題「略奪と奪還」3 | |
やや時間を溯り、白が連れ去られた頃、紀野川家。 「若・・・」 「なんだ?」 「例の密命、滞りなく・・・」 黒装束の下男の言葉を聞くと喜色を浮かべ、 「そうか!良くやった!で、彼女は?」 「は・・・、(彼女?)今は穿点により深い眠りに就いておられます」 「ふふ・・・、そうか。やっと僕の元に・・・ふふ!ふふふ、ふははははっ!」 声高らかに笑う其の目は狂気に満ちていた。 護廷では、隊首会が終わり各々隊に帰って行った。 十一番隊では剣八が一護を呼んだ。 「一護、話がある。こっち来い」 「なあに?・・・どうしたの?」 いつになく真剣な顔をしている剣八。一護の他に一角と弓親を呼びつけた。 「落ち着いて聞けよ、一護」 「う、うん・・・」 「白が誘拐された」 「え・・・?」 「攫われたのは今日だ。京楽はなんか知ってるみてぇだが、これは緘口令が敷かれてる」 「剣八!にぃに、にぃには!」 「落ち着けつったろ。向こうの言い分はまだ分からねえが白の身の安全を思うなら、一護。お前はいつもと同じ様にしてろ」 「そんな!にぃにが、にぃにが攫われたのに!」 「だからだ。あっちは京楽にしかバレてねえと思ってるだろうからな。もし護廷の他の死神にバレてると知った方が危ねえ」 「にぃに・・・!」 一護は何も出来ない無力な自分を責めた。 その頃、捕らわれた白が目を覚ました。 「う・・・あたまイテェ・・・、どこだここ・・・?」 真っ白な天井に真っ白な壁、今白が寝ている寝台も全てが白い。 ぼりぼりと頭を掻きながら頭が覚醒して行くのを待っていると、 「やあ、目が覚めたね。おはよう白」 と声を掛けられた。 「あ?」 不機嫌さながらに声のした方を見るとどこかで見た男が立っていた。 (こいつ、最近どっかで見たな。どこだっけか・・・。あぁ春水の隊舎だ) と男を思い出し、 「おい、ここどこだ?夕月は?」 と訊いた。 「ここは君と僕の愛の巣だよ。夕月ちゃんはおうちにいるよ」 「はあ?」 夕月は取りあえず無事なようだと安心するが言葉の前半の意味が分からない。 キミトボクノアイノス 何処の国の言葉だ?話の通じない馬鹿に用は無い。寝台を下りようとする白に声を掛ける。 「どこに行くんだい?白」 「うちに帰るんだよ。それと気安く俺の名前呼ぶなハゲ」 「ふふふ・・・酷いなぁ白ってば。僕はこんなに君を愛してるのに・・・」 寝台に近づき、白の髪を撫でるとその手を勢いよく叩き落とす白。 「気安く触んじゃねえよ・・・」 鼻面に横皺を刻んで男を睨む。 「ふふふ・・・。綺麗な顔に皺なんて作っちゃ駄目じゃないか」 叩き落とされた手を愛おしそうに口付けるとそんな事を言った。 「ああ?!」 「それに君はもうここから出られないよ。気が付かないかい?力が出難いだろう?」 「!」 そう言われれば体が重く感じる。 「この部屋の壁にはね、殺気石って言う特殊な石が使われてるんだよ。霊力を持つ者の力を抑えてしまうんだ」 にこにこと説明する。 「まあゆっくり考えると良いよ。ここには誰も来ない、僕以外はね。だってここは誰も知らないんだもの」 「なっ!」 「じゃあね。今はゆっくり休むと良いよ」 そう言い残し出ていった。 「訳、分かんねえ・・・」 今白が分かる事は、ここが家では無いという事と愛する家族が居ない事。そしてあの男の異常性だ。 「春水・・・、春水・・・早く、早く迎えに来い・・・!」 最愛の夫の名を呼び、恐怖に耐える白だった。 白が攫われて3日後。 一護が剣八と共に京楽の元を訪ねた。 「どうしたの・・・?」 「あ、あのね、俺、にぃにを探すお手伝いしたいんだ!」 「気持ちは嬉しいけどね、一護君。今は・・・」 「俺!俺とにぃには双子だから何か分かるかも知れない!だから・・・!」 「俺も止めたんだがよ。泣かれたらしゃーねえだろ」 「いや、ありがとう」 一護と剣八を隊首室に迎え入れると一護は目を閉じ、白の気配を探し始めた。 「ん、なんか変・・・。いつもより感じにくい・・・ぼんやりしてる・・あ!」 「どうした?」 「ん、剣八、手を握って・・・」 「ああ」 剣八の霊力を借りて微かな白の気配に集中する一護。 「にぃに・・・!すごく怯えてる・・・、ずっと京楽さんを呼んでる・・・怖い、怖い、春水に逢いたい、逢いたい、逢いたい!」 一護の体が倒れ込むのを抱きとめる剣八。全身から大量の汗が吹き出ていた。 「大丈夫かい!一護君!」 「一護!」 「あ・・・うん。あっちの方、にぃにが居る・・・」 と震える指で方角を指して言うと気を失った。 「あっち、か・・・」 「どうすんだ?」 「目星は付いてるから後はボロを出してくれるのを待ってたんだけどね」 白が怯えていると聞いてしまっては悠長にはしていられない。 「兄貴のトコに行きますか!」 京楽本家。 「兄貴、居るかい?」 「春水か。なんだ?」 「ん、ちょっとね。そっちはどう?」 「うむ、まあ上がれ」 奥の間に行くと義姉が待っていた。 「何か進展でもありましたか」 「うん、一護君がね白の居る方向を見つけてくれたよ」 「まあ!」 「あの子達は双子だから不思議な力があるみたいでね。