠った目と声で何度も同じ事を囁く京楽。
白は心の奥がじんわりと温かくなって満たされていくのを感じていた。

 その日の午後は白のふわふわの毛皮を撫で続けた。
背中から顔、頭、耳の裏、喉の下を武骨な指が撫でていく。
「ん・・・くうん・・・」
うつ伏せの姿勢からだんだん仰向けへと変わっていく。
胸から腹を撫でるとうっすらと目を開け京楽を見ている。その目は信頼しきっていて、何もかもを曝け出し、身を任せている
「白、愛してるよ・・・」
「くうん・・・」
「とても、とっても愛してる」
「くう、くうぅ・・・」
低く、甘い声で何度も愛を囁く京楽に応える様に白も甘く鳴いた。
自分の体を支えている方の手をぺろぺろと舐めてはうっとりとしている白。
そんな中の様子に顔を真っ赤にしている七緒が居た。その気配を敏感に感じ取った白が京楽の膝から飛び起きた。
「ど、どうしたの?あ、なるほど・・・入っておいで、七緒ちゃん」
「は、はい!」
二人で何事か話していると、するりとその足に絡み付く白。
「分かった。じゃ僕らはもう帰るね」
「はい」

 3人で屋敷に帰ると京楽が、
「僕はこれから用があって出かけてくるけど、お留守番お願いね白」
「くう」
「良い子だね。お夕飯までには戻るよ」
といつも着ている女物の着物を白に被せた。
「僕が帰るまでこれを代わりにしててね」
白の顎を持ち上げるとチュッとキスをして出掛けて行った。


第7話へ続く



12/06/20作 白ちゃんを甘やかす京楽さん。白はこの日から悪夢を見なくなりました。




きつねのおうちへ戻る