題「略奪と奪還」1 | |
白が夕月を連れて八番隊隊舎を訪れた。 「これはこれは、隊長の奥方様。今日はどうされたのですか?」 「あ?」 見知らぬ男に声を掛けられ警戒するも、 「ああ、失礼しました。私は八番隊の一隊士です。隊長は隊首室にいらっしゃいますよ」 と柔らかな物腰で話しかけられ、 「ふうん」 とその男の顔を見た。一緒に居た夕月は笑顔の男を何故か怖く感じて白の着物をきゅう、と掴んだ。それに気付いた白が、 「ああ、早く行くか。じゃーな」 とすぐに隊首室へと向かった。その後ろ姿をじっと見つめたままの男には気付かずに・・・。 「春水!」 スパーン!と勢い良く隊首室の扉を開ける白。 「あらま、どうしたの?白、夕月」 「今日は新しい絵本買いに行くんだろ!迎えに来たぞ!」 白はひらがなぐらいなら読めるので夕月と一緒に絵本を読むのが日課になりつつある。 「ああ、約束してたねぇ。でもまだお昼休みじゃないから待っててくれるかい?3人でお昼ご飯を食べてから買いに行こうよ」 「おう!夕月何食いたい?・・・夕月?」 何やら元気が無い夕月を抱き上げる白。 「どうした?」 「なんでもないです・・・ママ、パパ・・・」 夕月は先程の男の雰囲気を本能で感じ取り怯えていた。 「そうか?」 きゅ、と白に抱きついた夕月と一緒に応接セットのソファに座っていると七緒が絵本を貸してくれた。 「サンキュな」 「いいえ、後少しですからね」 「ん・・・」 夕月を膝の上に乗せ、一緒に絵本を見ながら読んでいく。 絵本を読み終わると昼休みになったので食堂に3人で行った。 「何食おうかな〜?」 「何でも好きなのお食べ。夕月は?どれにする?」 「えっと、えっと!あ!あれがいいです!旗が付いてるです!プリンも!」 と指差したのはお子様ランチだった。 「おや可愛いね。白は?」 「む〜、俺も旗付いてるのが良いな。おっきいのは旗付いてねえの?」 「あ〜、残念ながら無いかもね」 「ちぇ〜。じゃあ俺オムライスな!」 「じゃあ僕も一緒の食べようっと!」 と注文しにいった京楽はこっそりと白の分にも旗を付けてくれる様に頼んだ。快く頷いてくれたのに胸を撫で下ろすと白と夕月が待っている席の方を見た。 「ん?」 何か嫌な感じがする。なんだろう?白も夕月も何かを感じているのか警戒をしている。ふと、ある隊士に気付いた。 ジッと白を見つめているその男は、いつか自分が庇った部下だった。 (嫌〜な感じがするね・・・) 注文の品が出来たので2人の元へと行く。 「お待たせ〜!はい!夕月のお子様ランチ!」 「わぁ〜!」 ミニサイズのオムライスに海老フライにから揚げ、サラダ、プリンが乗った可愛いプレートに歓声を上げる夕月。 「はい!白の分のオムライス!」 「おう。あ!旗!」 「んふふ〜、特別だって。良かったねぇ」 「うん!」 にこ!と笑い夕月と一緒になってきゃっきゃっと喜んでいる。その場に居た皆はそんな家族に癒されていた。 ただ一人を除いて・・・。 昼食が済んで3人で絵本を買いに行く。 「どんなのがいいかな?」 「可愛いのが良いです!」 「面白いのが良い」 「まあ色々見てみようよ」 本屋に着くと絵本のコーナーに向かう。 「白、これは?」 「ん?え、と『ぐりとぐら』?」 ぺらぺらとページを捲っていく白。 「コレ良いな!面白え!」 「良かった!」 数冊の絵本を買うと白を屋敷まで送ると隊舎に帰った京楽。 「ただいま、七緒ちゃん。変わった事あったかい?」 「いいえ、特にありませんが?何か気になる事でも?」 「すこ〜し、ね・・・」 と遠くの方を見て言った。 「失礼します」 「はい、なんです?」 「書類をお持ちしました」 と入って来たのは先程、白をジッと見ていた貴族の部下だった。 「はい、分かりました」 と書類を受け取る七緒。 「あれ?奥方様はお帰りになったんですか?」 と聞いて来た。 「うん?ああ、買い物に行くだけだったからね。それがどうかしたかい・・・?」 「いいえ。失礼しました」 と頭を下げながらその口は弧を描いていた。 その部下が退出した後、京楽は七緒に、 「彼の事、少し警戒してくれるかな・・・」 と言った。 「何かありましたか」 「少し、気になってね」 いつになく真剣な表情の上司に頷くしかなかった七緒だった。 姉から聞いていたその存在。姉は邪魔だと、化け狐風情がと罵倒しているその存在を初めて見た時、僕は総身に雷が走ったかのような衝撃を覚えた。 だが彼女には既に夫が居た。それは我が隊の隊長、京楽春水だ。 彼が俺を庇って瀕死の重傷を負った時、彼女の恐慌ぶりは凄まじかった。 恥も外聞も無く、愛する夫に縋りついて泣き叫んでいた。それを見た時、ゾクゾクとした物が背を駈け上がった。 その縋りつく相手が何故自分では無いのか。その位置は僕であるべきだ。 十番隊の松本副隊長が主催したメイド喫茶でメイドの格好をした彼の人を見た瞬間に恋に落ちていた事に気付いた。 そして、彼女を我が物にしたいという思いは強くなった。 自分しか見なくなる様に、縋りつくのは僕だけになる様に、ドロドロに甘やかしてぐずぐずに溶かしてしまいたい・・・! どんな手段を用いようと必ずこの手に入れてみせると誓ったのだ。 そして準備は整った。後は彼女だけだ・・・。 歪んだ笑みを湛えながら男は屋敷へと帰って行った。 第2話へ続く 12/04/22作 185作目です。とんでも野郎に目を付けられた白ちゃん。 ちまちま書いてたものが漸く上がったのでアップです。 続きどうしようかな〜。 |
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