題「人魚の嫁入り」9
 一護が剣八の元へ泳いで上った川に落ちた鱗が、時間を掛けて下流まで流れていき、何枚かは海へと流れついた。
偶然散歩中の白の前に河口から落ちて来た。
「ん?オレンジ色、か・・・」
一護みてぇ・・・。とぼんやり考え、キラキラ光るそれを捕えた。
それを日に翳してまじまじ見ていると、形や大きさ、そして色。その全てが一護の物と酷似している。
「それに何より、こんなでけぇ鱗が川から・・・?一護、まさか・・・」
白はそれを持って塒へ帰り天鎖を呼んだ。
「天鎖!何処だ!天鎖!」
「どうした、騒々しい・・・」
白が大きな声を出すのは一護が輿入れしたあの日以来だ。
あの日から白は天鎖以外の誰とも話をしていない。徹底的に他を拒絶していた。
白は天鎖を連れて部屋へ籠ると、
「これを見ろ・・・!」
「これは?」
「コイツは一護の鱗だ。そうに違いねぇ!これは川から流れて来た。きっとアイツは・・・」
「白。一護は北の海だ・・・」
「じゃあ!なんで・・・、こんなオレンジ色でこの大きさ・・・!絶対一護だ!」
「白・・・」
一護の物だとして、それが今の一護の物かどうか分からないだろうに・・・。
「・・・もう良い!お前も喜ぶと思ったから教えてやったのに」
「白・・・」
慰める間もなく部屋を追い出された天鎖。そしてその夜。白はこの海から消えた。

「天鎖!白が!白がどこにも居ない!」
常にない慌てた様子のハリベルが天鎖の元へ来た。
「何?」
「塒のどこにも居ないのだ・・・!この海域にも!あぁ、何処に行ったのだ・・・、一護に続き白までが・・・!」
「あの馬鹿者が・・・」
恐らくは川を上って一護の後を追ったのだろう。本当に其処に居るかも、分からないと言うのに・・・。
「落ち付け。この海の統領たるお前がそのザマでどうするんだ。数日待てば帰ってくるかもしれん」
だが天鎖には分かっていた。一護が見つかろうと見つかるまいと白はもうこの海には戻って来ないだろうと・・・。
大事な半身である一護を売ってしまった(と言える)彼らを決して白は許さない。
数日後、戻らない白を探しに天鎖も川を上った。

その頃の瀞霊廷。
毎日毎日、一護の包帯を換えてやる剣八。
縁側で包帯を換えていると、
「剣八」
と呼ばれ、顔を上げると一護が口付けて来た。
「ん・・・」
触れるだけのそれが終わると、
「一護、卯ノ花んトコ行くぞ」
「うん。分かった」
剣八に抱っこされて四番隊へ行く一護。
診察室に入り、一護を卯ノ花隊長の前の椅子に座らせ、診察が始まる前に剣八が一護の包帯を外してやる。
ジッと剣八を見ていた一護が、剣八の頬に手を当てると顔をあげる剣八。
「どうかしたか」
「ううん、ありがと」
身体を屈め、剣八に口付ける一護。
見ているこっちが照れてしまう。
「んんっ!もうよろしいかしら?」
と言われ、診察が始められた。
一護の怪我は両足の親指が一番酷く、左の爪はひびが入っていたが、右の爪は割れて根元から剥がれていた。
「まだ熱が引きませんね」
「おい、卯ノ花。もう鬼道でパパッと治してやれよ」
ずっと剣八の着物を袖を握っている一護を見て、
「しょうがないですね」
溜息と共に一護の足の怪我を完治させてやった。
「痛くない!すごい!どうやったの?」
一護は尊敬の目で卯ノ花を見ている。
「秘密です。さ、これで歩けますよ」
悪戯な笑みで冗談めかして言う卯ノ花隊長。
「治ったの?もう剣八と愛し合っても良いの?繋がっても良い?」
「ええ。もう大丈夫ですわ。よく我慢しましたね」
「うん!ありがとう!」
勢いよく椅子から立ち上がり、一歩踏み出した一護は、
「痛っ!」
と叫んで剣八の方へ倒れかかった。
「大丈夫か?一護」
「うん。剣八は?」
「何ともねぇ。まだ痛いのか」
「ん、でも怪我のせいじゃないから、歩いた事無いからさ」
「ああ・・・。そうだったな」
納得すると一護を抱き上げて隊舎へと帰って行った。残された卯ノ花が、
「歩いた事が無いとは・・・?」
と疑問に思っていた。

隊舎に着くと自室前の縁側に行き、胡坐の中に一護を納め話を聞く。
「お前の足、どうなんだ?歩ける様にはなんのか」
「ん、大丈夫。ちゃんと練習してだけど、ちょっとずつ歩けるようになるよ。一緒に歩こうな、剣八」
にっこり笑って見上げる一護。
「ああ、待ってやるよ」
剣八を見上げる一護の顎を捉えるとちゅっと口付けた。
「風呂に入るか」
「お風呂ってなに?」
「体洗って、湯に浸かるんだよ」
「おゆ・・・」
と呟いている一護を抱き上げ、風呂へ連れて行く。

風呂場に着くと剣八は、一護の着物を脱がし、先に浴場の中にある椅子に座らせ、自分も着物を脱いで入って来た。
「ムワムワしてるね」
「湯を沸かしてっからな。湯、掛けるぞ」
「あ、うん」
いつもの湯よりはぬるめのそれを足先に掛けてやる。
「大丈夫か?」
「ん、平気」
身体を流し、先に髪を洗ってやる。
わしゃわしゃと泡立つ自分の髪にはしゃぐ一護。
「目に入ると痛ぇぞ」
「んー!」
泡を綺麗に流してやると次は身体を洗ってやった。
「ん・・・、気持ちいい」
はふ・・・、と溜め息を吐く一護。全身隈なく洗ってやり、流してやった。
「冷えるだろ、先に湯に浸かっとけ」
「うん」
と湯船に入る一護。
「ん、熱いけど気持ちいいね」
と風呂が気に入った様子だ。くてーんと顔を出して目を閉じている。
ウトウトしているとお湯が溢れた。
「う、うわ・・・!」
驚いて目を開けると剣八が湯船に入っていた。
「ふう・・・。風呂が気に入ったみてぇだな」
「うん、これ気持ちいいね」
うっとりと目を細め、尾ひれを揺らす一護。
「やっぱ水に浸かると元に戻んだな」
と鱗を撫でる。
「ひぁ・・・ん、ん、でも乾いたらちゃんと足になるよ」
「ふぅん・・・。もう出るぞ」
一護を抱き上げ、脱衣所に出ると髪や身体を拭いてやり着替えさせる。完全に乾くと鰭は足に変化した。
「ありがと、剣八」
「おう」
一護の着替えを終えてから自分も着替える。
着替え終わると一護を抱いて部屋へと帰る。
外はもう夕方だ。
細い三日月が薄らと輝いていた。


第10話へ続く



11/09/29作
エロは次に持ち越しです。白と天鎖がちょろっと出ましたね。
11/10/01修正。


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