題「人魚の嫁入り」3 | |
剣八から鈴を貰った翌日、一護は尾ひれに鈴を付けてはチリン、チリンと鳴らして喜んでいた。 髪に付ける鈴は大切に螺鈿細工の小箱に仕舞い込んで宝物のように扱っている。 「一護、それはどうしたんだ?」 と鈴を指してハリベルが問うた。 「これ?えへへ、綺麗でしょ?昨日浜辺で見つけたんだ」 「浜辺?あまり人間の居る所には近づくな。危険だからな」 「うん!分かってる!ありがと、ハリベル!」 上機嫌な一護はいつもより遠出の散歩をした。 気持ち良さそうに泳ぐ一護に声を掛ける一団が居た。 「君、もしかして一護君かい?」 声のした方を見ると見知らぬ男がこちらを見ていた。 「・・・誰だ・・・?」 「ああ、やっぱり一護君だ。元気そうで安心したよ。いつ見ても君は美しいね。こんな所まで僕の事を迎えに来てくれたのかい?」 とこっちの話をまるで聞かない男に嫌気がさし、身を翻し逃げようとしたが何かにぶつかった。 「わっぷ!なんだ?」 「ひょろっこい人魚だな、おい?」 水浅黄色の髪をした男が一護の腕を掴んだ。 「離せよ!何だよ!お前ら!」 「へえ・・・、活きが良いな。それに良いケツしてんじゃねえか」 とじろじろ見てくる。 「グリムジョー?何を見ているのかな?」 「・・・すんません(っち!)」 すぐ傍まで来ていた胡散臭い笑みの男。 「やぁ、すまないね。おや?何を付けているのかな?鈴?」 と尾ひれに付けた鈴を見つけた男。 「こんな粗末な物を身につけなくても、私が贈った物があっただろう?さあ、こんな物は捨てなさい」 と一護の尾ひれから鈴を取ると粉々にしてしまった。 「あーーっ!!俺の鈴・・・!なにすんだよ!この野郎!返せよ!俺の宝物なのに!」 と大声で泣き始めた一護。 「返せ!返せよ!ちくしょう!」 「宝物?あんなモノがかい?」 謝るどころか哂いながら一護を腕に抱こうとした瞬間、何処からともなく二人の人物が現れた。 「なに泣いてやがる?一護」 「全く・・いつまで経っても子供だな」 フード付きのコートを頭から被った人魚だった。声からして二人とも男の様だ。 「ひっく・・・、この声・・・。まさか、白?天鎖?帰って来たのか!」 「ああ、漸くな・・・。一護、そいつらなんだ・・・?」 フードの奥から光るのは殺意の籠った視線。 「こんなヤツ知らないよ!もう帰ろ?ハリベルも喜ぶよ!」 と二人を連れて帰る一護。二人は後ろの男を用心深く見ていたが一護と共に棲家へと帰っていった。 「あ〜もう!むかつく!何だよ、あいつ!でも二人が帰ってきてくれて嬉しい!遠くのお話聞かせてね!」 「ああ」 棲家に着くと一護と一緒の部屋に行きコートを脱ぐ二人。 「改めてお帰り!白!天鎖!」 白と呼ばれた男の人魚。その名の通り髪から肌から真っ白だ。鱗は乳白色で光を虹色に反射している。尾ひれは真っ白だが黒く縁取られている。 「ああ、ただいま。一護」 ワシャワシャと一護の頭を撫でる。その隣りに居る少し背の低い天鎖と呼ばれた人魚。黒髪に蒼い眼をした少年だった。 鱗は眼と同じ蒼。尾に行くにつれ濃くなる色は尾ひれに行くと薄くなり透き通っている。 一護は二人の尾ひれが好きで良く光に透かしては飽きずに眺めている事がある。 「今回のお仕事はどうだったの?」 「ああ、色々と収穫もあったぜ」 と話に花が咲こうと言う時にハリベルがやってきた。 「一護、居るか?」 「なに?ご用?」 「ああ・・・、藍染様からの使いが来ているが・・・」 「会いたくないって言って。今日は気分が悪いんだ・・・」 尾ひれを摩る一護。 「だが・・・」 「うるせえぞ。一護が会いたくねえって言ってんだろうがよ。消すぞ」 「止さないか、白」 「すまない、一護。だが明日にも藍染様が来るのだぞ」 「なんで俺が会わなきゃいけない訳?