でもいつもより感じにくいって言ってたね、ぼんやりしてるって」 「そうですか。もしかすると殺気石かも知れませんわね。誰かが大量に買い込んだそうですわ」 「それで白の霊圧が消えてるって訳か」 「ふむ。で其の方角は?」 「そうだね。僕の隊首室から見て北・・・、ここからだとあっちだね」 「ほう!偶然かもしれんが暫く前にそこの土地を買った貴族が居るな」 「それは・・・?」 「あの家だよ」 「じゃあ僕は取り合えず山じいに連絡入れますかね・・・」 「うむ。我々は表立って動けん。白君を、儂らの可愛い義妹を、無事に取り戻してくれ」 「お願いしますね」 「勿論さ」 京楽は一番隊へと瞬歩で消えた。 緊急に隊首会が開かれ、砕蜂や白哉が調べた情報に京楽家で独自に調べた情報を組み合わせるとやはり紀野川家が黒であるのは明白であった。 だが証拠は土地を買ったという一点のみであることから動きが取れなかった。 「こっちが動けないならあっちに動いてもらえばいいじゃない」 と言う京楽。 それから京楽は飲み歩く振りをし、憔悴しきった顔で出廷するようになった。 数日して紀野川家の長女が京楽に近づいて来た。 「春水様、どうなされたのです?」 甘ったるい粘つく声で媚を売る其の女。全身から匂うキツイ香水に吐き気がする。 「いや・・・ちょっと、ね・・・」 と意味深に誤魔化す京楽。 「こんなにお窶れになってお可哀そうな春水様」 「平気だよ・・・」 「こんなに弱ってる旦那さまを放って居なくなるなんて酷い奥方様ですわ。ね、今からでも私に・・・」 「今なんて言ったの・・・?」 「え?」 「どうして白が居ないのを君が知ってるんだい?緘口令が敷かれているのに」 「あ、その・・・」 「何か知ってるね・・・」 と今まで見たことのない恐ろしい目で射竦められ動けなくなった長女はすぐさま隠密機動へと引き渡され、拷問の末に今回のあらましを全て白状した。 白が捕らわれて一週間。白に危機が迫っていた。 出された食事に一切手を付けず暴れる白に殺気石で作られた手枷足枷がはめられた。 反撃出来ない白の着物の袷を開き、絹の様な純白の肌を弄る男。 「あぁ・・・なんて美しいんだろう・・・でも少し残念だな、男の体に戻っちゃってるんだ」 「触、んな!」 「ふふふ・・・僕の子を孕んだら女の体になるよねぇ・・・」 「な・・・ッ!」 「大丈夫さ・・・毎日愛し合おうね、僕の白・・・」 ツツツ・・・、と手を動かす。 「ひ・・・ッ!や!やだ!嫌だ!春水!春水・・・!」 堪らず愛する夫の名を叫んだ白の頬を男はぶった。 バシンッ!と音と共に顔が横を向き、遅れて頬に熱い様な痛みが襲った。 「あっ!・・・つ!」 「どうして違う男の名を呼ぶんだい?君の夫はもう僕だと言うのに・・・。もう君はここから一生出る事は出来ないんだよ?君には僕しか残ってないんだ。僕だけを見て、僕だけに縋るしか無いんだ。分かるだろう?」 「や・・・やだ、やだ、・・・いやだっ!」 「どうして分からないんだい?」 困ったように眉を寄せると名案を思い付いたとでもいう様に明るい表情で、 「ああ、そうか!初夜がまだだものね!まだお昼だけど、良いよね」 と言うと白の着物の帯を解き、ゆっくり脱がしていく。 「やっ!ヤダッ!いやだぁッ!」 着物を脱がされ、手を這わされ下肢に達しそうになった次の瞬間、白の体は狐に変わっていた。 「なっ!」 全身全霊で男を拒絶し身を護った白。 それに激昂した男が白の耳を掴みあげた。 「ギィ・・・ッ!」 「・・・この化け狐がッ!さっさと人型に戻れ!」 と白を罵倒した次の瞬間、轟音と共に壁に穴が開いた。 「な!なんだッ!何が・・・」 光を背に、そこに立っていたのは京楽だった。 「僕の白に、何・・してるのかな・・・?」 「なっ!きょ、京楽、隊長・・・!」 何故ここがバレたのか分からず動揺している一瞬のうちに目の前に移動した京楽の衝指により壁にぶち当たる男。 「が・・・っ!はあっ!」 パラパラと粉塵が舞い散る中、未だベッドの上で震えている白を抱き上げ、 「ああ・・・!漸く見つけた・・・僕の白!遅くなってゴメンよ・・・」 ブルブル震えている白の体を両手で包むとギュウ・・・!と抱き締め、すり・・・、と白の顔に頬ずりしては口付けの雨を降らせた京楽。 「く・・・ッ!この・・・!化け狐に取り憑かれた愚か者め!護廷の・・・、貴族の恥さらしめ!」 男が叫んだ言葉にビクン!と反応したのは白だった。震えが大きくなり、微かな声で、 「きゅうぅ・・・」 と一声鳴いた。 「花天狂骨、艶鬼『黒』」 京楽がそう言いながら斬魄刀を振るうと男の着物が切れ、血が拭き出した。 そこへ他の隊長達が駈けつけた。 「京楽!白君は?!」 「白は無事か!」 「浮竹、朽木君。うん、大丈夫だよ」 「そうか・・・」 「後はよろしくね。僕は白をおうちに連れて帰るよ」 「ああ、そうしろ。夕月ちゃんも待ってるだろう」 そうして漸く自分の家へと帰ることが出来た白だった。 第4話へ続く 12/06/12作 白ちゃん奪還!でもまだ試練は続きます。 |
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