題「略奪と奪還」2 | |
数日後、いつものように夕月と一緒に非番の白哉の所に行く白。 「夕月ー、早く来いよー」 と玄関から声を掛ける白。 「はいですー!」 お気に入りの白いコートとマフラーを巻いて姿見の前でくるくる回っている夕月。 「いつまで鏡の前に居るんだか・・・」 フ、と笑った次の瞬間、背後に何者かの気配を感じ振り向いた。 「なん・・・、う!」 布で口を押さえられ、数滴の液体を垂らされ暗転する白の意識。 「う、ぅ・・・」 ドサリと倒れた白の身体を男が担ぎ、用意していた輿に乗せてその場から消えた。 たたたた!と駈けて来た夕月。 「お待ちどうです、ママ!」 だが玄関に白の姿は無く、扉は開いていた。 「ママ?どこですか?」 外に出てきょろきょろと周りを見回すが誰も居ない。 「ママ?」 夕月は屋敷の周りをぐるりと回ってみたがやはり居ない。 「・・・ママ、先に行っちゃったですか?夕月置いてかれたです・・・」 とぼとぼと一人で白哉の屋敷へと向かう夕月。 一人で歩くうち心細くなり泣いてしまった。 「ひっく、えぇ〜ん、ママァ〜!ああ〜ん!」 大きな耳をぺたりと倒し、ふわふわの尻尾も力なく垂れている。 「ひっく、ひっく」 と泣きながらも朽木邸までやってきた夕月。 「ひっく!ごめんくださぁい!びゃっくん居るですかぁ?」 どんどんと小さな手で大きな門を叩くとすぐに開けられ、白哉が迎えに来てくれた。 泣いている夕月に気付くと、 「どうしたのだ?夕月。何を泣いている」 その場にしゃがんで頬に残った涙を拭ってやった。 「ひく!ママは?」 「うん?」 「ママはもう来てますか?夕月置いてかれたです」 くすん、と鼻を啜ると夕月はそう言った。 「白がそなたを置いて行くはず無かろう。説明出来るか?」 夕月を抱いて屋敷へと入ると清家に京楽に連絡する様に命じた。 温かいお茶とお菓子で夕月が落ち着いて来た頃、京楽が現れた。 「どしたの?急用だなんて・・・。おや夕月、ママは?」 「パパ!ママ居ないです。おうちから居ないです」 「どういう事だい?順を追って言えるかい?ゆっくりで良いからね?」 夕月を膝に乗せ、安心させるように背中を撫でてやる。 「んと、おうちでお着替えしてて、ママは玄関の所で待ってました」 「うん・・・」 「夕月は鏡の前に居て、ママが「早く来いよー」って言ったので夕月走って行ったら誰も居なかったです」 「ママが?」 「はいです。かくれんぼかなって夕月おうちの周り探したです。でも居なくて、ママ、待ちきれなくて先に行ったと思ったです」 「それで一人でここまで来たのだな」 と白哉。 「はいです。でも、ここにもママ居ないです。ひっく!ママどこですか?どうして居ないですか?夕月が遅かったから?悪い子だから?うわぁあ〜ん!ママ!ママぁ〜!」 京楽に縋って大泣きしている夕月を抱き締めながら、 「違うよ、夕月。夕月は悪い子じゃない。パパに任せておいで。すぐにママを、白を取り戻すから・・・!」 安心させると鬼道で夕月を眠らせた。 「京楽・・・。取り戻す、とは心当たりがあるのか?」 「すこぅしね・・・。確定はしてないけど怪しい人物がうちの隊に居てね・・・。警戒した所だったんだ・・・」 笠から覗く目は剣呑に光っている。 「これから、どうするのだ?」 「兄貴の所に行くよ。情報はたくさん居るからね」 「そうか。及ばずながら私も協力しよう。力は惜しまぬ故・・・」 「ありがとう朽木君。・・・愛されてるね、白は・・・」 連れ去られた白。 白い壁に囲まれた部屋の白い寝台に横たえられ眠っている白。その美しい顔をゆっくりと撫でる何者かの手。 「ふふふ・・・。漸く僕の手に入ったね白。君は僕の傍に居るべきなのだから、これで正常なんだよ?」 連れ去られる時に使われた穿点により深い眠りから覚める様子はまだなかった。 「これからずっとず〜っと僕と一緒だよ?ふふふ、ふふふふ・・・」 男は不気味に笑いながら部屋を出た。 京楽が兄の元へ行くと、 「春水ではないか!どうしたのだ?」 驚いた様子で迎えてくれた。 「うん、ちょっと大変なんだ。上がってもいい?」 「ああ。夕月ちゃんはどうする」 「出来れば誰かに見て貰いたい。