勝手に来るんでしょ?」 相当機嫌が悪いのか、ハリベルにまで棘のある言葉を投げつけてしまう一護。 「では、そう言っておこう。今日の所は帰ってもらうよ」 と部屋から出ていったハリベル。 「はあぁあ〜・・・」 と思い溜息を吐く一護に白が、 「おい一護、藍染って誰だ?」 と訊ねた。 「ん〜?何かこないだから俺に求婚してる北の海の男だってさ!」 「ほお・・・」 「男ぉ?」 「うん。会ったことも無いのにさ・・・。やだなぁ・・・」 ボフン!とベッドに倒れ込むと、 「なんで知らないヤツと結婚なんかしないといけないんだ?好きな奴と一緒になりたいよ・・・。俺の幸せの為には受けろっていうけどさ、それって幸せなのかな・・・?」 はぁ・・、と溜め息を吐く一護。 「なんだ?好きなヤツでも出来たのか?」 「べつに・・・。例えだよ」 とはぐらかす一護。 その日は夜まで二人の話を聞き、一緒に食事をした一護。 そしていつもの時間に剣八に会いに行った。 「剣八・・・」 「おう、今日は遅かったな。・・・どうした、辛気臭え顔してよ。ん?」 頬に張りついた一護の髪を耳にかけてやりながら、掠めるだけのキスをした。 「ん・・・。ちょっとね、嫌な事があったんだ。良いこともあったんだけどさ」 「ふうん」 岩に座ると昼間の男の話と、長い間離れていた兄弟と従兄弟が帰って来たのだと話した。 「何者だろうな、そいつ」 「ごめんな?折角剣八がくれたのに」 「構わねえよ。幾らでもやるよ。もっとこっち来い」 「ん、剣八」 束の間の逢瀬を楽しみ、また明日と約束して帰っていく一護と剣八。 「ああ・・・、もっとずっと一緒に居たい・・・。剣八、剣八・・・」 会う前や会っている時は幸せなのに、帰る時は胸が締め付けられるようだ。 この話がこのまま進めば、もう二度と会えなくなるだろう。 「そんなのは、嫌だなぁ・・・」 ぽろりと一筋の涙を零した一護。 そして翌日。 結局藍染と会う事となった一護。 相手を見て愕然とした。そこに居たのは昨日の男だったのだ。 「お前が藍染・・・!」 「そうだよ。ここは初めましてと言った方が良いのかな?一護君」 「なんでお前、俺に求婚したんだ?俺はお前を知らねえぞ!」 「一護!藍染様になんと言う口のきき方だ」 「だってハリベル!」 「そうだね。君は僕を知らないだろうね。でも僕は君を知ってるんだよ。一目見た瞬間に君に心を奪われたんだよ」 甘い言葉を並べたてる男の目を見て一護は直感した。 この男は嘘を吐いている。 「でも俺は全然お前なんか好きじゃないし、好きにはならない。諦めろよ」 「先の事など分からないさ・・・」 「しつこい奴は嫌われるぜ」 「そうかい?でもね、もう君との婚姻は決まったんだよ。ハリベルも快く了承してくれたよ」 「なッ!ハリベル・・・?」 「・・・お前の幸せの為だ」 「どうして・・・」 どうして俺の幸せを勝手に決めてしまうの・・・。 勝手に話を決められ進められた事が悲しかった。そんな一護の背後から藍染がそっと耳打ちする。 「彼女を責めてはいけないよ・・・。彼女はこの南の海を守らなければならないんだ。僕に逆らえば・・・、この海は生き物の居ない海域になってしまうからね・・・」 優しい声と口調なのに背筋が寒くなった。 「式は3日後だよ。楽しみにしてるよ」 と底なしの暗闇をたたえた目で笑った。 その後、白と天鎖がハリベルと大喧嘩をしていた。 一護は、 「気分が悪いから」 と部屋に籠っていた。 そして夜が来た。 第4話へ続く 11/09/13作 藍染様の登場です。初書きじゃないかな?難しいですね。このお人は。 さて、お次は・・・? |
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