題「人魚の嫁入り」5
 夜明け前に塒に戻った一護。
まだ剣八が中に居るかの様だ。
「ああ・・・、どうしよう・・・こんなに好きなのに・・・俺は違う男のモノになるんだ・・・」
嫌なことなど今は忘れよう。愛しい男に抱かれた余韻に身を任せ、眠りに落ちた一護。

朝になれば白と天鎖がやって来た。
「一護、気分はどうだ・・・?」
「良い訳ねえだろ。一護、飯食え」
「うん・・・」
はふぅ・・・と溜息を吐く一護。
「?」
「?」
ふわふわと食卓に着くと上の空で食事をし、話しかけられても生返事だ。
そんな様子の一護を見てほとんどの者が、
「やっぱり婚姻のせいだ」
と思っていたが実際は剣八との情事の余韻がまだ尾を引いていた。

(剣八・・・、今夜も逢えるかな?逢いたい、逢いたい・・・!今すぐにでも!)
「おい、一護。・・・ん?」
白が一護の耳の後ろの赤い跡に気付いた。
「おい、一護。なんだこれ?」
と指で触る。
「ひゃっ!びっくりした。何だよ白」
「お前の耳になんか赤い跡があるぞ」
「耳?」
すりすりと言われた場所を触る。
「なんだろ?ぶつけたっけ?」
「危ねえな、気を付けろよ。頭の近くじゃねえか」
「うん。サンキュ」
食事が済み、部屋へ戻り思い出した。
「あ!」
其処は昨日剣八に愛撫された所だ。
唇で食まれ、舌で舐められ、吸い付かれた。
思い出して顔に熱が集まった。

一護は昼間や夕方は仲間や白達と居たが夜になると一人にしてくれと部屋に籠り、扉に鍵まで掛けた。
皆は仕方が無いとそっとしておいた。
そして一護は誰にも見つからないように抜けだし、剣八の元へと通った。
「剣八」
「おう」
逢うなり濃厚な口付けを交わし、抱き合う二人。残された時間はあと僅かだ。
「一護、俺も後数日もしたら護廷に帰る。あと二日しかねえ、手加減出来ねえかも知れねえ」
「良いよ、しなくていいよ。いっぱい、いっぱい剣八を俺に刻んで、もっとひとつになりたい。繋がりたいよ・・・!」
「一護・・・!」
この日も深く愛し合った二人。

「ね・・・、剣八」
「うん?」
愛し合った後の睦言。剣八は一護の髪を梳きながら一緒に横になっている。
「剣八はどっちから来たの?」
「お前から見りゃぁ、川上(かわかみ)か?ほれ、其処に川があんだろ」
「ん?うん」
「それを上って瀞霊廷ってとこに俺の棲家があんだよ」
「ふうん・・・」
「なんだ」
「ううん、行けたら良いなぁって・・・思って」
「そうだな・・・、来れたら来いよ。歓迎すんぜ・・・」
「うん・・・!」
その言葉を聞いた一護は剣八の胸で泣いた。

行けたら良い・・・。きっと行けないけれど、想いを馳せる事は出来るから・・・。

そして最後の夜。
もう逢えなくなるのだと思うとお互いを貪欲に求める二人。
一護の全身を愛撫していく。
「んッ!ああっ!」
一護の中心を口に含み、裏筋や袋に跡を残していく。普通にしていれば決して見えない所。
「あうん!や、や、なに?あん!」
じゅうぅっ!と吸い上げ、イかせる。
「んあ!」
くたりとしている一護の身体を反転させ、尻肉に口付ける。
「ん・・・」
ちゅ、ちゅ、と繰り返し、蕾に到達する。其処にも赤い跡を付ける。
「あ!きょ、今日、は!どうしたの?」
チリチリとした慣れない感覚に戸惑う一護。
「気にすんな・・・」
明日には自分の元を離れ違う男の物になってしまう、この愛しい人魚に自分の所有印を刻んでいく。
そんな事ではそんな事では満足できそうにない自分の嫉妬の炎に気付いてしまう。

