題「略奪と奪還」4
 白を両腕に抱き家路に着く京楽。そっと現場に居る浮竹へと地獄蝶を飛ばした。
「おや?地獄蝶だ」
『僕が参加するまで殺しちゃ駄目だよ?』
「何するつもりだ・・・あいつ」
浮竹はその事を他の隊長に伝えると、
「直接の被害者は京楽の妻であり娘なのだから当然だろう」
との事でこの姉弟は牢獄へと繋がれた。

 京楽邸。
「ただいま!夕月!」
「おかえりです・・・パパ」
胸に何かを抱きかかえて笑顔の京楽を見て駈け寄る夕月。見えやすいようにと身を屈める京楽。
そこには身を丸めて眠る狐の姿になった白がいた。
「ママ!」
ピクッ!と大きな耳が揺れ目を開けた白。その目に飛び込んで来たのは・・・。
「ママ!ママぁ〜!うわぁああ〜ん!ママぁ〜!」
目から大粒の涙を流し、顔をくしゃくしゃにして泣いている愛娘の姿だった。
「くうぅ・・・」
ぺろりぺろりとその頬の涙を舐めてやる白。
「さ、もう泣きやんで夕月。今日は3人一緒に寝ようね」
「はいです!」
「じゃ、パパは着替えてくるからママと一緒に待っててね」
「はいですー!」
居間で白に抱きついて甘える夕月。その小さな体を守る様に尻尾で抱きこむ白。
「ママ、ママ・・・」
「くう・・・」
クンクンと鼻先で夕月の匂いを嗅ぐ白。
「おや仲良しだね。僕も仲間に入れて?」
「きゅぅ」
白を懐に入れ、夕月を胡坐に納めると何を話すでもなく久し振りの一家団欒を堪能した京楽だった。

 夜になり3人で風呂に入った。
白と夕月が泡だらけで遊んでいるうちにさっさと自分の分を済ませた。
「さ!湯船に入るよ〜」
「は〜い!」
溺れないように両手に白と夕月を抱えて湯船に浸かり温まる。
風呂から出ると先に夕月を着替えさせてから白の毛皮を乾かす。
「ん〜!綺麗になったね白」
綺麗に洗われフワフワになった白の毛皮に顔を埋め、くんくんと匂いを嗅ぐ京楽。
「夕月も!」
すーはーすーはーと匂いを嗅ぐ夕月。
「いいにおーい」
「クゥ」
お返しとばかりに夕月の髪の匂いを嗅ぐ白。
「きゃあ!くすぐったいです〜!」
「さあさ、湯冷めしないうちにお蒲団に入っておいで。パパはもう少しあったまっていくよ」
「はあ〜い!」
白と一緒に寝室へ向かう夕月。

 冷えた体が温まり部屋へと向かう京楽。
「お待たせ・・・ふふ、夕月寝ちゃったね」
「くぅ・・・」
「白、こっちおいで」
「?」
蒲団の横で胡坐を掻き座っている京楽に近付くとヒョイと抱き上げられ、抱きしめられた。
「きゅ・・・」
逞しい胸板は温かく、京楽の匂いがした。
「白・・・」
耳を擽る声は捉えられている間、求め続けた京楽春水その人のもので、白は今まで耐えていたものが堰を切って溢れてくるのを感じた。
「きゅ・・・、きゅうぅぅ、きゅうぅう」
ふっ、ふっ、と呼吸が浅く早くなりきゅうきゅうとか細く鳴き続けた。
「大丈夫、もう大丈夫だよ」
大丈夫だと繰り返しては優しく白の頭を撫でた。ぴすぴすと黒い鼻を鳴らして甘える白が寝てしまうまでずっとそうしていた。
白が寝てから起こさぬよう静かに蒲団に入り3人で眠った。

 翌朝、白が怖がるだろうと言うことでお手伝いさんには暫く休んでもらい自分で用意する京楽。
「おはよう、白」
「・・・くう」
目が覚めても人型に戻っていない事に白自身が驚いていた。
「きゅ、きゅうう?」
「ああ、きっとそれだけショックだったんだよ。気にしなさんな。ご飯出来てるよ〜」
「・・・」
京楽に抱きあげられ居間に行く。
食事が済んだ後、
「僕はこれから兄貴の所に報告に行くけど・・・どうする?白」
と聞かれ首を傾げる白。
「?」
「お外に出ても平気かい?」
ふるふると首を横に振ると、
「じゃ、夕月と一緒にお留守番お願いね?」
「くう・・・」

