題「人魚の嫁入り」16 | |
隊首会が終わり、剣八と一緒に十一番隊へと向かう京楽と、その腕に抱かれている白。 京楽は陽の光を反射する白の髪をうっとりと眺めている。 風にさらさらと靡く絹の様な艶やかな髪は白の顔を少し隠し儚げに見せている。 「で?そいつはいつコッチに来たんだ?」 と前を歩く剣八が振り向きもせずに聞いて来た。 「え?ああ、多分昨日じゃないかな?雨乾堂の池に居たんだけど・・・」 と白を見る。 「着いたのは昨日だ。海を出たのはもっと前だけどな」 と白が言った。 「ふうん・・・その割にゃ綺麗な足だな。一護の足はもっとボロボロだったけどよ」 「ああ、昨日僕の鬼道で治したんだよ」 「ああ、それでか」 「一護の足、そんなに怪我してたのか?」 と心配そうに聞いて来た白。 「ああ、傷だらけで親指の爪が一枚剥がれてたぜ。ま、もう完治してそこら中で遊んで来るけどな」 そんな思いまでして一護はこいつに会いに来たのか・・・。海に居る時に好きな人と一緒になりたいような事を言っていたのを思い出す。 「おう着いたぞ」 剣八のその声にハッと前を見ると門の前に来ていた。 隊舎の中に入ると隊士達が挨拶してくる。そんな中を隊首室まで付いていく。 隊首室の扉を開けると、 「お帰りなさい!剣八!」 と一護が抱きついて来た。 「おっと!良い子にしてたか?一護」 「うん!剣八居なくて寂しかった!」 抱きついてグリグリと顔を擦り付けている一護に白が、 「一護!」 と叫んだ。 「え!あ!白!?」 剣八から離れると京楽に抱かれている白の傍に歩み寄った。 「ほ、本物?ね?本当に白?」 両手を伸ばし白の頬に触れる一護。その手を掴んだ白。 「本物だ。お前を探して海から上って来たんだ・・・。一護、一護、逢いたかった!」 「白・・・!白、白!良かった、元気そうで・・・。天鎖は?ハリベルは?元気なのか?」 「俺が出てくるまでは皆いつもと同じだ」 「そうか・・・。あ、京楽さん白が重いよね?ソファに下ろして良いよ」 と言われた。 「ああ・・・うん」 少し名残惜しそうに来客用のソファに白を下ろすとその隣りに座る一護。 二人はお互いの両手を繋ぎ、額を合わせて色々あった出来事を話しあった。 剣八との出会いから離別、そして輿入れした後の事を包み隠さず自分の片割れに話して聞かせた一護。 一通り、一護が自分の身に起きた事を話すと白が、 「やっぱりアイツの狙いは真珠だったか・・・」 と憎々しげに呟いた。 「ん・・・、でももう真珠は剣八の物だから・・・」 と剣八の方を見る。そんな一護に抱きつく白。 「一護、俺はもう帰らねえ。お前を売って自分の身の安全を買った奴らの居る海になんか帰らねえ!俺も此処で暮らす!」 「白・・・。俺は誰も恨んでないよ。ハリベルだって仕方無かったんだから・・・」 「それでもだ!お前は俺の片割れなんだ。一緒に居る・・・!」 「俺も、白が居てくれたら嬉しい・・・。ずっと心配してたから・・・」 サラサラと白の髪を撫で、あやしてやる一護。 「一護・・・!」 余りにも長い時間そうしていたので、剣八が無言のまま二人に近づくとベリッ!と音がしそうな勢いで一護から白を引っぺがし、 「おい・・・」 と京楽に声を掛け、そちらに向かって白を放り投げた。 「うわっ!ちょ!何すんの!剣八さん!」 ちゃんと抱きとめた京楽が抗議している間にソファに座り、一護を自分の膝に乗せ抱きこむと、 「さっさとそいつ連れて帰れ」 と不機嫌も露わに言い放った。 「剣八!」 「うっせえ!」 怒る一護の身体を抱き上げ、部屋から出て行った剣八。 「なんだ!あんにゃろう!」 「うん、まあ。気持ちは分かるけどねぇ・・・」 「なんでだよ」 「自分の愛する人が他の男とぴったりくっ付いてたら面白くないって事さ。君だって分かるでしょう?」 「う・・・まあな」 「それに一護君は剣八さんの奥さんな訳だしねぇ」 「認めねえぞ!俺ぁ!」 「はいはい。取り敢えず僕の家に行こうねぇ〜」 「うっせ!離せってんだ!ひげ!」 姫抱きにされた白は、今朝からの儚さが嘘のようにじたばたと暴れまくっている。 「は〜いはいはい。話は帰ってから聞いてあげるからね」 「うぅっわ!」 