本当は噛み付きたい。噛みついて消えない歯形を刻みこんでやりたい。

ガキか、俺は・・・。

「入れるぞ、一護」
「あ・・・うん、来て・・・あっ!ああぁあん!」
後ろから剣八の熱杭を穿たれ喘ぐ一護。
その項の髪で隠れる場所にもキツく吸い付き跡を残す剣八。何度も同じ所に跡を付ける。
「は、あぁ、一護、一護!」
「ん、く、剣八、んんあ!もっと、もっと来て!」
きゅう、きゅう、と締め付ける一護の中に精を注ぎ込んでいく。
「くう!」
「んあ!あ、あつい!とけちゃう・・・!」
ひくっ!ひくっ!と震える一護の腕を掴み、身体を引き上げる。
「うッ!ンあっ!」
剣八は背面座位で一護を胡坐の中に納めた。
「あ!ああ!ふ、深ぁい!ん、んん!」
白い首を仰け反らせ、後頭部を剣八の肩口に押し付ける一護。
「は・・・!堪んねえな、一護・・・!」
一護の鱗に覆われた脚の膝裏に腕を差し入れ、体を持ち上げた。
「あ、あ、あ、あああん!」
持ち上げられ一気に貫かれ、白濁を吐き出す一護。
「気持ち良さそうだな、一護」
ちゅくちゅくと耳朶を食みながら囁いた。
「うん!うん!善い!気持ち!善い!あ!あ!剣!八!ん!ん!」
剣八の楔で抜き差しされる度に一護の前は白濁をトロトロと零している。
「ん、ん、ああ!も!もうイク!イッちゃう!」
「イけ!俺もイく!」
「ふあっ!あっあっあっ!あーーッ!」
「くっ!」
どぷっ!と中から溢れるほどに注ぎ込む剣八。一滴も残さず一護の中に注ごうとその身体を軋むほど抱きしめ、緩く抜き差しを繰り返した。
「あ・・・はあぁ・・・、はぁはぁ、剣八ぃ・・・」
全身がひくっひくっと痙攣している。
「まだだ・・・!」
「ふぇ・・・?」
「まだ終わらねえ・・・」
剣八は繋がったまま身体を反転させ、上から覆いかぶさった。
グリッと中を抉られ声をあげる一護。
「あうんッ!」
「一護・・・」
名前を呼ばれ、目を開けると剣八の顔が近づいて来た。
「ん・・・」
ちゅ、と口付けが降って来た。
「明日お前はどんな格好してんだろうなぁ・・・。やっぱ白無垢か?」
「剣八・・・」
「見てえなぁ・・・」

お前のその姿はさぞや美しいだろう―。

「剣八、剣八ぃ・・・、お前の為に、お前の為に着たいよぉ・・・!やだよぉ、行きたくないよぉ・・・!」
「一護・・・!」
「でも、俺が行かなきゃ、この海が、皆が殺される。行かなきゃ、行きたくない、行かなきゃ・・・!」
「くそ・・・っ!殺してやりてぇ・・・っ!」
お前を泣かせた、苦しめた、これからずっと苦しめる、その藍染と言う男を斬って捨ててやりたい。

そ・・・、と顔に冷たい手が触れた。
「剣八。俺は大丈夫だから、そんな顔しないでくれ。苦しまないでくれよ」
「馬鹿野郎・・・」
その手に指を絡め、握り込む。
「一護、愛してる・・・」
「あ・・・!」
ピク!と反応を返す身体。
「愛してる」
と繰り返しながら、顔に、胸に口付けを繰り返す。
「あ、あ、は、はぁ、ん、ん、きて・・・」
「ああ・・・!」
最後はお互いの顔を見ながら愛し合う二人が居た。

空が白み、別れの時が来た。
「剣八・・・、もう時間だね・・・」
「ああ、そうだな・・・」
見つめ合い、口付けを交わす二人。

触れるだけの口付け。お互いの唇から相手に体温を与える様に長い時間そのままだった。
「ん・・・」
「ふ・・・」
次第に深くなっていく口付け。唇を食み、舌を絡め、擦り合わせ、唾液を絡ませていく。
お互いの境界が曖昧になるほど続いた口付けだった。
ちゅ、と離れると銀色の透明な糸が二人を繋いでいた。
「剣八・・・さよならだね」
身体を離す一護の身体を抱き寄せる剣八。みしみしと音を立てる背骨。
「っは!苦し、よ!けんぱち・・・」
「一護、これで終いだ・・・」
と掠めるだけの口付けを贈った。
「さよなら、剣八」
「ああ・・・」
朝日が昇る海に帰っていった一護。
朝焼けの海は一護の髪と同じ色で、眩しいぐらいに輝いていた。
「・・・ち・・・!目に染みた・・・」
一人ごちながら、目元を擦り宿へと帰る剣八が居た。

そして、一護の婚姻が始まろうとしていた。


第6話へ続く



11/09/17作 お互いの愛を確かめ合い、深く愛し合う剣八と一護。
次回は一護の花嫁姿などを書きたいと思います。




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