あんまり聞かれたい話じゃないんだ・・・」 「・・・分かった。誰か!」 「はい」 「この子を寝かせてやってくれ。傍に居てやってくれ」 「畏まりました」 恭しく夕月を預かると下がる侍女。 奥の間に通されると兄嫁が待っていた。 「義姉さん・・・」 「・・・白さんに何かあったのですね?」 「・・・やっぱり分かっちゃうんだねぇ」 「どういう事だ、春水」 「実は・・・」 と昼間にあった出来事を話す京楽。 「何と云う事だ・・・!」 「許し難いことですわね・・・。許すつもりもありませんけど」 「それでね、我が儘だと思うんだけど・・・」 「分かってますわ。情報が要るのでしょう?私の得意分野でお役に立てるのなら・・・」 「有難う、義姉さん」 と頭を下げる京楽。 「おやめ下さいな。白さんは私の大事な妹ですのよ?何を他人行儀な・・・」 「その通りだ春水。家族を助けるのは当たり前だ」 「兄貴・・・、うん、でも、ありがとう・・・」 「それで、何か分かっている事は?」 と今の時点で分かっている事と、白を怪しい目で見ていた部下の話をした。 「・・・またあの家か」 苦虫を噛んだ様な顔になる兄。 「ですが、的が絞れますわね。予断は禁物ですけれど」 「お前はこれからどうするのだ?」 「ん、隊首会で報告して、緘口令を敷いてもらうよ。その間夕月を預かってくれると嬉しいんだけど」 「分かった」 京楽は夕月が寝ている部屋に行くと、夕月を起こした。 「ん、パパ・・・?」 「起きたかい?あのね、今からパパは会議に行くんだ。ママを助ける為にね」 「・・・はいです」 「夕月ちゃん」 「あ、伯母ちゃんです!」 「こんにちは。お久し振りね、パパが帰ってくるまで伯母ちゃんと遊んでくれるかしら?」 「・・・。はいです!夕月、ここで待つです!」 にっこりと笑って頷いた。 「良い子ね、夕月ちゃんは」 「夕月、パパはなるべく早く帰るからね!」 「はいです!パパ頑張ってです!」 そして京楽は護廷へと急いで向かった。 白が何者かに連れ去られた事はその日のうちに行われた緊急隊首会にて各隊長、副隊長に知らされた。 白の身の安全の為、緘口令が敷かれ知っているのはこの場に居た者と極一部の者だけだ。 「隊長・・・。やはり『彼』が、ですか?」 「多分ね・・・。でもまだ分からないから・・・。今日は来てるの?」 「いえ・・・。家の事情と云う事で・・・」 「来て無いんだね」 「はい・・・」 「さて、どうしたものかな」 といつものように軽い口調だったが、その目に宿った暗い光を見た七緒はゾッとした。 (ああ・・・、犯人は死んだ方がマシだと思わされる) と直感した。 「京楽よ」 「ん?何だい、狛村君」 「うむ、今から貴公の屋敷に出向いても良いだろうか?」 「僕の家に?」 「うむ、何か、匂いでも残っておるのではないかと思うてな。どうだろうか?」 「そりゃ、僕にとっては願ってもない事だけど・・・」 「そうか」 「では我々も同行しよう」 と後ろから砕蜂。 「・・・有難う・・・」 京楽邸に着くと玄関で何者かの匂いを感じ取った狛村。 「・・・男が一人と、なにか薬品の匂い・・・穿点・・か。後、もう一人と香の匂い・・・」 「香?」 「ふむ。何か乗り物にでも乗せられたか」 「香、乗り物・・・。貴族か?なら輿か・・・。目撃者でも居れば良いのだが・・・」 狛村と砕蜂の会話に驚く京楽。 (察しが良いね。さすが・・・) 「京楽!貴様何か知らんのか!」 「んー、確定はしてないんだけどね、怪しいのが一人居るんだ」 「な!早く言わんか!たわけ!」 「だから、確証も確定もしてないんだ」 「家の名前は?」 「紀野川家。ここの姉と白がちょっとあってね。そこの弟が白に興味持ってるみたいで警戒した所だったんだ」 「それだけ分かれば十分だ。捜査を始める」 と瞬歩で消えた砕蜂。 「京楽、貴公は一人で解決する気だったのか?」 「まさか・・・。でも潰すのは・・・僕の役目さ・・・」 「・・・・・」 そして夕月を迎えに行った。 第3話へ続く 12/05/29作 白は一護と共に皆のアイドル。京楽さんは腸が煮えくり返ってます。 今回一護はどうしようかな。一番隠しごとが出来そうに無いんだけど・・・。 |
|
狐のおうちへ戻る |