いきなり瞬歩を使って十一番隊を後にした。 取り敢えず自分の屋敷に着くと、昨日使っていた部屋へと連れて行った。 「疲れたでしょう?お昼寝すると良いよ」 「一護のとこに行く!」 「今追い出されたとこでしょう。明日また行くと良いよ」 「でもここ俺の家じゃねえもん」 ぷい!とそっぽ向く白。 「なんだ、そんな事?これからずっとここに住んで良いよ。無駄に広い屋敷だからね」 「・・・・・・」 「ゆっくり歩く練習をして、自分から会いに行くのも良いんじゃないかい?」 「なんで・・・」 「ん?」 「なんでだ?なんでそこまでする?何が目的だ?!俺の血肉か?!」 「そんな物、要らないよ・・・。僕が欲しいのは・・・」 一瞬にして間合いを詰められ、敷いてあった蒲団に押し倒された白。 「ッ!」 見上げると先程までの優しい目が嘘の様な、射竦めるような強い目で自分を見つめる京楽が居た。 「僕が欲しいのは、君自身さ。君の心とね」 「あ・・・」 こんな激しい想いをぶつけられた事など無い白は竦みあがってしまった。 「そんな顔しないで・・・」 と優しく髪を撫でると身体を離した京楽。 「僕はお仕事に行ってくるけど、ちゃんとここで待っててね?」 そう言うと護廷へ帰って行った。 護廷の自隊に戻ると七緒に怒られた。 お昼には一度家に帰り、白と食事をしてから仕事に復帰した。 一護は剣八が離してくれないのでずっと二人で部屋に籠っていた。 「剣八?」 「・・・・・」 ずっと無言で自分をぎゅうぎゅうと抱きしめている剣八の頬に手を伸ばすと話し始めた。 「あのね剣八、俺と白は双子の兄弟なんだ」 「・・・ああ」 「もう一人従兄弟に天鎖って言うのが居るんだ。天鎖は蒼い人魚でね、俺より少し背が低いんだ」 「・・・」 「白と天鎖は二人で一緒に遠い所に行っては俺達の居た南の海が良くなる様に色々してくれて・・・。俺は付いて行けないから長い間ずっと留守番で・・・」 「ああ」 「俺は二人が仕事を終えて帰って来たらずっと一緒に過ごしてたんだ。一緒にご飯食べて一緒に寝て、遊んで、二人の尾ひれを光に透かして眺めたりしてた。それがずっと続くんだって信じてたんだ」 「・・・ああ」 「俺、剣八が大好きだよ。でも白と天鎖はね、俺の家族で、だから」 「もういい」 「剣八!」 「分かったって言ってんだ。俺も悪かった。・・・なんかお前を取られたみてえに思ったんだよ・・・!」 ぷいっとそっぽを向く剣八に一護は少し驚く。 「俺の心は剣八のものなのに・・・。剣八は俺の旦那様なんでしょ?」 「・・・当たりめえだ」 「ふふ・・・」 どちらからともなく口付けを交わす二人。 夕刻になり、京楽の所に弓親が現れた。 「今晩は、京楽隊長」 「うん、今晩は。どうしたんだい」 「ええ、うちの隊長から伝言を。『飯がまだならうちに来い。白を忘れんなよ』だそうです。もし宜しければうちに泊まって下さって結構ですが・・・。どうされますか?」 「しょうがないじゃない。白君の為だもの」 「ではそのように伝えますね」 と帰って行く弓親を見送りながら、 「やれやれ、剣八さんも甘いねぇ・・・」 と屋敷で独り待つ白にこの事を伝える為、瞬歩で帰った。 十一番隊に着くと一護に出迎えられた京楽と白。 「いらっしゃい!京楽さん!白!」 剣八の自室では夕食の準備がされていた。 「飯食ったら泊まってけ」 と言う剣八におや?と思った京楽だったが、ちらりと見えた一護の首筋に赤い跡を見つけ、なるほどねと納得したのだった。 白は初めて見る食べ物に興味津々で一護とはしゃぎながら楽しんでいた。 食事が済むと、客間に敷かれた蒲団に二人で寝る一護と白。 京楽と剣八は遅くまで酒を飲んでいた。 翌日、二人が一日中くっ付いて居るのでまた引っぺがす剣八と、 「仲が良いのは良いけど、くっ付きすぎだよ!」 と白を抱き寄せ、拗ねる京楽が居た。 第17話へ続く 12/03/08作 一護には甘い剣八です。お昼にあんあん言わされてます。夜に抱けない分を抱いたっていうね。 04/17加筆しました。 |
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