 出掛けようとする京楽の後を追う白のちゃっちゃっという爪の音が廊下に響く。
玄関まで付いてくると草履を履きながら、
「すぐに帰ってくるからね。良い子で待っててね」
と白の頭を撫でてやった。
 京楽が出て掛けてから白は寝室へと戻ると、敷かれたままの蒲団の上で丸くなった。
「・・・・・」
なんだか体の周りが寂しかった白はカリカリと爪で器用に箪笥を開けた。
「ママ?」
白が部屋から出て来ないので夕月が覗きに来た。
「ママおねむです」
そっと障子を閉めると居間で大人しく絵本を読むことにした。

 京楽本家では報告を受け、白が無事であった事を喜んでくれた。
白が狐の姿のままなので会いに来るのは控えてもらった京楽の言葉に、快諾してくれた兄夫婦に感謝する京楽だった。
「ただいま〜」
お土産にと白の大好きなお菓子を貰い帰ったが出迎えてくれたのは夕月だけだった。
「あれ?ママは?」
と聞くとシー、と声を小さくして、
「ママは今おねむですよ」
と耳打ちしてくるので京楽もにこりと笑って、
「分かったよ。教えてくれてありがとうね」
と撫でてやった。
「白」
寝室の障子を静かに開けると中に居たのは・・・。

 蒲団の上で何やらこんもりとした着物の山があった。
「白?」
近付いて見るとそれは子供達や自分の着物だった。その山をそっと崩していくと中で丸くなって眠る白が居た。
その姿に、
(あーもう!可愛い!可愛い!なんって可愛いんだい白ってば!)
と心の中で叫ぶと巣籠りしている白を起こさないように優しく抱いて添い寝していると、夕月もやって来たので一緒に昼寝となった。
「・・・きゅ?」
目を覚ました白が見たものは、自分と娘を抱きしめて眠る夫の寝顔だった。

 翌日もまだ狐の姿のままだった白の頭の中に、もしかするとずっとこのままの姿かもしれないと言う考えが過った。
このまま獣の姿のままだったら俺は・・・。ずっとこのままだったらどうしよう・・・?春水は今と同じ様に愛してくれるのかな?怖いよ・・・春水・・・。

いつか一護に言った言葉が蘇る。

『ちっ!いいか、てめえは狐なんだよ!人間になれるわけがねぇんだ。分かってんだろ?今は幸せかもしれねぇが、これだけは覚えとけ。俺達は狐で、それ以上も以下にもなれねぇんだよ!』

俺は、俺は・・・!此処に居ちゃ駄目なのかも知れない・・・。大好きな春水。この世界の誰よりも愛してるから居なくならなきゃ。

そんな考えに囚われてしまった白は家を飛び出してしまった。
「白ー?」
あまりにも静かなのでどうしたのかと思った京楽が部屋を覗きに来たがそこはもう蛻の空だった。
「白?どこ行ったんだい?・・・白!」
家中を探しても見つからなかったが庭に足跡が残っていた。
「白・・・?まさか・・・。嘘でしょう?」
白が自分の元を去っていった事に愕然としているとそこに一護が訪ねて来た。
「こんにちは、京楽さん。にぃには居ますか?」
「・・・あ・・・一護、くん。それ、が・・・」
と白が居なくなってしまった事を話した。
「にぃにが・・・?」
「どうして、どうして・・・!白、白!僕を、置いて居なくなるなんて!僕が嫌になったの?」
と嘆く京楽に、
「違うと思うよ」
と言う一護。
「にぃには京楽さんを愛してる。多分だけどにぃには今自分が悪いって思ってる」
「どうして!」
「・・・狐だから・・・人じゃないから」
「そんな事!僕はそんな事気にしてないのに!どうして・・・!」
「前にね、にぃにが俺を連れ戻そうとした時に言ったんだ。俺達は狐でそれ以上も以下にもなれないって。きっとそんな自分が此処に居たら京楽さんや子供達を不幸にしてしまうって考えたんじゃないかな・・・」
「白・・・そんな、じゃああの子の幸せはどうなるんだい・・・探さなきゃ・・・!」
京楽はすぐに護廷中を捜索したが白は見つからなかった。


第5話へ続く



12/06/15作 思いつめてしまった白。





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